【公判調書1881丁〜】
「第三十九回公判調書(供述)」⑪
証人=小堀二郎(三十八歳・埼玉県警察本部刑事部鑑識課勤務)
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裁判長=「最初にあなたの経歴を簡単に聞きますが、いつ警察に入りましたか」
証人=「昭和二十五年です」
裁判長=「二十五年何月ですか」
証人=「二十五年五月」
裁判長=「どういう地位に最初は」
証人=「最初は書記です」
裁判長=「それからどういう風に変わってきましたか」
証人=「あと、主事になりまして、ただ今」
裁判長=「今のような鑑識課員になったのはいつからですか」
証人=「二十五年十月」
裁判長=「同じ年ですか」
証人=「はい」
裁判長=「県警本部の」
証人=「はい」
裁判長=「それでどういうことをやっていましたか」
証人=「写真係をやっていました」
裁判長=「それから終始一貫して写真係ですか」
証人=「はい、現在まで」
裁判長=「そうすると、ほかの鑑識関係やったことはないんですか」
証人=「ありません」
裁判長=「そうすると、今の地位は主任とか」
証人=「写真主任です」
裁判長=「いつなりましたか」
証人=「今年の十月一日になりました」
裁判長=「四十五年のね」
証人=「はい」
裁判長=「それまではどういう地位だったんですか」
証人=「写真係です」
裁判長=「そうすると、課長がいまして、その次に主任がいるわけでしょう。主任がたくさんいるわけですね」
証人=「いや、係長がおります」
裁判長=「それから主任がずらっと並ぶ」
証人=「はい」
裁判長=「そうすると、あなたは写真の中では二十五年から今日まで二十年になりますがね、その間にだんだん古くなっていったんだろうと思うんですが、いつ頃からもっともその経験を積んだ写真係という地位になったんでしょうか。まあ、もっと具体的に聞くと三十八年頃はどういう地位だったですか。たとえば係員が何人いると、その中で自分が上から数えて何人目ということでもいいですが」
証人=「当時三人おりまして、三人が交替で事件を担当していたわけです」
裁判長=「あなたはその中で古参だったんですか」
証人=「まあ、古参ですね」
裁判長=「三十八年当時」
証人=「はい」(以上、佐藤房未)
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植木弁護人=「その写真に見覚えありますか(検察官の昭和四十五年六月二十七日付証拠調請求書・証拠三に記載の昭和三十八年六月二十六日付新井実作成の〈指紋印象の有無、検査結果について〉の報告書を示す)」
証人=「あります」
植木弁護人=「あなたが撮影されたんですか」
証人=「ええ」
植木弁護人=「そうしますとあなたもその、万年筆からの指紋検出結果の報告書なんですけれども、その指紋検出の作業には立ち会っておられますか」
証人=「検出作業には立会いません」
植木弁護人=「そうすると写真はいつ撮ったんですか」
証人=「ここに書いてある通り三十八年六月二十六日、特捜本部、結局堀兼の出張所で撮りました」
植木弁護人=「それは指紋検出の作業をやる前ですか、あとですか」
証人=「前ですね」
植木弁護人=「そうしますとこの万年筆の撮影された時の状況は、指紋検出作業前の状況であるというわけですね」
証人=「そうです」
植木弁護人=「あなたはその万年筆の状況について多少でも記憶がありますか」
証人=「記憶ございません」
植木弁護人=「その万年筆は誰から手渡されて撮影されたんですか」
証人=「ちょっと記憶にございませんが、多分検証官の捜査一課の小島警部からの依頼だと思います」
植木弁護人=「渡される際に、写真を撮れということですか」
証人=「はい」
植木弁護人=「この検出の作業を行なった、先ほど来ておりました新井さんから頼まれたわけではない」
証人=「上司からの依頼ですね」
植木弁護人=「上司といいますのは小島さんという意味ですか」
証人=「捜索に立会ってますから、多分小島警部からの依頼だったと記憶しております」
植木弁護人=「そうしますと、あなたは即日、現像焼付等はされたんですか」
証人=「そうです」
植木弁護人=「それを新井さんに渡しただけですか、それとも上司のほうに提出して上司から新井さんにまわったものでしょうか」
証人=「ええと、多分一部は係のほうにまわしてありますけれども上司のほうに提出してあります」
植木弁護人=「一部係のほうと言われますのは」
証人=「記録のためですね、指紋がどこに付着していたかという位置のメモをするための写真を、係に一枚渡してあります」
植木弁護人=「その万年筆がよごれておったか、きれいであったかは覚えておりますか」
証人=「ちょっと記憶ないですね」
植木弁護人=「新しいものの様にピカピカしておったか、少し古いものの様な光沢が失われておったか、そういう点はどうですか」
証人=「ちょっと記憶が薄れました」
植木弁護人=「例えばほこりをかぶっているとか、ほこりをかぶっていないという点はどうですか」
証人=「記憶ないですね」
植木弁護人=「特に記憶に残るような、ちょっとした、普通のものと変わったところというか、異常なものというような点は」
証人=「いいえ」
植木弁護人=「それもありませんか」
証人=「はい」
植木弁護人=「ここに一号、二号、三号と書き加えてございますが、これはあなたが書いたものでは」
証人=「これは指紋係の新井が書いたものだと思います」
植木弁護人=「とにかくそこは部分を示してあるんですが、そういうものを見て、そこに何があったとか無かったとかいうことについて思い出すことありませんか」
証人=「ありませんですねえ」
植木弁護人=「何もないですか」
証人=「ええ」
(続く)
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○さすがに七年前の事を思い出せと言われても、そこには無理があることは致し方ないであろう。
写真は被害者の物とされる万年筆。("無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用)