『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』
写真は事件当時の狭山市堀兼地区。
【公判調書3256丁〜】
「第六十回公判調書(供述)」(昭和四十七年)
証人=山下初雄(三十四歳・農業)
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樺島弁護人=「それから遺書の件ですが、幸せにお暮らし下さいという文句以外に覚えていないと言いましたね」
証人=「はい」
樺島弁護人=「しかし、その日あなたは、先ほど仰ったように、なぜ死んだか、なぜ自殺したか、ということについては、最大の関心を持っておられたでしょう、それも忘れましたか」
証人=「なんで死んだか・・・・・・」
樺島弁護人=「つまり、自殺をしたんなら自殺をしたで確認しますが、自殺であることは疑っておられなかったですね、ひょっとしたら、他殺だと思いましたか」
証人=「そうじゃない、周りから、自殺だということですから」
樺島弁護人=「信じておられた」
証人=「はい」
樺島弁護人=「自殺だということを信じておられた上で、じゃ次に問題になるのは、近しい者としてはなぜ、自殺をしたかということで、問題になる。あなたとしては、当然そのことについて関心を払っておられましたね、それも忘れましたか。これは松本先生も仰ったので繰り返したくないのですが、秋には結婚することになってた、その相手が自殺した。なぜ死んだかということについて、あなたは興味を持たなかったか、それさえ、はっきり答えられないというのはどういうことですか」
証人=「・・・・・・・・・・・・」
樺島弁護人=「何、考えてるんですか」
証人=「なぜ自殺したか、疑問に思わなかったか、ですか」
樺島弁護人=「なぜ自殺したか、知りたいと思わなかったですか」
証人=「はい、思いました」
樺島弁護人=「遺書を見て、そこに大体、遺書を書く場合は、大概の場合、自分はなんで自殺するか、ヒントだけでも書いて死んでいくものです、そうですね」
証人=「はい」
樺島弁護人=「そしたら、その遺書の中に、自殺の原因らしきことが書いてあったか、なかったか。内容を覚えてないことは分かりました。書いてあったかなかったか、覚えていませんか。なぜ自殺をしたか、最大の関心を払ったはずです、遺書を見たんだから、その遺書中に自殺の原因、あるいは原因のヒントみたいなものが書いてあったかなかったについて、あなたは関心を払って読んだはずですが」
証人=「本当に分かんないです」
樺島弁護人=「分かんないというのは、当時から分かんなかったのか、今、覚えてないのか」
証人=「・・・・・・・・・」
樺島弁護人=「当時も分かんなかったのか、それとも当時のこと、全然記憶がないのか」
証人=「記憶がないんです、分かんないんです」
樺島弁護人=「今、記憶がないんですか」
証人=「はい」
樺島弁護人=「じゃ、遺書中に自殺の原因のことについての記載があったかなかったか、分からないんですね、今記憶がないんですね」
証人=「はい」
樺島弁護人=「じゃ、当時は何か覚えてましたか、当時発見した記憶がありますか」
*
裁判長=「ちょっと弁護人、それは無理じゃないですか」
樺島弁護人=「あんまり、僕はふざけてると考えるんです」
山梨検事=「原因が分からんのは、ノーベル賞作家の自殺もあるんですから」
樺島弁護人=「だから遺書中に自殺の原因の記載があったか聞いてるんです」
樺島弁護人=「葬式が、あったかなかったかも、あなたは、後で聞いてないんですか」
証人=「あったか、ないかですか」
樺島弁護人=「そういうことに関心を払わなかったですか、人が亡くなると葬式があるでしょう」
証人=「記憶がなくなって・・・・・・」
樺島弁護人=「人が死ねば、葬式があることは一般常識として知ってるでしょう」
証人=「それは知ってます」
樺島弁護人=「そしたら、もうじき結婚する予定になってた人が亡くなった場合には、葬式がいつあるのか、どこであるのか、当然あなたは関心を持っておられたでしょう。あったかなかったも知らないですか」
証人=「とにかく、記憶忘れちゃって、少しばかなものですから」
樺島弁護人=「どんなばかだって、結婚する相手の葬式のことぐらい知ってますよ」
証人=「・・・・・・・・・」
樺島弁護人=「葬式あったんでしょう、そして、あったことは、あなた、知ってたんでしょう」
証人=「・・・・・・・・・」
樺島弁護人=「これは、是非とも私は答えていただきたいと思います」
*
裁判長=「このままにおいて、答がないという状態で必要があれば判断すればいいと思います」
樺島弁護人=「僕は、これは、事実上の証言拒否だと思います、刑事訴訟法に抵触すると思います」
裁判長=「それならそのようにあなたはステップをお取りになったらいいでしょう、だって忘れたと言ってるんですからね」
(続く)