アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1042

『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』

写真は事件当時の狭山市堀兼地区。

【公判調書3256丁〜】

                  「第六十回公判調書(供述)」(昭和四十七年)

証人=山下初雄(三十四歳・農業) 

                                            *

樺島弁護人=「それから遺書の件ですが、幸せにお暮らし下さいという文句以外に覚えていないと言いましたね」

証人=「はい」

樺島弁護人=「しかし、その日あなたは、先ほど仰ったように、なぜ死んだか、なぜ自殺したか、ということについては、最大の関心を持っておられたでしょう、それも忘れましたか」

証人=「なんで死んだか・・・・・・」

樺島弁護人=「つまり、自殺をしたんなら自殺をしたで確認しますが、自殺であることは疑っておられなかったですね、ひょっとしたら、他殺だと思いましたか」

証人=「そうじゃない、周りから、自殺だということですから」

樺島弁護人=「信じておられた」

証人=「はい」

樺島弁護人=「自殺だということを信じておられた上で、じゃ次に問題になるのは、近しい者としてはなぜ、自殺をしたかということで、問題になる。あなたとしては、当然そのことについて関心を払っておられましたね、それも忘れましたか。これは松本先生も仰ったので繰り返したくないのですが、秋には結婚することになってた、その相手が自殺した。なぜ死んだかということについて、あなたは興味を持たなかったか、それさえ、はっきり答えられないというのはどういうことですか」

証人=「・・・・・・・・・・・・」

樺島弁護人=「何、考えてるんですか」

証人=「なぜ自殺したか、疑問に思わなかったか、ですか」

樺島弁護人=「なぜ自殺したか、知りたいと思わなかったですか」

証人=「はい、思いました」

樺島弁護人=「遺書を見て、そこに大体、遺書を書く場合は、大概の場合、自分はなんで自殺するか、ヒントだけでも書いて死んでいくものです、そうですね」

証人=「はい」

樺島弁護人=「そしたら、その遺書の中に、自殺の原因らしきことが書いてあったか、なかったか。内容を覚えてないことは分かりました。書いてあったかなかったか、覚えていませんか。なぜ自殺をしたか、最大の関心を払ったはずです、遺書を見たんだから、その遺書中に自殺の原因、あるいは原因のヒントみたいなものが書いてあったかなかったについて、あなたは関心を払って読んだはずですが」

証人=「本当に分かんないです」

樺島弁護人=「分かんないというのは、当時から分かんなかったのか、今、覚えてないのか」

証人=「・・・・・・・・・」

樺島弁護人=「当時も分かんなかったのか、それとも当時のこと、全然記憶がないのか」

証人=「記憶がないんです、分かんないんです」

樺島弁護人=「今、記憶がないんですか」

証人=「はい」

樺島弁護人=「じゃ、遺書中に自殺の原因のことについての記載があったかなかったか、分からないんですね、今記憶がないんですね」

証人=「はい」

樺島弁護人=「じゃ、当時は何か覚えてましたか、当時発見した記憶がありますか」

                                            *

裁判長=「ちょっと弁護人、それは無理じゃないですか」

樺島弁護人=「あんまり、僕はふざけてると考えるんです」

山梨検事=「原因が分からんのは、ノーベル賞作家の自殺もあるんですから」

樺島弁護人=「だから遺書中に自殺の原因の記載があったか聞いてるんです」

樺島弁護人=「葬式が、あったかなかったかも、あなたは、後で聞いてないんですか」

証人=「あったか、ないかですか」

樺島弁護人=「そういうことに関心を払わなかったですか、人が亡くなると葬式があるでしょう」

証人=「記憶がなくなって・・・・・・」

樺島弁護人=「人が死ねば、葬式があることは一般常識として知ってるでしょう」

証人=「それは知ってます」

樺島弁護人=「そしたら、もうじき結婚する予定になってた人が亡くなった場合には、葬式がいつあるのか、どこであるのか、当然あなたは関心を持っておられたでしょう。あったかなかったも知らないですか」

証人=「とにかく、記憶忘れちゃって、少しばかなものですから」

樺島弁護人=「どんなばかだって、結婚する相手の葬式のことぐらい知ってますよ」

証人=「・・・・・・・・・」

樺島弁護人=「葬式あったんでしょう、そして、あったことは、あなた、知ってたんでしょう」

証人=「・・・・・・・・・」

樺島弁護人=「これは、是非とも私は答えていただきたいと思います」

                                            *

裁判長=「このままにおいて、答がないという状態で必要があれば判断すればいいと思います」

樺島弁護人=「僕は、これは、事実上の証言拒否だと思います、刑事訴訟法に抵触すると思います」

裁判長=「それならそのようにあなたはステップをお取りになったらいいでしょう、だって忘れたと言ってるんですからね」

(続く)

 

 

狭山の黒い闇に触れる 1041

『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』

写真は事件当時の狭山市堀兼地区。

【公判調書3252丁〜】

                  「第六十回公判調書(供述)」(昭和四十七年)

証人=山下初雄(三十四歳・農業) 

