アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 593

【公判調書1863丁〜】

               「第三十九回公判調書(供述)」③

○証人=新井  実(三十五歳・埼玉県警察本部刑事部鑑識課勤務、技術吏員)

植木弁護人=「あなたは中田善枝さんが誘拐されて殺害されたという事件ですね、三十八年の事件。これにどの程度に関与されたんですか」

証人=「これは私、捜査本部詰で、所属長から命ぜられまして、狭山警察署の助勤として五月四日ですか、四日から約一ヶ月半位、特捜本部詰をしておりました。後半は隔日勤務になりましたが」

植木弁護人=「そして何をおやりになったわけですか、具体的には」

証人=「指紋検出を主にやりました」

植木弁護人=「指紋検出だけですか」

証人=「はい、そうです」

植木弁護人=「それ以外は」

証人=「それ以外、庶務的な仕事はやりましたです」

植木弁護人=「指紋検出をおやりになったということですが、どんなものをおやりになった記憶がありますか」

証人=「牛乳ビンとか、新聞紙ですか、そういうものを記憶しています」

植木弁護人=「それだけですか」

証人=「あとはちょっと記憶にないですね」

植木弁護人=「万年筆は」

証人=「万年筆は記憶にあります」

植木弁護人=「(検察官の昭和四十五年六月十七日付証拠調請求書証拠三に記載の昭和三十八年六月二十六日付証人作成の〈指紋印象の有無、検査結果について〉の報告書一通を示す) それはあなたがお書きになった字ですか」

証人=「はい、間違いありません」

植木弁護人=「そうすると、あなたの筆跡だとすればあなたのものに間違いはありませんね」

証人=「はい」

植木弁護人=「記憶しておられますか」

証人=「記憶しております」

植木弁護人=「その内容についても現在記憶しておりますか」

証人=「大体記憶しているように思いますが」

植木弁護人=「それは裏に写真が付いてますね」

証人=「はい」

植木弁護人=「その写真にある万年筆の指紋検出の作業をした結果の報告ですね」

証人=「そうだと思いますけど」

植木弁護人=「その万年筆についても、ある程度記憶が残っておりますか」

証人=「そうですね、万年筆そのものの形とか、そういうものは今ここに見させてもらって、初めてああこういう物だったかと思ったんですが、形とかそういうものはわからなかったですね」

植木弁護人=「その文書を御覧になって結構ですが、その万年筆について、どういう方法で指紋の検出をされましたか」

証人=「これは初めですね、隆線特徴を損失しないように、まず、まあ肉眼的に検査をしまして、後、固体法、先ほど申しましたアルミニューム粉末ですが、これによって検出を行ないました」

植木弁護人=「一つ伺いますが、その万年筆はあなたが検査に着手するときですね、どういうような状態であなたの手に入ったんでしょうか」

証人=「これ私は誰から私のところへ持ってきたかということは記憶に、もうないんですが、二十六日ですか、この日の午後だったと思うんですけれども、特捜本部員の幹部の方だと思うんですが、持ってきましてこれを指紋検出してくれと、至急してくれということで私が着手したわけです」

植木弁護人=「万年筆はどういう状態にありましたか」

証人=「それはもう、ちょっと記憶にないですね」

植木弁護人=「どんな入れ物に入っていたか、裸であったか」

証人=「これが裸であったか袋に入っていたものか、それは記憶にないですね」

植木弁護人=「そうすると、すぐに着手されたわけですか」

証人=「私がおったか、おらなかったか分からないんですが、すぐ幹部に命ぜられまして、すぐ着手したと思うんですが」

植木弁護人=「あなたの協力者または補助者といった者がないんですか、あなた一人ですか」

証人=「はい、この日はおりませんでした」

植木弁護人=「そうすると、検査は最後まで一人でおやりになったわけですか」

証人=「はい、私個人でやりました」

植木弁護人=「まず肉眼検査をおやりになるわけですね」

証人=「はい、そうです」

植木弁護人=「肉眼検査の結果、どの程度にあなたにその指紋に関する状態が認識されたか憶えていますか、憶えていたら述べて下さい」

証人=「初めに手にとって肉眼検査をしましたところ、指紋らしいものはほとんど見えなかったわけなんです。しかし、まあ粉末を塗ることによって若干出る可能性があるんじゃないかということでもって粉末を使用したわけです」

植木弁護人=「その万年筆を最初手にとったときにはゴミ、その他の付着物が付いておったか、どの程度に付いておったのか、あるいは、そういうものが全然付いておらなかったのか、その点はどうですか」

証人=「それは記憶にないです」

植木弁護人=「何か印象に残ってませんか。現在」

証人=「別に印象には残ってないです。ただ三個とったということですね、ここに書いてありますですね、一応、指紋を転写する紙がございますが、転写したということだけ記憶にあります」

植木弁護人=「一般的にお聞きするわけですが、万年筆について指紋の検査をしたということは相当数がありますか、あなたの場合」

証人=「あまりないですね」

植木弁護人=「あまりないとおっしゃいますと、具体的にどのぐらいおやりになりましたか」

証人=「これは単なる空巣事件とか忍び込み事件とかそういう事件で現場へ行くことがございますので、そういう現場でポケットから金を持って行ったとかそういう事案がございますので、そういう場合に万年筆から指紋採取することがございます」

植木弁護人=「回数にしてどのくらいおやりになった記憶がありますか」

証人=「それほどはないですね」

植木弁護人=「ですから、およそ」

証人=「まあ、三、四回じゃないかと思いますが」

植木弁護人=「そんなものですか」

証人=「はい」

植木弁護人=「そうしますと、それは三十八年頃という時点で考えた場合どうですか。その場合は本件の万年筆は初めてですか、初めてでなかったですか」

証人=「三十八年としますというと、初めてじゃないかと思うんですけれども」(次回へ続く)

                                          *

○驚くべきことに、本件証拠品「万年筆」の指紋検出作業は初心者が行なっていたという事実がここで曝け出された。一般論としてだが、警察当局は事件の重大さを鑑み、証拠物の指紋検出には、その道に長けた年季の入った鑑識課員を充てるべきであったと考える。証人のような初心者は補佐役として傍に立たせておけばよいのである。しかしながら今回の引用文はまだ途中であるから先走った意見は慎もう。

 

新井  実・埼玉県警察本部刑事部鑑識課勤務・技術吏員が指紋の検出作業を行った万年筆 (写真は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用)。