アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 951

【公判調書2984丁〜】

                   「第五十六回公判調書(供述)」

証人=遠藤  三(かつ)・七十歳

                                            *

福地弁護人=「(原審記録第七冊の昭和三十八年六月二十七日付の被告人の供述調書末尾添付の図面(2)二一一四丁を示す)これは何を示す図面でしょうか」

証人=「これも時計を捨てた場所の図面じゃないかと思われます」

福地弁護人=「左下の方に時計を捨てた所という説明がありますね」

証人=「ええ、ございます」

福地弁護人=「この図面で見ると三叉路の、この図面に向かって左上の角の辺りにマークがついておりますね」

証人=「はい」

福地弁護人=「あなたの記憶では被告人はここに捨てたというような供述をしたんでしょうか」

証人=「記憶がございません」

福地弁護人=「あなたは発見された腕時計を見たことがありますか」

証人=「・・・・・・・・・・・・」

福地弁護人=「そんなに考え込むことはないでしょう」

証人=「いや、見たかどうかの記憶は分かりません」

福地弁護人=「あなたは現在この発見された時計というのはどういう形の時計だという風に思っておりますか」

証人=「形は長方形ということくらいは記憶しておりますが」

福地弁護人=「色は」

証人=「色は金色ですね」

福地弁護人=「バンドは」

証人=「記憶ありません」

福地弁護人=「腕時計が発見されたということを誰かに聞いた記憶はないですか」

証人=「ありますね」

福地弁護人=「誰から聞いたですか」

証人=「誰から聞いたというところまでは記憶ありませんし、また、誰が発見したという名前も記憶がございませんが、一般の人が見つけてくれたんだというように記憶しております」

福地弁護人=「いつ頃聞いたんですか」

証人=「日にちの点についても記憶がございませんが」

福地弁護人=「時計が発見されたと言われている場所へ行ったことがありますか」

証人=「それはしばらく経ってからだと記憶しておりますが発見されたという直後じゃないと思いますが、しばらく経ってからだと思います。ここから発見されたんだそうだということを行って見た記憶があります」

福地弁護人=「それは誰と行きました」

証人=「誰と行ったということも」

福地弁護人=「一人で行ったんですか」

証人=「一人で行ったことはございません。一人で仕事したことはございませんから誰か一緒です」

福地弁護人=「仕事として行ったんですね」

証人=「仕事ですね」

福地弁護人=「その二一一四丁の図面でいうと、時計が発見されたという場所は、どこら辺ですか」

証人=「こっちの方(図面に向かって左側)が畑だとすれば、畑と道路の間ですね」

福地弁護人=「時計を捨てた所ということで黒い丸がつけてありますね」

証人=「はい」

福地弁護人=「そこから時計は発見されたんですか」

証人=「そこじゃなかったような気がしますね、何でも畑に入っていたように」

福地弁護人=「そこでないということですね」

証人=「弁護士さんが仰る所は道路の境でしょう」

福地弁護人=「今聞いてるのはここに黒い丸がつけてあって時計を捨てた所という具合に書いてあるでしょう、ここから発見されたという具合に記憶されているかどうかということです」

証人=「そうじゃないように記憶しております」

福地弁護人=「どこだったという記憶ですか」

証人=「畑に入っていたような記憶ですね」

福地弁護人=「この図面の中でそれを示すとすればどこら辺ですか」

証人=「左の方の畑か右の方の畑か、とにかくどっちか分かりません」

                                            *

裁判長=「そうすると捨てた所とは違うと思うと、で、その図面の上からいくと時計を捨てた所と書いてある上方または左の方」

証人=「ええ、だからこれより畑の方へ入っていたというような気がします」

裁判長=「上の方とか左の方というわけ」

証人=「はい、そうです」

                                            *

福地弁護人=「あなたが立ち会って作った調書がいっぱいあります。それには大体図面が添付してあります」

証人=「はい」

福地弁護人=「あなたはその図面を石川くんが書いている状態を見ていたように前回の法廷で述べましたね」

証人=「はい」

福地弁護人=「この図面の作り方についてちょっとお尋ねしますがね、これはいきなり被告人に紙を与えて書かせるんですか。それとも下書きをやらせるんですか」

証人=「図面の作成については一応石川くんが仰ったことに基づいて石川くんに書いてもらったものですが、場合によって下書きを石川くんがして、それでまた清書をしたのもあるかも知れません。全部が全部そうだとは私申し上げません」

