アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 602

【公判調書1884丁〜】

                   「第三十九回公判調書(供述)」⑫

証人=小堀二郎(三十八歳・埼玉県警察本部刑事部鑑識課勤務)

                                         *

植木弁護人=「ここに十四枚の写真がありますが、これはあなた記憶がありますか(小島朝政作成による昭和三十八年五月二十三日付捜索差押調書甲添付の写真、一二九三丁以下十四枚を示す)」

証人=「はい、私が撮ったものです」

植木弁護人=「全部あなたが撮ったものですか」

証人=「全部じゃないかも知れませんけれども殆どが私の撮ったものだと思います」

植木弁護人=「この差押調書の一枚目の裏に補助者の名前がずっと書いてありますね。これを見まして、あなたと同じ様に写真班、写真係として現場に行ったと思われる人がありますか」

証人=「合同ですから名前の知らない人もおりますから、ちょっとわからないですね」

植木弁護人=「では記憶で、これは石川宅の一回目の捜索の時の調書ですが、これを一回目ということで思い出していただいて、その時にあなた以外に写真班の人がおりましたか」

証人=「ちょっと記憶にないですね」

植木弁護人=「少なくとも県警本部からはあなた一人ですか、それともあなた以外にいましたか。県警本部の鑑識の方はあなた以外におりましたか、写真班の方は」

証人=「一回目の時ですね。ええ、おります」

植木弁護人=「そこに書いてある誰ですか」

証人=「ここには名前が載っていない・・・・・・、係の町田勇が行っているかも知れません」

植木弁護人=「その方はこれには載ってないですか」

証人=「これには載っておりません」

植木弁護人=「そうするとこの十四枚の写真の中に町田さんという方が撮ったかも知れない写真もあるんですか」

証人=「・・・・・・・・・・・・」

植木弁護人=「一応写真を見て下さい」

証人=「ちょっと記憶がないんですが」

植木弁護人=「その十四枚あります写真は撮影した写真の全部でしょうか。それともその中から選択したものでしょうか」

証人=「一枚程度はあるんじゃないかと思うんですが」

植木弁護人=「一枚程度、町田さんのがあるかも知れない」

証人=「はい」

植木弁護人=「それは何かおおよそ見当はつくんですか」

証人=「まあ多分、推定で私の撮ったものじゃないという様な気がするものは一枚ありますが」

植木弁護人=「どれでしょうか」

証人=「この一二九八丁の写真です」

植木弁護人=「町田さんのやつが一枚入っているという感じなんですね」

証人=「ええ、そういう風に思います」

植木弁護人=「町田さんが一枚しか撮らなかったということは考えられないわけでしょうね」

証人=「写真貼ったのが私ではありませんので、そのことについてはちょっと詳しくはわかりません」

植木弁護人=「それではそこに添付されている写真はその時にあなたが撮影された写真の全部が添付されてあるんでしょうか、それともあなたが撮影されたものの内、一部が添付されているんでしょうか」

証人=「大体全部が貼られていると思います」

植木弁護人=「先程の質問にかえりますが、町田さんという方も行かれて、その方も写真を撮られているとして、その方の写真が捜索に行かれてたった一枚しかない、一枚しか撮らなかったということはちょっと考えられませんね。町田さんの中からは一枚が選択されてそこにあるという風に考えられるわけですね」

証人=「そうですね」

植木弁護人=「(昭和四十五年六月十七日付検察官証拠調請求書・証拠六に記載の昭和三十八年六月十八日付小島朝政作成の〈捜索差押調書〉一通を示す)この六月十八日付小島さんの作成した捜索差押調書、これを見ますとやはり石川方のですね、それであなたの名前が載ってますので、あなただろうと思いますが、いかがですか」

証人=「これは第一回目の捜索ですか」

植木弁護人=「二回目です」

証人=「失礼しました。第一回目のそちらの写真の時は私一人でした。この方は、町田も行って立会ってると思います」

植木弁護人=「先程の第一回目の時は訂正されるわけですか」

証人=「そうです、記憶違いでした」

植木弁護人=「それには町田さんの名前も出てる」

証人=「町田は外廻りをやって、私が中をやっております」

植木弁護人=「そうしますと町田さんの写真はどれとどれと一応言ってみて下さい」

証人=「多分、外周は全部町田が撮っています」

植木弁護人=「屋内は全部あなた」

証人=「はい、そうです」

植木弁護人=「それ以外には写真班の方はいなかったんですか」

証人=「おりません」

植木弁護人=「一回も二回も共通してですが、写真を撮る場合にはあなた自身からみた場合に、どういう経緯で撮るんですか。あなたが自分で判断して撮るとか、誰かに言われて撮るとか」

証人=「検証官の指示によって撮るわけです」

植木弁護人=「小島さんという意味ですか」

証人=「はい」

植木弁護人=「だけの指示ですか」

証人=「そうですねえ」

植木弁護人=「そのほかの方からの指示ないし要請というのは」

証人=「ないと思います」

植木弁護人=「それで六月十八日付の捜索で写真が六つありますけれども、この写真は、その添付してあるのは町田さん及びあなたが撮影した写真の全部ですか、大部分ですか、一部ですか」

証人=「大部分じゃないかと思います」

植木弁護人=「全部とは言えないわけですね、そうすると」

証人=「結局そこを狙った以外のものが入っているとすれば、それをカットしますから、全部とは言い切れません」

植木弁護人=「それで今のお話しですと六月十八日の捜索の際の写真については外周・町田さんとすると、屋内はあなたであるというわけなんですが、先程、まぁ、第一回目の捜索について勘違いされたという点はわかりますけれども、町田さんのものじゃないかと推定したと言われた一二九八丁の写真は屋内の写真なわけで、そうすると、どういうわけで町田さんのものと勘違いされたのか、そのわけをちょっと、どうしてさっきは町田さんのものだと思ったんでしょうか」

証人=「大体、写真を見ますと、その、自分の癖というのが出ますので、主観で一二九八丁のは自身のじゃないと思ったからそう言ったんです」

植木弁護人=「あなたの個人的な癖が出てない写真だと」

証人=「はいはい」

植木弁護人=「それらを見て下さい(同じく小島朝政作成による昭和三十八年六月二十六日付捜索差押調書添付の一三一三丁以下の写真を示す)」

証人=「これは私の、万年筆の時の写真ですね。これは私です」

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○ほほお、この小堀証人が万年筆発見時の写真撮影者であったか。この先の証言は興味深い内容になりそうである。また、今回弁護人が単刀直入に万年筆の件から尋問を始めない点が実に巧みであり、高度な弁論技術が窺われる。

植木弁護人の示した写真がどういった物か、私の手元には資料がないが、捜索時間わずか二十四分、場所は石川一雄被告人宅勝手場入口の鴨居の上となる被害者の万年筆は、捜査員の指示により被告人の兄が素手で鴨居から取出すという、あってはならぬ方法が取られる。

この写真が小堀二郎証人の撮影によるものか私には確認出来ないが、そこには見ての通り、石川一雄被告人の兄六造さんの姿が写っている。(写真は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用)