アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 599

エピソード記憶とは、個人的に体験したことや出来事の記憶である。

                                         *

【公判調書1876丁〜】

              「第三十九回公判調書(供述)」⑨

証人=新井  実(三十五歳・埼玉県警察本部刑事部鑑識課勤務、技術吏員)

                                         *

橋本弁護人=「一般的な話ですけれども、先ほどガラスなどには指紋が残りやすいという話がありましたですね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「それはどういうわけでしょうか」

証人=「ガラスとか陶器の場合とかですね、面が滑面体でございますから比較的出やすいということですね。万年筆の場合も滑面体ですけれども、これは先ほど申し上げましたようにこれは脂肪とかそういうものが多分に乗っておる関係上、取りずらいということです」

橋本弁護人=「万年筆は検体の性質というよりも、それが人間の手によって脂肪とかが乗っておるから取りずらいと」

証人=「はい」

橋本弁護人=「そうすると、万年筆が工場から出てきたほやほやのものならば、万年筆も指紋が取りやすい検体であると、こう言ってよろしいでしょうか」

証人=「はい。ただですね、万年筆も合成樹脂の材料ですか、あの場合は粉末が静電気を起こすんです。静電気を起こす関係上、技術的にもむずかしいということは言えると思います。ガラスとか、そういうものと比べると」

橋本弁護人=「検出方法がむずかしいと、そういうことなんですね」

証人=「検出の仕方がむずかしいということですが」

橋本弁護人=「あなたが検査をした万年筆はどういう製品ですか。わかりますか」

証人=「それは記憶にありません」

橋本弁護人=「それから、先ほど検出する場合に肉眼で観察すると言いましたね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「これは何か設備を使ってやりますか」

証人=「これはそれほどの設備じゃございませんが、拡大鏡で大体見ていくようにしております」

橋本弁護人=「拡大鏡ですか」

証人=「はい」

橋本弁護人=「どういう場所で本体の場合見ましたか」

証人=「これは指紋を検出した場所でですね」

橋本弁護人=「そうしますと、昼間ですか、夜間ですか」

証人=「時間は昼間じゃなかったかと思うんですけれども、ちょっとわかりませんけれども」

橋本弁護人=「つまり、あなたが検体を観察したのは電灯の光ですか、太陽の光ですか」

証人=「電灯の光を使いました。この場合、写真撮影用のライトがございますね。五百ワットですか、フラット・ランプを使ったと思いました」

橋本弁護人=「あなたが観察をしたときに、主としてその隆線の存在を確かめるために観察をしたんですね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「そのほかに何か万年筆に異常を認めることはなかったですか」

証人=「別に認められませんでした」

橋本弁護人=「たとえば、インクが漏れておるとか、汚物が、異物が付着しておるとか」

証人=「そういう状態はなかったと思います」

橋本弁護人=「本件の万年筆は被告人の自宅の鴨居の上から取り出されたというふうに捜索差押のあれがあると思いますけれども、そのことをあなたは指紋検出の折には聞いていないんですか」

証人=「ですから、捜索をしに行ったということは聞いております」

橋本弁護人=「被告の自宅に捜索に行ったということですか」

証人=「そういうことです」

橋本弁護人=「万年筆がどこから取り出されたということは」

証人=「聞いておりません」

橋本弁護人=「たとえば、ほこりみたいなものですね、こういうものが付着しておる場合、あなたの肉眼観察では発見できますか」

証人=「ほこりが付着している場合ですか、単にほこりですか」

橋本弁護人=「ほこりです」

証人=「単にほこりが付着していれば肉眼的に見てわかるんじゃないかと思いますけれども。これは指紋検査をすることとは別にそれだけやれば」

橋本弁護人=「それはほこりが付着しておれば、肉眼観察をすれば認めることが可能であると、こういうことですね」

証人=「まあ、ほこりの度合にもよりますけれどもね」

橋本弁護人=「あなたが本件の万年筆を観察した際、ほこりの付着について気がつきませんでしたか」

証人=「気がつきませんでした」

橋本弁護人=「万年筆の色彩を憶えておりますか」

証人=「憶えておりません」

                                         *

○次回へ続く。

これは推測にすぎないが、万年筆に「ほこり」が付着していたかどうか、という問題は、万年筆が鴨居の上に長期間置かれていたかどうか、ということと直結し、すると新井証人の、「ほこり」は確認出来なかったと述べる証言は、それが鴨居上に置かれていた期間は短く、すなわち万年筆は発見される直前に鴨居上に置かれた、という解釈が成り立つことにつながらないだろうか。が、しかし捜査員がこの万年筆を押収し鑑識係へ渡すまで、どのような取り扱いであったか不明であり、先走った意見は慎もうと気付く。