福地弁護人=「いったん下書きをやらせたようなこともありますか」

証人=「・・・・・・下書きじゃないですね」

福地弁護人=「どういうんですか」

証人=「まあいわゆる、ごじゃごじゃと書いた場合はもう少し大きく書いてみたらどうだというようなことですね」

福地弁護人=「書き直させるわけですか」

証人=「そうですね、そういうこともあったと思います」

(続く)

狭山の黒い闇に触れる 950

【公判調書2982丁〜】

                    「第五十六回公判調書(供述)」

証人=遠藤  三(かつ)・七十歳

                                            *

福地弁護人=「腕時計の処理、処分について、被告人はどういう供述をしているか、今覚えていますか。簡単に言うと腕時計をどうしたか、どういう説明をしているか。腕時計の行方についてどういう説明をしたか記憶ありますか」

証人=「道路上へ捨てたと言ったようなことを記憶してます」

福地弁護人=「どういう道路だったという記憶ですか」

証人=「砂利道ですね」

福地弁護人=「どこら辺の道路でしょうか」

証人=「記憶ございません」

福地弁護人=「その道路は、三叉路になっていたという記憶じゃありませんか」

証人=「記憶ありません」

福地弁護人=「十字路だったという記憶はありませんか」

証人=「記憶ないです」

                                                                  (以上  佐藤治子)

                                            *

○末尾に速記録者の氏名が記されている事と、この後に続く尋問の文脈からみて、法廷は一旦、昼休憩に入ったと推測できる。すると、この場へ七回に分けて引用してきた遠藤  三への膨大な尋問は、わずか午前中に行われていたという事に気付き私はめまいを覚えた。密度の濃い、その圧縮されたが如くの問答に対応している証人はある意味で立派である。飲酒が常態化している私などは、油断すると三、四日ボーッと過ごすことも多々あり、今後は証人や弁護人、検察官、裁判官のように気を引き締めた日々を送りたいと一応思った。

ところで彼等が昼食をどこで何を食べたのか、その味はどうだったのか、また喫煙者がいたとすれば、食後の一服はどんな煙草を吸っていたのか、着火にはマッチを用いたか、など、私的興味は尽きないが、引き続き尋問の引用に戻ろう。

                                            *

福地弁護人=「午前中に時計の処理に関する被告人の自供についてお尋ねしましたね」

証人=「はい」

福地弁護人=「あなたは砂利道に捨てたという具合に確か証言しましたね」

証人=「はい」

福地弁護人=「その捨てた場所が三叉路であるか十字路であるかは記憶がないと、こういうことを証言しましたね」

証人=「はい」

福地弁護人=「(原審記録第七冊の昭和三十八年六月二十四日付の被告人の供述調書末尾添付の図面(2)二〇七五丁を示す)これは何を説明している図面だか分かりますか」

(この図面は二〇七五丁と、丁数は合っているのだが、日付は六月二十九日であり、図面上のカッコ内の数字は一である)

証人=「これは・・・・・・時計を捨てた場所を示した図面じゃないかと思います」

福地弁護人=「時計を捨てた場所というのはその図面で左の方に説明がありますね」

証人=「はい、あります」

福地弁護人=「ここは三叉路になっているように読めるんですが、そういう記憶ありますか」

証人=「・・・・・・・・・・・・」

福地弁護人=「T字路のように読めるんですが、どうでしょうか」

証人=「T字路というよりむしろ三叉路でしょうね」

福地弁護人=「その図面を見て、被告人が三叉路に捨てたというような供述をしたかどうか、思い出して見て下さい」

証人=「・・・・・・はっきりしませんね」

福地弁護人=「被告人が時計を捨てた場所について、砂利道という程度の記憶しかないんですか」

証人=「ありませんですね、ちょっと記憶しているのは道路上だと思いますが、道路上という言葉を使ったかどうか分かりませんが、いずれにしても道の上だという、そこのところが三叉路であるかT字路であるかは、はっきりしませんが」