                                            *

宇津弁護人=「あなたと登美恵さんとの間では、登美恵さんが亡くなるまでの間に肉体関係というか、性交渉はございましたでしょうか」

証人=「ありました」

宇津弁護人=「登美恵さんは、あなたのうちに来て泊まっていくことがありましたか」

証人=「ありません」

宇津弁護人=「あなたが中田さんの家のほうに行ってお泊まりになるということはありましたか」

証人=「ありません」

宇津弁護人=「それから、別のことですけれども、先ほど、新狭山のお巡りがあなたの所へ来たそうですが、結局何か、名前を書いて、判子を押したことがありましたか」

証人=「ないです」

                                            *

樺島弁護人=「証人は、先ほど裁判長がちょっと触れられたのですが、証人喚問を最初どういう形で受けましたか。何か書面が来ましたか、裁判所へ来いという」

証人=「ええ、初め連絡来ました」

樺島弁護人=「どこから」

証人=「裁判所だと思います」

樺島弁護人=「裁判所から手紙の形で連絡を受けたんですね」

証人=「先に電話がありました」

樺島弁護人=「それは誰からですか、裁判所の職員からですね」

証人=「とにかく、そのうち書面が着くだろうということで」

樺島弁護人=「それに対してあなたは、自分は関係ないし、行きたくないと言われたのですか」

証人=「はい」

樺島弁護人=「それ詳しく教えてもらえませんか」

証人=「行きたくないと、まあ、仕事も忙しかったり、直接石川さんの事件のあれでなんか関係ないと思ったから、仕事なんかもあったから一応拒みました」

樺島弁護人=「もう一度聞きますが、電話をかけた人の名前は覚えていませんか」

証人=「言ったのは言ったと思いますが書類のあれと同じじゃないですか」

樺島弁護人=「書記官というようなことを言ってましたか」

証人=「書記官・・・・・・」

樺島弁護人=「書類のあれと一緒じゃなかったかというと、そのときあなたが電話で聞いた人の名前と、後から来た書類の名前は同じ名前だったですか」

証人=「同じだったと思いますね」

樺島弁護人=「それで、大体どういう内容について証言することになるというようなことも聞きましたか」

証人=「聞かないです、ただ出頭してくれという連絡を受けました」

樺島弁護人=「電話の長さはどれくらいですか」

証人=「出頭してくれという電話で、それだけです」

樺島弁護人=「電話がかかってきて、自分がそれをとって、受話器を下ろすまで何分くらいですか」

証人=「二分か、そこらだと思います」

樺島弁護人=「出なくないという風に言ったら裁判所はどんな風にに言ってましたか」

証人=「裁判所ですか」

樺島弁護人=「電話をかけてきた人」

証人=「とにかく、一度だけは出て、言ってくれと頼まれましたからね。その時に言ったこと自体において、分からなかったら分からないと答えていいと」

樺島弁護人=「電話がかかってきたのはいつ頃ですか、今日から数えてどのくらい前ですか」

証人=「最初に電話かかったのは、一週間ぐらい前じゃないですか」

樺島弁護人=「それから、先ほど、他の弁護人がお聞きになった新狭山派出所から警察官が来たのは、いつですか」 

証人=「書面が着く前です」

樺島弁護人=「電話がかかって・・・」

証人=「その後です」

樺島弁護人=「これは、裁判長がちょっと触れられたのを援用したいと思いますが、それは何か、証人に出頭することについて警察官から説明があったんですか。裁判所に出頭することについて、何か警察のほうから、行くようにとか、あるいは証人とはこんなものだとかいう風な内容の話があったんですか」

証人=「ないです」

樺島弁護人=「じゃ聞きますが、電話があった後ですか、警官が来たのは」

証人=「最初に電話があってから後です」

樺島弁護人=「書面が到達したのは、いつですか」

証人=「五日くらい前です」

樺島弁護人=「電話があったのが一週間前で、書面が来たのが五日くらい前。警察官が来たのは、電話と書面との間ですね」

証人=「書面が来る前かな・・・・・・」

樺島弁護人=「しかし、警察官がぽっと入ってきて、あんたの住所と名前は何というのかと、それから、皐月の話をして帰るなんて、ちょっと普通じゃ考えられないことですがね」

証人=「ああ、そうですか」

樺島弁護人=「そうですか、じゃないよ」

                                            *

裁判長=「ちょっと弁護人、そういう責めるような尋問は、あまりしないように」

樺島弁護人=「普通の人間であれば警察官が入ってくれば何か、公の仕事をかかえてその人間のところへ来るから、氏名、住所は当然知ってるんだ、氏名、住所を聞いて、皐月の話を聞いて帰るなんてことは、これは普通あり得ないことなんで、大変、弁護士としては不思議に思う、だから聞いてるんです。しかも時期的に言って、裁判所から電話をかけたところが、本人が嫌がったので、だれか警察を通して、裁判所のほうが、これは裁判所の善意だったと思うが、証人のことについて、あなたに話をしてもらったと言いましたね、そういうことを言いましたね、裁判長」

裁判長=「警察を通してと言いません。そのことについては電話聴取書二通ぐらい作成させてありますからご覧下さい」

                                           *

樺島弁護人=「じゃ、それは、全然誤導ですから申し訳ありません。いかにも時期的に狭まっていますし、あなたの説明そのものが、普通の経験上から言っても納得出来ないから」

証人=「おまわりさんのあれですか」

樺島弁護人=「ええ、警察官がやって来るのは、あなた自身が悪いことをしたとか、誰かが、悪いことをしたことについて聞くとか、その他、警察の公務をかかえて来るんですね、さっきの関係と氏名、住所で二十分もかけたとは、いかにも納得出来ないです」

証人=「なんか、別に、時間的に二十分がどうかね、それ自体があれだけど」

樺島弁護人=「あなた自身、警察官が何しに来たか、本当に考えなかったですか、疑問に思わなかったですか。大体そんなこと、馬鹿にしてるじゃないですか、氏名、住所を聞きに来て、皐月の話をして帰る、僕だったら馬鹿にされた感じがするね、誰だってそうだと思うよ。あるいは怖くなる、あなたはそう思いませんでしたか」

