アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 632

【公判調書1970丁〜】

                   「第四十回公判調書(供述)」⑮

証人=河本仁之(三十七歳・弁護士。事件当時、浦和地検検察官)

                                         *

橋本弁護人=「あなたの調書に、被告人が善枝さんを姦淫しながら殴ったというようなことが記載されていますが、善枝さんの死体に殴られたような痕跡がありましたか」

証人=「死体の状況についての記憶は姦淫されていたということ以外ははっきり残っていません」

橋本弁護人=「殴打された痕跡があったかどうかについては現在記憶がないということですか」

証人=「はい」

橋本弁護人=「七月八日付の調書に、脅迫状を作るについて少女雑誌から漢字を捜し出したというような供述がありますが、あなたは脅迫状作成の状況について調書を作成した記憶がありますか」

証人=「はっきりしませんが作成しているのではないかと思います」

橋本弁護人=「その少女雑誌について当時どういう認識をしていましたか」

証人=「脅迫状に使う文字を捜すために少女雑誌を使用したと記憶しています」

橋本弁護人=「使用した雑誌の種類はどうですか」

証人=「記憶ありません」

橋本弁護人=「りぼんちゃんという少女雑誌でしたか」

証人=「そう言われて思い出しました」

橋本弁護人=「りぼんちゃんの何年何月号か記憶ありますか」

証人=「それは記憶ありません」

橋本弁護人=「被告人の調書をずっと見ると、当初の段階ではりぼんちゃんの二宮金次郎の写真のあるもの、これは昭和三十六年十一月号ですが、それを使用して脅迫状を作成した、すなわちある特定の一冊の雑誌を使って脅迫状を作成したという供述になっているのですが、あなたが作成した起訴直前の調書では『私が脅かしの手紙を書いた時、むずかしい漢字をリボンチャンという雑誌から探して書いた訳けだが、リボンチャン一冊ではなく、それを一緒にあった美智子の漫画の本、四、五冊の中からも漢字を探した様な気もします』(記録第七冊第二、三六五丁表四行目以下)という風になっていて、私の方から言えば重要な変更があるのですけれども、どうしてこういう調書の記載になったのですか」

証人=「その段階では非常に素直に供述してくれていましたから、被告人の方で思い出して述べたのではないかと思います」

橋本弁護人=「調書をずっと見るとあなたの方から質問をしたのではないかという風に読み取れるのですが、被告人が思い出して述べたのですか」

証人=「りぼんちゃん一冊だけから字を拾ったかという質問はしたかも知れません」

橋本弁護人=「それに対して今のような答えがあったのですか」

証人=「と記憶します」

橋本弁護人=「被告人が特定したりぼんちゃんの中には脅迫状に記載されている漢字がなかったという事実があるでしょう」

証人=「その点記憶ははっきりしません」

橋本弁護人=「警察の報告書によると、被告人が特定したりぼんちゃん、これはりぼんちゃんでなくりぼんですが、この雑誌の中には脅迫状に使われている『刑札』の『刑』という文字がないということが発見されたわけです。従って当初の自供は客観的事実と食違っているわけです。それが分かったのは六月の末頃らしいですが、そこで調書がりぼんちゃん一冊でなくほかの漫画の本も使ったのだという風に変わって来ているわけです。ですからあなたはそういう事実を知った上で質問したのではありませんか」

証人=「そういうことがあるとすればその点を意識して質問したのかも知れませんね」

橋本弁護人=「りぼんちゃん一冊でないとすると、どういう漫画の本を使ったのか、それについて裏付けを取りましたか」

証人=「当然取っただろうと思いますが、どういうことをしたか記憶がありません」

橋本弁護人=「裏付けは取れたのですか」

証人=「取れたか取れなかったか記憶が定かでありません」

橋本弁護人=「あなた自身その裏付けを取るために被告人の家族に会って事情を聞いていませんか」

証人=「私は被告人の家族とは正式には会っていないと思います」

橋本弁護人=「そのりぼんちゃんの件以外にもですか」

証人=「会っていないだろうと思います」

橋本弁護人=「正規の取調べとしては一度もないのですか」

証人=「正式の取調べとしては会っていないと思います」

橋本弁護人=「正規の取調べ以外の接触はあったのですか」

証人=「私は被告人方の捜査に立ち会ったことがあるのでそのとき被告人の家族の方の顔は見ました」

橋本弁護人=「捜索というのはいつのですか」

証人=「はっきりしません」

橋本弁護人=「五月二十三日逮捕のとき家宅捜索をしていますが、そのときあなたが立ち会っていないことは明瞭でしょう」

証人=「はい」

橋本弁護人=「再逮捕の直後六月十八日に家宅捜索をしていますが、そのときですか」

証人=「おそらくそのときだろうと思います」

橋本弁護人=「立ち会ったというのはどういう意味で立ち会ったのですか」

証人=「警察が家宅捜索をするのについて捜査を担当している検事が立ち会ったというだけのことです」

橋本弁護人=「警察を指揮したというわけではないのですね」

証人=「具体的に指揮したというほどのことはありませんでした」

橋本弁護人=「刑事訴訟法上も指揮ということではないのでしょう」

証人=「そうですね」

橋本弁護人=「共に捜索をしたということになるのですか」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「被告人宅の捜索はもう一度六月二十六日にもしていますが、あなたが立ち会ったのは六月十八日ですか」

証人=「六月十八日のときだと思います」

橋本弁護人=「他に警察官何人かが行ったわけですね」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「何人ぐらいですか」

証人=「二、三十人は居たのではないかと思います」

(続く)