福地弁護人=「この図面の上の方にかっこして数字が書いてありますね」

証人=「ええ」

福地弁護人=「その中の数字は何と書いてあるんですか」

証人=「2じゃないでしょうか、分からないですが」

福地弁護人=「2じゃないとすると何でしょうか」

証人=「分かりませんな」

福地弁護人=「全然分からない」

証人=「分かりません」

福地弁護人=「当時の記憶でなくて今見た感じでいいです」

証人=「だから2ですね」

福地弁護人=「右の方に石川一夫という署名がありますね」

証人=「はい、あります」

福地弁護人=「その上に日付がありますね」

証人=「はい」

福地弁護人=「何日と書いてありますか」

証人=「6月29日じゃないでしょうか」

(続く)

                                            *

六月二十四日付の被告人供述調書末尾の添付図面には六月二十九日との日付が残されているが、これに何か問題があるのか、私は混乱し、もう何だかよく分からない。先へ進もう・・・・・・。

 

 

狭山の黒い闇に触れる 949

【公判調書2981丁〜】

                    「第五十六回公判調書(供述)」

証人=遠藤  三(みつ)・七十歳

                                           *

福地弁護人=「(先ほど示した原審記録第七冊二〇〇三丁、昭和三十八年六月二十一日付、青木一夫作成の被告人供述調書添付図面を示す)それは、すると、石川くんが書いた鞄のありかを示す図面になるわけですね」

証人=「と思います」

福地弁護人=「すると、鞄のありかとしては、その図面に鞄という風に書いて、線が引っ張ってありますね」

証人=「あります」

福地弁護人=「そこに鞄があると、こういう趣旨でしょうか」

証人=「そうですね」

福地弁護人=「この図面の見方ですけれども、ぎざぎざが付いてない一本の線ですね、実線と言いますかね、これは道路を示すんでしょうね、違いますか。縦、横、斜めに線があるのは、道路を示すんでしょうね」

証人=「と思います」

福地弁護人=「"かばん"という説明文の文字のすぐ上にぎざぎざになってるところがありますね、"みぞ"という具合に説明がありますね。鞄は、そうするとこの溝ではなくて、道路の部分にあるように説明がしてありますね。そういう趣旨に受け取っていいでしょうね」

証人=「私がこの図面から見ると、そうじゃないですね、道路じゃないですね」

福地弁護人=「では何ですか」

証人=「道路じゃなくて、どうも上手く説明が出来ないから分からないけれども、道路のある程度こういう風なところになるんじゃないでしょうか」

福地弁護人=「どうしてそういう説明になるんですか」

証人=「そこのところよく分かんねぇが」

福地弁護人=「だってあなたのさっきの説明では、そこは道路じゃないですか」

証人=「線は道路かも知れませんが、線じゃないでしょう、これは」

福地弁護人=「線でしょう、それは」

証人=「線じゃないですよ」

福地弁護人=「何ですか」

証人=「何だか分かりませんが線じゃないですよ、古いことですから記憶ないですよ、そう畳み掛けられても古いことなんで暫く考えなければ出てこないですよ」

福地弁護人=「最終的にはよく分からないということですか、結論としては。古いことだから」

証人=「いや、図面上で申し上げると、これは線の上じゃないんじゃないかということです。これは、線のところへ幾らかなっているから道路で言えば側溝みたいな格好のところじゃないかと」

福地弁護人=「どれが側溝ですか」

証人=「この辺がね、一本の線になっていないところだから」

福地弁護人=「今、あなたが示したところは一本の線じゃないですか」

証人=「なってませんよ、側溝じゃないかと、こういう記憶だということです。私は側溝のように見えるなという風な、まあ、そうではなかろうかということです。ただし今、弁護士さんが言うのには、この線は道路だと、こう聞かれたから線は道路だと思うと、こう言ったわけです」

福地弁護人=「その、今問題にしている部分の下に、ぎざぎざの線がありますね、"みぞ"と書いてあります」

証人=「はい、ありますね」

福地弁護人=「側溝のほかに溝があるという風に、あなたは理解しているんですか」

証人=「その図面がよく記憶がございませんけれども、この間が溝になるかも知れないですね」

(続く)