証人=「そのときですか、だから電話が先にかかってきたでしょう、だから僕は、そのことについて来たのかなと思ったですよ、お巡りさんは」

樺島弁護人=「そうすると、やはり、証人に出てくれということについての電話と関係ある用事でお巡りさんは来たと思った」

証人=「ええ、そのときはね。だけどその内容は、さっき言った通り住所と、皐月の話をして帰りました」

樺島弁護人=「住所と氏名だけ聞いたんですね」

証人=「ええ」

樺島弁護人=「それは、ほぼ一分程度で終わりますね」

証人=「そうですか」

樺島弁護人=「そうですか、じゃないです。あなたは名前は何というんですか」

証人=「山下初雄です」

樺島弁護人=「住所は」

証人=「先ほど言いました狭山市堀兼○○○○番地、です」

樺島弁護人=「ほとんど、三十秒もかかりませんね、それが二十分というと、ほとんど皐月の話をして帰ったというんですか」

証人=「はい」

樺島弁護人=「あなた、ほとんど皐月の話しかしないので変だと思わなかったですか、ふざけんなと、一言言わないですか」

証人=「言わないです」

樺島弁護人=「何でですか」

証人=「何でって、別に不思議とも思わないし」

樺島弁護人=「そんなこと、よくあるんですか、お宅で」

証人=「ないです」

(続く)

 

 

狭山の黒い闇に触れる 1040

『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』

(写真は事件当時の権現橋付近)

【公判調書3249丁〜】

                  「第六十回公判調書(供述)」(昭和四十七年)

証人=山下初雄(三十四歳・農業) 

                                            *

松本弁護人=「じゃもう一点、あなたが婚約を、まあ結納を交わされたその当時、あるいはその直前かも知れませんが、三十八年の九月三十日頃に、登美恵さんは浦和の地方裁判所に証人として出廷されて証言されておられるんですけれども、さらに三十八年十一月二十一日にも、もう一度出ています。二回、登美恵さんは浦和の地方裁判所に証人として出廷されているんですけれども、少なくとも十一月二十一日は、あなたと結納交わされた後だと私は思うのですがね」

                                            *

山梨検事=「それは、後かどうか分からないですよ、見合いは秋、ということの証言しかありません。誤導されちゃ困ります」

松本弁護人=「私は、思うんだと言ってるんです。誤導かどうかは、私の方で判断して聞いてるんです。十一月二十一日というのは、恐らくあなたが結納を交わされた後だと私は思うのですけれども、その頃に、まあ、婚約期間中に・・・」

山梨検事=「婚約期間中というのはどういうことですか、見合いで始まって、その見合いが秋ということですから・・・・・・」

                                            *

裁判長=「ちょっと待って下さい、端的に聞いて下さい。前提をあまり置かないで」

                                            *

松本弁護人=「あなたが結納を交わした後、登美恵さんが亡くなる七月十四日までの間、交際しておった約半年あまりの間、その間に狭山事件と言われるこの事件のことについて、つまり善枝ちゃん殺しの問題について法廷に出たという風な話を登美恵さんがあなたにしたようなことはありましたか」

証人=「法廷に出たということ自体は聞いたと思います」

松本弁護人=「あまり詳しいことは聞いてないと」

証人=「ええ、聞いてないです」

松本弁護人=「五月二日の晩に佐野屋のところへ二十万円を仮装した紙くずを持ってそこへ行っておったとか、そんな話は聞きましたか」

証人=「聞かないです。登美恵さんに善枝ちゃん、妹さんのことについては聞かなかったです」

松本弁護人=「それからもう一点。善枝さんと登美恵さんとは、同じ姉妹だけど、腹違いだという風なことは聞きましたか」

証人=「聞かないです」

                                            *

山梨検事=「あなたは、籍に入れたのは形式的な入れ方をしたと、さっき仰ったですね」

証人=「はい」

山梨検事=「当時は、進駐軍に勤めておられたというんだが、あと、いろんなほかのものですね、例えば健康保険証とか、そんなのも登美恵さんを入れたんですか」

証人=「入れないです」

山梨検事=「登美恵さんを保険証に入れておったことがあるんじゃないですか」

証人=「忘れちゃったな、本当に。・・・・・・わかんないです」

山梨検事=「記憶を辿ってもらいたいが」

証人=「記憶が鈍くて思い出せないです」

山梨検事=「登美恵さんが亡くなる前に、あなたと何度か会われた時に、身体の具合が悪いというようなことをあなたに訴えたことはなかったですか。それであなたは保険証を貸してやったということはなかったのかな」

証人=「忘れちゃってて、どうにもなんないです、申し訳ないけど、わかんないです。本当に、忘れちゃったです。保険証・・・・・・そんなことがあったか、とにかく思い出せないです」

山梨検事=「それから、先ほど弁護士さんから聞かれた、善枝ちゃんの姉さんだということなんだが、あなたとしては、その問題には特に触れたくなかったという気持ちはあるんですか、二人で話をしてる時に」

証人=「登美恵さんとですか」

山梨検事=「ええ、善枝ちゃんのことは」

証人=「そうですね、別にこっちから聞きもしないし、向こうでも言わなかったしね、自分と登美恵さんのこと自体は話しましたけれども、善枝さんのこと自体あまり話さなかったです」

