アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 631

【公判調書1967丁〜】

                  「第四十回公判調書(供述)」⑭

証人=河本仁之(三十七歳・弁護士。事件当時、浦和地検検察官)

                                          *

橋本弁護人=「先程、善枝さんの家族から善枝さんの所持品について事情を聞いたと証言しましたね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「所持品の中に財布があったということを聞きましたか」

証人=「はい」

橋本弁護人=「どういう風に聞きましたか」

証人=「善枝さんの持っていた財布はどういう財布だったかということを善枝さんの家族から詳しく聞いた記憶があります」

橋本弁護人=「それを調書に作成しましたか」

証人=「作成したと記憶します」

橋本弁護人=「財布の形、中味についてどのように記憶していますか」

証人=「その点については記憶ありません」

橋本弁護人=「財布をいくつ持っていたか個数について聞きましたか」

証人=「今の記憶では一個だったように思います」

橋本弁護人=「中味はいくらぐらい入っていたか記憶ありませんか」

証人=「取るに足りないような金額だったように記憶します」

橋本弁護人=「取るに足りないというと、千円以上、千円以下に分けると千円以下ですか」

証人=「女学生としてこのくらい持っていて不思議ではないと思われる程度の金額だったと思います。特に沢山持っているなという印象を受けた記憶はありませんから」

橋本弁護人=「では千円以下というくらいですか」

証人=「そうでしょうかね」

橋本弁護人=「その財布は善枝さんが行方不明になった当時身に着けていたものかどうかの点については確認が取れましたか」

証人=「記憶がはっきりしません」

橋本弁護人=「善枝さんの家族の供述によると、その財布は善枝さんが身に着けていたということだったのではありませんか」

証人=「そうだったろうと思います」

橋本弁護人=「その財布は死体、教科書、鞄などと共には発見されませんでしたね」

証人=「そうですね」

橋本弁護人=「財布について被告人にどういう質問をしたか記憶ありますか」

証人=「財布についても尋問したと思いますが内容は記憶ありません」

橋本弁護人=「脅迫状の中に身分証明書が入っていましたね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「その身分証明書はどこに入れてあったかということは家族から確認しましたか」

証人=「聞いたと思いますが供述内容は記憶ありません」

橋本弁護人=「あなたが取った七月四日付の被告人の供述調書第五項に『私が善枝ちゃんから取った財布だが、赤茶色の細長い三つ折りの財布だと話してきたが、色については茶色の様でもあり、赤っぽい色だった様でもあり、桃色みたいだった様でもあって、あまりはっきりしないのです。大きさは普通のパス入れくらいの大きさであり、・・・・・・一面がビニールの透かしになっていて、そこに善枝ちゃんの写真の貼ってある紙が入っていて、写真が表から直ぐ見えるようになっていたのです』(記録第七冊第二、三二五八丁裏五行目以下)という記載がありますが、そういう調書を作成した記憶はありますか」

証人=「私の調書の癖が出ているのでそういう調書を取ったと思います」

橋本弁護人=「原検事の冒頭陳述では善枝さんの身分証明書は手帳の中に入っていたとなっており、あなたの調書では身分証明書は財布の中に入っていたとなっているわけですが、そのへんの食違いに気付いたことはありませんか」

証人=「迂闊にも気が付きませんでしたが、手帳の中に入っていたという供述もあるのではないでしょうか。原検事はそれを取ったのではないでしょうか」

橋本弁護人=「あなたは当時、身分証明書が手帳の中に入っていたか財布の中に入っていたかということについては認識しなかったのですか」

証人=「当時の私の認識は今読まれた調書に取った通りだったと思います」

橋本弁護人=「それから、調書の中に三つ折りの財布は取ったけれども中味は見なかったという意味のことがありますが、これは金を目当てに財布を取ったという場合にしてはおかしいと思うのですが、そういう疑問を持ったことはありませんか」

証人=「今にして考えればおかしいと言えばおかしいでしょうね」

橋本弁護人=「それを解明するような調書は取っていませんか」

証人=「質問としては聞いたかも知れませんが調書には取っていないのだと思います」

橋本弁護人=「更におかしいのはその財布をどこかに無くしてしまったという供述が調書に記載されていますが、三つ折り財布についてのあなたの記憶はどうですか」

証人=「無くしてしまったと述べたのであれば事実そうなのだろうと思いますが、被告人の犯行の際の行動範囲は相当広かったのでその途中で無くしたのではないかということで、あながち不自然にも思わなかったと思います」

橋本弁護人=「その供述の裏付けを取るための捜査をしましたか」

証人=「記憶ははっきりしませんが、被告人の行動したあとを警察が捜したと思います」

橋本弁護人=「そう思うだけで確認はしていないのですか」

証人=「していません」

橋本弁護人=「検察側が独自にやったということはないのですか」

証人=「独自にはやっていないだろうと思います」

橋本弁護人=「財布をどの辺で無くしたかということについてはどういう供述記載になっているか覚えていますか」

証人=「その点は記憶ありません」

橋本弁護人=「何れにしろ検察側としては財布の行方について警察側とは別個に独自の捜査はしなかったということですね」

証人=「検事が被告人の辿った道を捜して回るということはしなかったことは間違いないと思います」

橋本弁護人=「この事件で当時狭山市は何百人という報道関係者も入って上を下への大騒ぎでしたね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「本件被害品のうち時計、万年筆という若干金目のものは出たけれども財布だけは出ないという事実が残っているのですが、もしどこかに落ちていれば出て来るのではなかろうかという感じを受けますが財布が出ないということについて疑問を感じませんでしたか」

証人=「被告人の行動した範囲が普通の道路ばかりでなく、山の中とか野原とかいろいろ動いているわけです。そういうところで落としたとすれば見つからないのもあながち不自然ではないだろうと思ったのでしょう」

橋本弁護人=「しかし被告人の行動経路はすべて検事側には明確になっていたのでしょう。かなり詳細な調書があり地図まで付いているのだからそのあとを全部捜せばそれほど無理な捜査でもないように思われるのですが」

証人=「しかし実際問題として山の中でそういうものを捜し出すのは容易ではないだろうと思います」

橋本弁護人=「何れにしろ検察側としては独自の裏付け捜査はしなかったということですね」

証人=「警察の捜査を引継いだというかその結果を信頼したということでしょうね」

橋本弁護人=「被告人が財布の紛失にどこで気付いたかという点について、調書は二種類ありますが気付いていますか」

証人=「今記憶はありません」

橋本弁護人=「ある調書では中田善枝さんの家に着いたときに財布が無くなっているのに気付いたとなっており、ある調書では自分の家に帰ったときそれに気付いたとなっているのですが、どうですか」

証人=「その食違いに気付いたという記憶はありません」

(続く)