狭山の黒い闇に触れる 948

【公判調書2979丁〜】

                      「第五十六回公判調書(供述)」

証人=遠藤  三(かつ)・七十歳

                                            *

福地弁護人=「滅多にないことが書き込まれているのは、特別の理由があると思われますが、どういう理由で書き込んだかを説明してくれませんか」

証人=「古いことだから記憶がはっきりは致しませんけれども、この時は、関さん、巡査じゃなくて巡査部長かな、居たんですが、その関くんが石川くんから図面をもらったんじゃなかったかな、もらったと記憶していますが、それによって鞄の捜査か何かに行った、それで帰って来た時に、無かったというので帰って来たような感じがしますが、その際、私が石川くんに、石川くんが言った場所に無かったじゃないかと、関さんが泥んこで帰って来て、無かったという話なんだが、あんまり人を騒がすもんじゃねぇということを私が言ったような記憶ですがね、それからまた調べが進んで、石川くんが図面を書いた、調書と図面と一緒だか別々だったか、その点は記憶ありませんけれども、とにかく石川くんが書かれた二度目の図面を持って関くん他、誰かがその鞄の捜査に行ったことがあったと記憶しています。そういう関係で、この時間が書かれたんじゃないかと思います」

福地弁護人=「そういう関係でと、あなたは強引に結び付けられちゃったけど、全然どういう関係か分からないんですが、どうして午後五時ということを書き込んだのですか」

証人=「だから、関さんが、今申し上げたように、泥んこになって帰って来て、無かったというようなことから、石川くんに私が、あまり人騒がせするもんじゃないと言ったような記憶があります、その時がもう、三時か、四時じゃなかったかという感じがするんですが、それから今度はまた、改めて石川くんが図面を書いたのを持って行った、その場合に作った調書が、この、五時じゃないかと思いますが」

福地弁護人=「そういうことは、別にこの日に限ったことじゃないでしょう、調書は一日に何通も作られているでしょう」

証人=「そうですね」

福地弁護人=「この日に限って、なぜ五時という具合に書いたんでしょうか」

証人=「だから、今言ったような状況で書かれたんじゃないかと思いますが」

福地弁護人=「今、あなたは、関さんが捜しに行ったと、泥んこになって、無かったと言って帰って来たと言いましたね」

証人=「はい」

福地弁護人=「最初に関さんが捜しに行った時は、図面を持って行ったんでしょうか」

証人=「関さんが石川くんから書いてもらった図面を持って捜しに行ったと思います」

福地弁護人=「あなたの推測ですか」

証人=「推測でなくて、石川くんが書いた図面を持って行ったわけです」

福地弁護人=「見たんですか」

証人=「推測じゃございません」

福地弁護人=「推測じゃないというのは、あなたは何か見たんですか」

証人=「要するに関さんが帰って来て、ここには無かったということでしたから、図面を書かれて、行ったんじゃないかと思います」

福地弁護人=「その図面をあなたは見たことがありますか」

証人=「その図面を私見たという記憶はございません」

福地弁護人=「じゃ、どうして、図面を持って行ったということが分かるんですか」

証人=「図面を持って行かなければ分からないんじゃないかと思います」

                                            * 

裁判長=「今、あなたは、ここには無かったと、関が帰って来て言ったと言いましたね」

証人=「はい、申しました」

裁判長=「ここには、というのは、何かなければここにはという言葉は出ない、あなたが図面を見たか見ないかにそれは関係してくるんじゃないですか」

証人=「はい」

裁判長=「図面は見なかったと言ったね」

証人=「はい」

裁判長=「その点を弁護人が聞いてるんだ」

証人=「その点がはっきりどうも古いことで記憶がないです」

裁判長=「記憶がなきゃいいが、ここには無かったと関が言って帰って来たということは、そうなんですね」

証人=「ええ、無かったというんで帰って来ましたね」

                                            *

福地弁護人=「関さんが出かけたのは知っておりますか。関さんが泥んこになって帰って来たことは分かったが、出かけたのは知ってますか」

証人=「いつ出かけたということは知っておりません。ただ、関さんが鞄を捜しに行ったということを青木警部か長谷部警視かに聞いて、それで鞄を捜しに行ったんだということは分かっておりました」