山梨検事=「それから、また別の話になるんだが、式を翌年の秋という具合に、延びてるんだが、あなたの方としては、一日も早く、挙げて欲しいという申し出をしておったんですね」

証人=「そうです」

山梨検事=「秋にしてくれというのは、向こう側の申し出ですね」

証人=「そうだと思います。向こうでお母さんがいなかった関係で、結局、男衆ばかりになるんで、そんな関係でそのとき兄さんの嫁さんが決まってたのかな」

                                            *

裁判長=「それで、先方には女がいない、で、どうしたって」

証人=「女衆がいないんです」

                                            *

山梨検事=「秋になれば健治さんのお嫁さんでも来るようなことがあったの」

証人=「健治さんのお嫁さんがその時決まってたんじゃないかな、そんなようなことで秋になっていたんじゃないかと思います。その点記憶がないんです」

山梨検事=「先ほど、弁護士さんのほうで、何故あんたが、登美恵さんが亡くなってから葬式にも行かなかったか、線香を上げに行かなかったかということなんだけど、あなたとしては、何故早く一緒にさせてくれなかったかと、遅れたために、そういうことになったと、中田家に対して、おもしろくない感情があったということはないのですか。そんな感じがあったということはどうですか」

証人=「・・・・・・・・・」

山梨検事=「あなたの気持ち、何か説明出来るのなら説明してもらったほうが裁判所もよく分かる」

証人=「・・・・・・・・・」

                                            *

裁判長=「そういうことを言い得るのか、言い得ないのか、どっちでも、自分がその時どう思ったか、言って下さい」

証人=「中田家に対してですか」

山梨検事=「中田家に対してね、まあ、葬式にも、あるいは初七日ですか、線香を上げに行くことがあると思うが、行かなかったのはどうしてかと」

証人=「比較的、女親はいなかったしね、あまり話を、お父さんなんかと、登美恵さん自体も話をしてなかったようですね。別に中田さんを恨むとか、そんなこともなかったと思いますが」

山梨検事=「あなたが行かなかった気持ちです、あなた自身の気持ちを聞いてるんです」

証人=「・・・・・・・・・」

山梨検事=「中田家のほうからあなたに、葬式、あるいは線香を上げに来てくれというあれは、あったんですか」

証人=「それが、なかったと思います」

山梨検事=「向こうのほうからの呼び出しもない」

証人=「はい」

(続く)

                                            *

○松本弁護人は最後の質問として、「善枝さんと登美恵さんとは、同じ姉妹だけど、腹違いだという風なことは聞きましたか」と証人に問うも、「聞かないです」とあっさり返されている。この「腹違い」という語句は、私がB級と見なす狭山事件関連本において恣意的に取り上げられ、事件の真相はこうだ、ああだの愚言の元になっている。それはどうでもいいが、松本弁護人は何らかの情報ソースにより、この尋問を行なったことは間違なく、そのネタ元は?という点が非常に気になるところである。

 

 

狭山の黒い闇に触れる 1039

『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』

(写真は事件当時の狭山市堀兼付近)

【公判調書3246丁〜】

                  「第六十回公判調書(供述)」(昭和四十七年)

証人=山下初雄(三十四歳・農業) 

                                            *

山上弁護人=「ちょっと裁判長、今の尋問に関係しますが、証人は、先ほどから聞いてると、非常に大切なところになると忘れたと言うんです、これは我々の常識から言って、恋人の葬式に・・・・・・」

裁判長=「あなた、恋人恋人とさっきから言われるけれども、そう簡単に言えないようなところがあるんじゃないですか」

山上弁護人=「証人が恋人と言ったんです」

裁判長=「あなたがそう言うから、証人が応じたんで、本当の意味の恋人の定義はむずかしいんで、そういう言葉を使っていいかどうか疑問があります」

山上弁護人=「それは、それとして、少なくとも秋に結婚する、しかも・・・」

裁判長=「だから、それが恋人とは限らないでしょう」

山上弁護人=「恋人はとにかく結婚する人が、恋人でなければイロでもいい」

裁判長=「イロとも言えない」

山上弁護人=「じゃ目立つ人」

裁判長=「見合い結婚をこの人は約束したんで、だから」

山上弁護人=「恋人という言葉を私が使ったときあなたは認めたんじゃないですか」

裁判長=「あなたがそう言ったから認めたようだが、ほかの点を総合すると、多少その点が問題あるんじゃないかと、私は聞いてるんです」

山上弁護人=「そういう人の葬式に出たか、出なかったか、非常に大切な問題ですので、記憶を喚起するように言って下さい」

裁判長=「あなたが喚起されればいいじゃないですか、あなたが喚起されれば十分です」

                                            *

松本弁護人=「もちろんあなたは、正式に結婚する相手の人だということで、愛情を持っておられたと言いましたね、それは偽りのないことでしょう」

証人=「はい」

松本弁護人=「それを恋愛という表現で言うか、どういう言葉で言うかは別ですけれども、とにかく登美恵さんに愛情を持っておられたことは間違いありませんね」

証人=「はい」

松本弁護人=「だから、そのあなたに聞きたいのですが、愛情を持っておって戸籍上は夫婦にもなっておった人の葬式に出たか出なかったか、葬式は出なかったということですが、なぜ出なかったかということです」