福地弁護人=「すると、関さんが帰って来たのはどこで見たんでしょうか」

証人=「来たのは、いわゆる、分室に控室があったわけです。そこじゃなかったかと思います。そういう言葉でお答えするより仕方がないですが、控室だったと思いますね」

福地弁護人=「これは記憶がなければいいんですが、関さんが鞄を捜しに行ったということを長谷部さんか青木さんから聞いたと言いましたね、今」

証人=「ええ、誰かから聞かされたです」

福地弁護人=「聞いた場所は取調室でしょうか。それとも控室でしょうか、それとも別な場所でしょうか」

証人=「取調室じゃなかったかと思いますが」

(続く)

                                            *

ここで私は次の証言を引用しようと思うが、残念ながらそれは公判調書に記載されたものではなく信憑性に欠け、今となっては検証することも不可能な事柄であるが、しかし度々読み返してしまうほどの要素を含んでいることは確かである。

                                            *

証言するのは狭山市内南入曾の燃料商・S氏(三十二歳)。事件当時、狭山消防団第三分団所属、事件三日後に行なわれた山狩りに参加した方である。

著者=「当時の週刊誌を見ると、S氏が『善枝さんの持ち物を見つけた』って出ているものもあるんですが、あれはどうなんでしょうか」

S氏=「ああ、カバンか・・・・・・」

著者=「やはりカバンがあったんですか」

S氏=「でもあれ・・・・・・場所が違うんだよな」

著者=「え・・・・・・どういうことなんですか」

S氏=「置いてあったの」

著者=「・・・・・・・・・・・・え」

S氏=「あの死体発見現場の横には茶垣が一列になってあったでしょう・・・・・・カバンはその根元に置いてあったんだよね」

著者=「その話は初めて聞きました。そうだったんですか・・・・・・。これまでの報道とは全然違いますね。でも、茶垣の下っていうことは、何か隠すような感じで置かれてあったんですか」

S氏=「いや、違うね。普通に置かれてあった。通り(農道)からすぐ見えたからね」

著者=「Sさんはその時、カバンの中身はご覧になったんですか」

S氏=「いや、それは見なかった。我々(消防団員)だけだったら見たんだろうけど、警察の人が一緒だったからね」

著者=「でも、これは確実に善枝さんのものだろう、と」

S氏=「そう。学生の使うようなものだったから、『こりゃあ、間違いない』ってことになって。それで『(死体が)埋まってんのはこの辺りなんじゃないか』って思って見回したら、それらしいところがあるじゃない。新しい土が出てて、軟らかくなってるようなさ・・・・・・」

                                             中略

著者=「カバンはどうなったんですか」

S氏=「機動隊の人に渡した。だから、そっちで持ってったと思うよ」

著者=「でも、カバンはその後一か月半も経ってから、捕まった石川さんの自白に基づいて、全然違う場所から発見されているわけですよね。そのニュースを聞いた時は不思議に思いませんでしたか」

S氏=「・・・・・・不思議に思ったよねぇ・・・・・・」

                                            *

○この消防団員の証言は、この書物の中だけにとどまりその内容が弁護団を動かす事へはつながらなかった。

 

 

 

 

 

狭山の黒い闇に触れる 947

【公判調書2977丁〜】

                      「第五十六回公判調書(供述)」

証人=遠藤  三(かつ)・七十歳

                                            *

福地弁護人=「警察官はよく、警察手帳に細かい字でメモを書込みますね。そういうことをやったことはありませんか」

証人=「私の場合、手帳へメモしたことはございません。外へ出て捜査をした場合は別ですけれども、取調べ中に、自分の手帳へメモをしたということは記憶ありません」

福地弁護人=「すると、そういうメモをもとにして、供述調書を清書するんでしょうか」

証人=「はい」

福地弁護人=「すると一旦、下書きが出来るんでしょうか」

証人=「下書きというんじゃないでしょうな、下書きとは別ですね。メモと下書きとはまるきり別です。下書きしたものを清書するというんじゃなく、いわゆる重要なというと語弊がありますけれども、部分的にメモをして、それで最後、聞きながらずっと調書になってくる格好です」

福地弁護人=「それは一般的にそうやっているというお話ですか、それともこの事件で、あなたが立会人として調書に署名している調書についてそういう方法を取ったということですか」

証人=「一般的なことを申し上げたわけです。石川くんの時も同じでございます」

福地弁護人=「罫紙にメモをしたことがあると言いましたね」

証人=「罫紙もあったと思いますし、ざら紙もあったと思います」

福地弁護人=「罫紙というのはどういうやつですか。普通の、縦に線が入っている警察でよく使っている罫紙ですね」

証人=「はい」

福地弁護人=「あなたは、石川くんがポリグラフにかけられたことを知っていますか」

証人=「記憶ありません」

福地弁護人=「聞いたことないですか」

証人=「見たことでしょう」

福地弁護人=「ポリグラフにかけられたことを知りませんか」

証人=「知りません」

福地弁護人=「誰からも聞かなかったですか」

証人=「聞いたことないですな、ポリグラフにかけられたということは」

                                            *

福地弁護人=「(原審記録第七冊一九九九丁、昭和三十八年六月二十一日付 関源三作成の、被告人の供述調書添付図面を示す)この図面に見覚えがありますか」

証人=「見覚えがないと言えば嘘になるかも知れませんが、はっきり記憶ございません」

福地弁護人=「どこら辺の地理を書いたものか分かりませんか」

証人=「分かりませんな」

福地弁護人=「(同記録二〇〇三丁、同日付の青木一夫作成の被告人の供述調書添付図面を示す)その図面はどうですか」

証人=「場所は分かりませんが、図面は記憶ありますね」

福地弁護人=「そこには、説明の字が書き込んでありますね」

証人=「はい、ございます」

福地弁護人=「それ、読めますね」

証人=「はい」

福地弁護人=「それを読んでも分かりませんか。どういう図面だか」

証人=「この図面そのものについて記憶がないというわけじゃございませんが、どうも図面の上だけで、場所そのものについてははっきりと記憶ございません」

福地弁護人=「これは何を説明しようとしている図面だと思いますか」

証人=「図面の上から見ると鞄じゃないかという感じもしますけれども、はっきりしたあれはありません」

福地弁護人=「鞄のありかを説明しようとしている図面のように思うというわけですね」

証人=「じゃないかと思いますが」

福地弁護人=「(同記録二〇〇〇丁、同青木一夫作成の被告人の供述調書の第一枚目を示す)その、右の者に対するというところから、ずっと読んでいくと、取調べた日が書いてありますね」

証人=「はい」

福地弁護人=「そこに午後五時と書いてございますね」

証人=「はい」

福地弁護人=「この調書の作成にあなたは立ち会っておりますね」

証人=「はい」

福地弁護人=「午後五時という工合(=具合。筆者注)に、取調べの時間を示して調書を作成することは度々あることでしょうか、それとも滅多にないことでしょうか」

証人=「滅多にないと思います」

福地弁護人=「滅多にないことがここに書き込まれているわけですね」

証人=「はい」

(続く)

                                            *

○取調べた時刻を供述調書に書き込むことはないはずであるのに、事実として、午後五時という記載がなされていたとのことだが、その理由を証人=遠藤 三はどう述べるのか。

ところで私は、証人の氏名、遠藤 三の『三』が『かつ』という読みであることを第五十六回公判調書を通じて初めて知った。この裁判記録に出会わなければ、生涯知り得なかったであろう。工合=具合も、やはり本日知ったというありさまである。

狭山の黒い闇に触れる 946

 