証人=「・・・・・・・・・」

                                            *

裁判長=「だから、その答えは、あなた出来るんじゃないの。葬式に出なかった、なぜ出なかったか答えよ、と弁護人は言ってる」

証人=「・・・・・・葬式は出なかったと思います」

                                            *

松本弁護人=「葬式があったことはあったんですか。あったと私は思うんですけど、普通葬式しますね。本当に金のない人で、でけん人もありますけれども、中田さんのような家庭ならそれだけの資力は十分あるから、普通の家庭だったら簡単な葬式はしますよ。行かなかったということは、葬式があったことを知ってたけれども、何か行きたくなくて行かなかったのかと聞いてるんです」

証人=「とにかく忘れちゃいました」

松本弁護人=「今われわれが聞いておるのは、何か言うと具合が悪い点があって黙っておるなら、はっきり言って下さい。たとえば本当のことは知ってるけれども、これを言うと誰かにひっかかりが出てくるから・・・・・・」

証人=「そんなことはないです」

松本弁護人=「あるいは中田家に迷惑かけるとか」

証人=「そんなことはないです、自分でわからないんです」

松本弁護人=「結婚しておったら喪主になるところですよ」

証人=「思い出せないです」

松本弁護人=「登美恵さんが亡くなって昼頃行きましたね、登美恵の家に何時頃まで居たんですか」

証人=「そんなにおらんかったと思います」

松本弁護人=「どのくらいですか、五分か十分か、一時間ですか、二時間か」

                                            *

裁判長=「ちょっとそういう問い方はやめて下さい」

                                            *

松本弁護人=「どのくらいおりましたか、あるいは何時頃まで、でもいいですよ」

証人=「どうも、あまり記憶力がないほうで、わからないです」

松本弁護人=「あまり長くなかったと仰るから、夕方まではもちろんおらんかったでしょう」

証人=「おらんかったと思います」

松本弁護人=「三時頃まで残ったような記憶はありますか、あるいは、そんなに長く居なかったですか」

証人=「三時頃までは、居なかったかな」

松本弁護人=「じゃそれは、結構です。それから登美恵さんが亡くなった七月十四日以後、中田さんのお家に行ったことがありますか。その時行きましたね、知らせを聞いて遺体のところへ行った。そこで何時間か知らんが居て、お帰りになった。帰った以後、さらにもう一度か二度か知りませんが、中田さんのお家に行ったことありますか。あるいは、その晩のお通夜を含めて」

証人=「・・・・・・・・・」

松本弁護人=「お通夜に行ったですか」

証人=「行かないです」

松本弁護人=「翌日は、行きましたか」

証人=「・・・・・・・・・」

松本弁護人=「行かなかったですか」

証人=「よくわかんないですけど」

松本弁護人=「わかんないじゃ困るんで、行かなかったのと違いますか。葬式にもお通夜にも行かないから、合間に行くことはないでしょう。行かなかったんでしょう、どうですか」

証人=「とにかく忘れちゃいました」

松本弁護人=「行かなかったと伺っていけませんか、つまりそれ以後は、中田さんの家にあなたは行かなかったんだろうと私は思うのですが、そういう風にお伺いしていけませんか」

証人=「・・・・・・・・・」

松本弁護人=「お答えがないのは、そうだと伺っていいですか」

証人=「一度行ったか、行かなかったか」

松本弁護人=「いつ行ったんですか」

証人=「わかんないです、とにかく覚えてないです」

松本弁護人=「最後にもう一点、善枝さんを見たことはありますね」

証人=「見たことはないです」

松本弁護人=「一度もない」

証人=「はい」

松本弁護人=「婚約までしておって、その妹さんを見たことないですか」

証人=「見たかどうかは、それは見ていたかも知れないけれども、善枝ちゃんだということ自体は知りませんでした」

(続く)

                                          

狭山の黒い闇に触れる 1038

『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』

(写真は事件当時の狭山市堀兼付近)

【公判調書3243丁〜】

                  「第六十回公判調書(供述)」(昭和四十七年)

証人=山下初雄(三十四歳・農業) 

                                            *

松本弁護人=「あなたは亡くなったという連絡を受けて、すぐに飛んで行かれたでしょう」

証人=「はい」

松本弁護人=「あなたが行かれたのは昼頃ですが、亡くなったのはいつ頃だということは、聞きましたか」

証人=「畑にいたとき連絡受けて、行ったのは昼ちょっと前だと思います」

松本弁護人=「あなたは、連絡を受けてから、どのくらい経って行ったのですか」

証人=「すぐ行きました」

松本弁護人=「何分くらいですか」

証人=「近くだし、すぐ作業を終わらして飛んで行ったんです」

松本弁護人=「五分とか十分とか」

証人=「十五分くらいかかりましたかね」

松本弁護人=「で、いつ亡くなったということは聞いてませんか」

証人=「はっきり記憶にないです」

松本弁護人=「そのとき、もちろん、これは中田さんのおうちのことですけれども、どなたがおられましたか、中田家には、健治さんはおられましたか」

証人=「いたと思います」

松本弁護人=「栄作さんは」

証人=「いたと思います」

松本弁護人=「あと、健治さんの弟さんがおりましたね」

証人=「はい」

松本弁護人=「そんな人は」

証人=「とにかく大勢いましたしね」

松本弁護人=「大勢というのはどういう人ですか、近所の人がたくさんおったという意味ですか」

証人=「そこいらはよく分からないですけど、とにかく、大勢いました。がやがややってましたから」

松本弁護人=「警察の人がいたとかね、大勢いたって一概に言えないでしょう。つまり、自殺か変死かということになれば、お医者さんも、警察の人も来てるとか、どんな人が来てるか」