【公判調書2975丁〜】

                    「第五十六回公判調書(供述)」

証人=遠藤  三(かつ)・七十歳

                                            *

福地弁護人=「あなたは、川越分室といえば、どこだか分かりますね」

証人=「ええ、分かります」

福地弁護人=「そこで石川被告の取調べに関与したことがありますね」

証人=「あります」

福地弁護人=「取調べにあたった警察官の名前を思い出して下さい」

証人=「青木警部、長谷部警視、山下警部、私、このうち山下警部は、一日ぐらいで具合が悪いっていうんで来なかったと思いますが」

福地弁護人=「それは、被告人が川越に移ってからの話ですね」

証人=「今、分室の話ですから、そういうことです」

福地弁護人=「その取調べに関与した警察官は、青木、長谷部、それから、あなたということになりますね。山下さんは途中で交替したということですね」

証人=「長谷部警視、青木警部、私それから山下警部、山下警部は、一日か二日きりいなかったんじゃないかと思いますが」

福地弁護人=「実際に被告人の供述調書が何通か出来ておりますが、その中に、あなたは立会人として署名しておりますが、記憶ございますね」

証人=「あります」

福地弁護人=「調書を作った人は青木一夫という名前になってますけれども、これも間違いないでしょうね」

証人=「間違いありません」

福地弁護人=「長谷部警視は、何をやってましたか」

証人=「取調べは一応三人でやるようなものの三人一緒ということもあったけれども、二人ということもあったと、こういうことになりますな」

福地弁護人=「私が聞いてるのは、長谷部さんは調書上、名前があまり出て来ないから、長谷部さんは何をやってたのかと聞いてるんです。質問に答えて下さい」

証人=「取調室におりましたけれども、そういうところは、何というか、いわゆる階級が上で、立会いであっても別に不思議はないですが」

福地弁護人=「そういうことを聞いてるんじゃなく、何をやってたか聞いてるんだから、やっていたことについて、直接答えて下さい」

証人=「いわゆる取調べの助言です。青木警部が聞いておって、聞き落としがあるとか、あるいは、重要なことが落とされたとか、いうような点についての助言じゃなかったかと記憶してますが」

福地弁護人=「あなたは、どういう役目ですか」

証人=「同じようなことであって、且つ、石川くんの、いわゆる身辺の安全というか、監視ですね」

福地弁護人=「つまり二つの役割があるんですね」

証人=「そうですね」

福地弁護人=「石川くんの監視と、もう一つは、同じように助言者という」

証人=「さようですね」

福地弁護人=「あなたは立会人として、供述調書に署名をすることがよくあるんですか」

証人=「あります」

福地弁護人=「石川くんの取調べの時ですが、調書が何通も出来ております。この調書が出来上がる状態を具体的にあなたに説明して欲しいんですが、まず、石川くんに聞くんでしょうね。三人のうち誰かが」

証人=「主として青木警部が。主任ですから」

福地弁護人=「青木警部が聞くわけですね」

証人=「そうです」

福地弁護人=「それに石川くんが答える場合がありますね」

証人=「はい」

福地弁護人=「それは、どうなるんですか、答えた後は」

証人=「答えた後、調書になってますね」

福地弁護人=「最終的には調書になるだろうけれども、調書になる過程を聞きたいんですが、つまり石川くんが答えるわけでしょう。それについて青木さんやあなたの方から、さらに質問をするというようなこともあるわけでしょう」

証人=「ございます」

福地弁護人=「青木さんは、石川くんが答えたことを直接すぐ調書にしましたか」

証人=「直接調書の場合もあったように記憶しておりますし、また、メモを取っておいて調書にしたこともあると記憶していますが」

福地弁護人=「そのメモですけれども、これは青木さんだけですか、メモを作ったのは」

証人=「そうじゃなくて、私も書いたことございますね」

福地弁護人=「長谷部さんも作ったことあるんですか」

証人=「作ったことがあると思います」

福地弁護人=「この事件のことじゃなくて、あなたは警察官をずい分長くおやりだけど、取調べの時は、メモをよく使うんじゃないですか、調書を作る際には」

証人=「メモを作る場合もあれば、全然メモなしでやる場合もあるし」

福地弁護人=「この時のメモは、どういう紙に書いたのですか」

証人=「ざら紙か罫紙ですね」

福地弁護人=「ざら紙の場合もあるし、罫紙の場合もあると、こういうことですか」

証人=「さようでございます」

福地弁護人=「よくある小さいメモ用紙みたいな物に書いたことはありますか」

証人=「記憶ありません」

(続く)

                                            *

 『狭山事件裁判記録から見る事件当時の狭山市①』

狭山市役所堀兼出張所を、その北東百メートル地点から撮影。所々に水たまりが見られる、そのぬかるんだ道路は昭和世代には懐かしい光景である。

こちらは上記撮影地点より西方へ二百五十メートル移動した地点から北西方向を撮影。以上は単なる、事件の記録写真であるはずであるが、この二枚目の写真などは何か陰鬱な、鉛色の雲が低くたれ込め、五月としてはそのジメジメとした湿度が不快に感じ、犯罪傾向高めな人物はいよいよその火蓋を切ろうかなどと、小説の一本でも書けそうな、そんな不穏感に満ちた写真である。