証人=「どんな人って言われても、よく記憶に残っていません」

松本弁護人=「あなたが見た時に、登美恵さんは、普通に布団に寝かしてあったのですか」

証人=「ええ、そうです」

松本弁護人=「服装は普段の服装だと言いましたね」

証人=「そうだったと思います」

松本弁護人=「普段の服装のままで寝かしてあったんですか」

証人=「そうだったと思います」

松本弁護人=「顔色はどんなでしたか」

証人=「わりにきちんとしてましたね」

松本弁護人=「どういう風にきちんとしてたのですか」

証人=「きちんとって、自分も、そう死んだ人なんかもお祖父さんしか知らないから、あんなものだと思ってたから、そんなに乱れるというか、そういうこともなかったです」

松本弁護人=「服装もきちんとしてますか」

証人=「どうだったかな、布団が載せてあったか、よく記憶ないです、ちゃんとしてたと思います」

松本弁護人=「死んだのは何か薬を飲んだんだという説明は聞きましたか」

証人=「なんか、そんな話は新聞なんかでも見ました」

松本弁護人=「新聞のことじゃなくて、その時、皆んなが集まった時に、なんで死んだか当然問題になりますね。そんな説明を皆んながやがやしてたんじゃないですか、そういうのを聞かなかったですか」

証人=「・・・・・・・・・」

松本弁護人=「それが一番大事なことですよ、人が死ぬのは、何で死んだか、一番大事です。投身自殺とか、農薬とか、ガス中毒とか、ありますね。なんで死んだと聞きましたか」

証人=「・・・・・・・・・」

松本弁護人=「人に殴られて殺されることもあるし、いろんな死に方があるでしょう、何で死んだか、一番大事でしょう」

証人=「そのときにどうだったか、後で聞いたか、とにかく薬を飲んだという形じゃなかったですか。それ自体そのとき聞いたか・・・・・・」

松本弁護人=「そのとき聞かなかった・・・」

証人=「そのときは・・・・・・」

松本弁護人=「あなたは、戸籍上は夫で、婚約者でしょう、一番聞く権利があるはずですよ。一体どうして登美恵さん、死んだんですかと、聞いたんでしょう、あんた」

証人=「別に聞かなかったです」

松本弁護人=「夫婦でしょう、形式的には」

証人=「はい」

松本弁護人=「実質的にも間もなく夫婦になる人でしょう、聞かなかったですか」

証人=「なんかそのとき、薬飲んだということだったんじゃないですか、とにかくよく記憶にないです、忘れちゃいました」

松本弁護人=「登美恵さんの葬式はもちろん行なわれたでしょう」

証人=「・・・・・・・・・・・・」

松本弁護人=「行なわれなかったですか、お葬式」

証人=「・・・・・・・・・・・・」

松本弁護人=「普通はやりますけれども、やらん時もありますが、その時行なわれましたか」

証人=「・・・・・・・・・・・・」

松本弁護人=「身内ですから、当然葬式があれば聞いておられると思うのですが、どうですか」

証人=「葬式は・・・・・・」

松本弁護人=「あなた、ある程度その時のことは覚えているでしょう」

証人=「嘘をつけないから・・・・・・」

松本弁護人=「葬式は忘れましたか」

証人=「はい」

                                            *

裁判長=「登美恵さんの葬式にあなたは行った記憶がありますか」

証人=「・・・・・・・・・・・・」

裁判長=「行かなかったら行かない、行ったなら行ったと言って下さい」

証人=「行かなかったと思います」

                                            *

松本弁護人=「ここですから正直に言って下さい。あなたは登美恵さんを、激しいものでなくてもいいけれど、婚約者に対する愛情を持っておられましたか。つまり、これから結婚する相手としての気持ちを持っておられましたか。無理にあれするんじゃないですよ、愛情も何もなかったと仰ればそれでいいです、登美恵さんに対してどんな気持ちを持ってましたか」

証人=「とにかく、一緒になるあれだから愛情は持ってました」

松本弁護人=「だから、その愛情を持ってる登美恵さんの葬式に行かなかったというのは、どうしてなんでしょうか。葬式が行なわれなかったからでしょうか、それとも葬式に行ってはいかん事情があったからでしょうか、あるいはあんたのほうで葬式はもう行かんと思ったのか」

証人=「・・・・・・・・・・・・」

(続く)

狭山の黒い闇に触れる 1037

『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』

(写真は事件当時の狭山市薬研坂付近)

【公判調書3241丁〜】

                  「第六十回公判調書(供述)」(昭和四十七年)

証人=山下初雄(三十四歳・農業) 

                                            *

松本弁護人=「登美恵さんの家へ行ったことが、一、二回ぐらいはあるんでしょう」

証人=「ええ、ありました」

松本弁護人=「その時は家へ上がって、ほかの家族の人と話をしたりしたのですか、それとも登美恵さんだけとお会いしたんですか」

証人=「上へは上がりませんでしたね」

松本弁護人=「どこで話をしましたか」

証人=「なんて言うんですかね、農家だったからね、台所と言うんですか、だと思ったね」

松本弁護人=「すると、あまり俗に言う、婚約のお互いに家族ごと付き合うという方法ではなかったんですね」

証人=「そう」

松本弁護人=「それで登美恵さんは、そういう、あなたとの婚約状態について、自分の身内の人たち、お父さんやお兄さんやら、そういう人たちが、どんな風に思ってるか、というような話はしませんでしたか。つまり賛成しているとか、反対しているとか」

証人=「・・・・・・」

松本弁護人=「何も隠すことないですよ、過ぎ去ったことですから、正直に言って頂けばいいんで、あなたの名誉に関係ないんですが、そういう家の方がどう思っておられるか、話をしましたか。重要なことですから」

証人=「賛成してくれているんだと思います」

松本弁護人=「何か、登美恵さんに精神的な悩みが感じられませんでしたか。三十九年七月に亡くなってるわけでしょう、何か、精神的な悩みが感じられるようなことがありませんでしたか」

証人=「うちの方は七月二十日が、おてんのう様なんですが、そのとき、家に来ることを楽しみにしていたし、別に、まさか、あんなことになると自分も思わなかったし、ああいう状態になるような悩みも感じられませんでしたね」

松本弁護人=「七月二十日にあなたのうちへ来られることになってたんですね」

証人=「はい」

松本弁護人=「亡くなったのはいつですか」

証人=「七月十四日じゃないでしょうか」

松本弁護人=「七月二十日に来ると言うておったのはいつ頃のことでしょうか、亡くなった七月十四日を基準にして、どのくらい前か」

証人=「一週間くらい前じゃないかと思います」

松本弁護人=「そのとき、まあ大事なことですから記憶を甦らせてもらいたいのですが、七月の初め頃、最後に登美恵さんにお会いになったんですね」

証人=「そうです」

松本弁護人=「それは、どこでお会いになったのですか」

証人=「よく思い出せないんですけれども」

松本弁護人=「しかし、会われた回数はそんなに多くないでしょう」

証人=「秋ですからね、けっこうまあ」

松本弁護人=「じゃ月のうち何回ぐらいお会いになってましたか」

証人=「二回ぐらいは会ってたですね」

松本弁護人=「別にいさかい、喧嘩されたようなことはないでしょう」

証人=「ないです」

松本弁護人=「最後にお会いになった時のことは思い出せませんか、どこでお会いになったか。つまりあなたの家だったか、登美恵さんの家だったか、それともほかの場所だったか」

証人=「・・・・・・・・・」

松本弁護人=「分かりませんか」

証人=「ええ、思い出せません」

松本弁護人=「それから、あなたは手紙も交換されてますか、登美恵さんと」

証人=「手紙は一度貰ったことがあります」

松本弁護人=「一回だけですか」

証人=「だったと思います」

松本弁護人=「それは、どういうことから手紙を貰われたのでしょうか。近くだから、会おうと思えば簡単に会えるが」

証人=「どういうことで手紙をですか」

松本弁護人=「遠く離れてれば手紙ということですが、近くにいれば会える」

証人=「そういうことまでは分からないですね」

松本弁護人=「一度だけ手紙を貰った」

証人=「はい」

松本弁護人=「そうすると、あなたは登美恵さんの字はよく記憶してたんですか、それともあまり記憶してないんですか」

証人=「分かりません」

松本弁護人=「登美恵さんは結納を交わされた三十八年の秋頃、別に普通でしたか、身体の状態は。どこか悪いところはなかったですか」

証人=「普通だったと思います」

松本弁護人=「この方は、痩せ型ですか、太り気味ですか、或いは中くらいですか」

証人=「そうですね、比較的太ってますね、痩せてはいませんでした。普通くらいだったと思います」

松本弁護人=「昔からそうだったんですか、昔って、まあ、あなたが・・・」

証人=「そうですね」

松本弁護人=「ところが、この亡くなった頃ですね、その直前にあなたはお会いになってますけれども、その頃何か、だいぶ痩せたなあというか、非常に痩せてきたような印象はお受けになりませんでしたか」

証人=「そんな風にも感じなかったと思います」

松本弁護人=「痩せたという印象はなかったですか」

証人=「はい」

松本弁護人=「記憶ありますか、その当時の」

証人=「普通だったと思います」

(続く)

 

狭山の黒い闇に触れる 1036

『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』

(写真は事件当時の狭山市上赤坂付近)

【公判調書3237丁〜】

                  「第六十回公判調書(供述)」(昭和四十七年)

証人=山下初雄(三十四歳・農業) 

                                            *

松本弁護人=「あなたは善枝さんを知っていましたか」

証人=「あまり、知らなかったです」

松本弁護人=「あなたの家は中田栄作さんの家と、どのくらい離れてるんですか」

証人=「距離的に、まあ隣り部落ですから、七百メートルくらいです」

松本弁護人=「登美恵さんのことは、以前から知ってたということですね」

証人=「はい」

松本弁護人=「もう一度確かめるんですが、善枝さんつまり妹さんが殺されて、死体を発見されたことがありましたね」

証人=「はい」

松本弁護人=「その時には、あなたは登美恵さんと、そういう婚約的な関係にあったのですか、そうではなかったのですか」

証人=「その時は、全然そういうことはなかったと思います」

松本弁護人=「そうすると、中田さんの家にその当時は、お邪魔したこともなかったのですか」

証人=「そうですね、なかったです」

松本弁護人=「あなた、記憶がちょっとさっきから聞いとって、はっきりせんように思うんですがね」

証人=「あんまり・・・・・・」

松本弁護人=「大事なことだから聞くんですが、あなたが登美恵さんと結婚の届出をした、つまり戸籍上は夫婦になったのは、いつなんですか。善枝さんが亡くなった後ですか、善枝さんが亡くなる以前ですか」

証人=「善枝ちゃんが亡くなった後だと思います」

松本弁護人=「あなたと登美恵さんは、すると、善枝ちゃんが亡くなった年の秋に、そういう形式的には夫婦になったわけですか。さっき、そういう風に言われましたが、間違いないですね。結婚式こそ挙げないけれども、結納を交わしたと言われましたね、それは三十八年の秋ですか」