 

 

 

 

 

狭山の黒い闇に触れる 945

【公判調書2973丁〜】

                 「第五十六回公判調書(供述)」

証人=遠藤  三(かつ)・七十歳

                                            *

福地弁護人=「張込みは普通の、警察官の服装で行ったんですか」

証人=「そうじゃなくて私服です」

福地弁護人=「背広を着て行った」

証人=「背広だと記憶してますが」

福地弁護人=「靴は」

証人=「皮靴じゃなかったかと記憶してますが」

福地弁護人=「あなたは当夜、呼子、笛を持って行きましたか」

証人=「持って行きました」

福地弁護人=「ピストルは」

証人=「拳銃は持っておりません」

福地弁護人=「持っていた物は何と何ですか」

証人=「それはどういう意味合いですか。持っていた物というのは」

福地弁護人=「つまり張込みに行くのは、犯人を捕まえに行くわけでしょう。犯人を逮捕する為にいろんな道具を持って行くと思われるから聞くんです。どういう物を持って行ったか」

証人=「いわゆる警笛、捕縄、警察官の身分証明書、手帳」

福地弁護人=「それだけですか」

証人=「そのほか、鼻紙もあればハンカチもある」

福地弁護人=「懐中電灯は持って行かなかったのですか」

証人=「持って行きました」

福地弁護人=「どういう懐中電灯ですか」

証人=「電池が二本入る、懐中電灯だと思います」

福地弁護人=「トランシーバー、携帯無線機ですね、そういう類いの物は持って行かなかったですか」

証人=「持ちません」

福地弁護人=「五月二日の夜、あなたは張込みをしていましたね」

証人=「はい」

福地弁護人=「何か、異常がありましたか」

証人=「特別、異常ということもございませんが、ただ、上司の者が犯人に逃げられたということで来ました」

福地弁護人=「それはいつ頃来たんですか」

証人=「二時か、三時じゃないかと思いますが、その点はっきり覚えていません」

福地弁護人=「それを聞いた場所は」

証人=「聞いた場所は、張込みの場所です」

福地弁護人=「すると、二時か三時ごろか、あなたは張込みの場所にずっといたわけですね。張込み続けたわけですね」

証人=「さようでございます」

福地弁護人=「それを聞くまでは別に場所は移動してませんか」

証人=「移動して、おりません」

福地弁護人=「その、犯人に逃げられたことを告げに来た上司の名前は」

証人=「大谷木警部だったか、山下警部だったか、と思います」

福地弁護人=「犯人に逃げられたという連絡を大谷木警部か山下警部が教えに来たんですね」

証人=「教えに来たんじゃなくて、犯人に逃げられちゃったが、こっちの方へ逃げて来なかったかということだったと思います」

福地弁護人=「それは逃げた直後のようでしたか、それとも逃げられて一段落ついたあとだったですか」

証人=「逃げられた直後じゃなかったかと思います」

福地弁護人=「慌てふためいて、走って来たような格好ですか」

証人=「さようでございます」

福地弁護人=「大谷木警部か山下警部が来る前に、佐野屋の方向で何か、変わった状況がありましたでしたか」

証人=「気がつきませんでした」

福地弁護人=「あなたは佐野屋から三百メートルぐらい離れていると言いましたね、あなたの張込んでいる場所は」

証人=「そうです」

福地弁護人=「そこで、大谷木警部か山下警部が来たあと、あなたはどういう行動を取りましたか」

証人=「近辺の捜索というか、捜査というか、茶畑その他がその辺にあったような記憶がしてますが、その辺、あっち捜し、こっち捜し、やったように記憶してます」

福地弁護人=「それは、暗い、その夜の内にですか」

証人=「夜の内です」

(続く)

                                            *

証人の言う佐野屋から約三百メートル離れた地点とはこの辺りである。

事件当時、証人=遠藤  三(かつ)はこの付近で張込みを行なっていたと思われる。