証人=「何かよく、あれ見ないと分からないけれども、そうだと思います」

松本弁護人=「善枝ちゃんが亡くなった年」

証人=「善枝ちゃんが亡くなったのは、三十八年ですね、春だったね」

松本弁護人=「善枝ちゃんが殺されたということは、日本中の大きなニュースですから、まして、狭山市では大きなニュースであなた方の部落でも誰一人知らん人のないようなことでしょう、だから聞きたいのは、善枝ちゃんが殺された後であれば、そういう問題になった善枝ちゃんの姉さんと結婚することになるわけですね」

証人=「そうですよ」

松本弁護人=「そうすると、普通に、ごく平凡な結婚をするんじゃなくて、妹さんが殺された方と結婚するという、あなたなりに、そりゃかまへん、そんなことは別に関係ないというような気持ちで決心せんかったら、結婚出来ませんな」

証人=「はい」

松本弁護人=「そやから、あなたが形式的に戸籍届をした時期が善枝ちゃんの事件の前であったか、後であったか違うわけです」

証人=「とにかく、登美恵ちゃんが亡くなったのが三十九年だとすれば三十八年です。ただ、見てこなかったからはっきりあれだけれど、登美恵さんが亡くなったのが、三十九年ですか、それがはっきりすれば三十八年の暮です」

松本弁護人=「それから、あなたは結納を交わされたんですが、登美恵さんと交際されておったのは、登美恵さんが亡くなった三十九年七月までの一年足らずですか」

証人=「はい、半年ぐらいじゃないですか」

松本弁護人=「すると、その間、どの程度の交際があったんですか。つまり会ったことが数回あると言われましたね、それは主に、どこで会っておったんですか」

証人=「それは外でも会いましたし、登美恵さんも、うちへ来ましたし、遊びにも行きました」

松本弁護人=「登美恵さんの家に行ったことは、何回ぐらいありましたか」

証人=「幾回か行ったと思います」

松本弁護人=「一回ですか」

証人=「一回じゃないですね、とにかく外で会ってます」

松本弁護人=「登美恵さんの家に行くのは何回ぐらい」

証人=「二回か、三回です」

松本弁護人=「結納の式を挙げた時には登美恵さんの家族、特に、栄作さんとか健治さん、そういう人たちも列席したんでしょう」

証人=「・・・・・・・・・」

松本弁護人=「登美恵さんとあなたが、結納の式を挙げたことがありますね、結納交換」

証人=「はい」

松本弁護人=「その時、普通は簡単な内祝いをするんでしょう」

証人=「はい」

松本弁護人=「そういうことはしましたか」

証人=「結納自体は、仲人さんに行ってもらってるからどうですかね、健治さんと栄作さんのほうは、分からないですね。自分もその時は行かなかったと思います」

松本弁護人=「するとあなたは、登美恵さんと婚約的なことをしたけれども、中田家のお父さんとか、お兄さんの健治さんとか、こういう人とは格別、身内としての礼を交わしたこともなかったですか」

証人=「そうですね」

松本弁護人=「一応、あなたがなさったのは、実質的には、婚約みたいな状態と違いますか、いずれ結婚する人だったのですね」

証人=「はい」

松本弁護人=「三十九年の秋には」

証人=「はい」

松本弁護人=「ですから婚約状態でしょう、あなたが交際しておった期間は」

証人=「はい」

松本弁護人=「世間で言う婚約の状態と違いますか」

証人=「まあ、婚約になるんですか、何かとにかく、そういう」

松本弁護人=「婚約になるとすると、普通はやはりお互いの身内の人と紹介されたり紹介したりして、そういう婚約者という立場で例えば、登美恵さんのお父さんの栄作さんに挨拶したり一緒に話をしたりすることがありましょうね」

証人=「はい」

松本弁護人=「そういうことがあったでしょうか、なかったでしょうか」

証人=「さあ・・・・・・」

松本弁護人=「なかったんですか」

証人=「とにかく、仲人さんが結納をおさめて、結局、両親は行かない・・・・・・」

松本弁護人=「記憶によって、言って頂きたいんですが」

証人=「よく記憶に・・・・・・」

松本弁護人=「栄作さんとあなたは、何かの機会に一緒に酒を酌(く)んだことはないですか」

証人=「ないです」

松本弁護人=「他人の、いろんな人が交じっている時でも、家族一同が交わってる時でもいいんですが、一緒に酒を飲んだり、食事をしたことはないのですか」

証人=「栄作さんとですか」

松本弁護人=「ええ」

証人=「婚約の時はどうだったか、よく記憶ないです」

松本弁護人=「したという記憶はないんですね」

証人=「ええ」

松本弁護人=「健治さんとも、記憶ありませんか」

証人=「ええ」

松本弁護人=「あなたは、結婚届を出してるんですよ」

証人=「はい」

松本弁護人=「出しに行ったのはどなたですか。あなたですか、登美恵さんですか」

証人=「自分だったと思います」

松本弁護人=「それは、登美恵さんの署名を貰って出したんですか」

証人=「無論そうです」

松本弁護人=「そのことについては、あなたはボーナスの税金の関係だと仰ったけれども、中田家の栄作さんとか、健治さんには話をして了解を得てからしたのですか、それとは無関係にしたのですか」

証人=「さあ、よく記憶にないんだけど、無論、承諾をしたと思います」

松本弁護人=「記憶はないですか」

証人=「よく分かんないです」

(続く)