アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 633

 

(狭山事件検証調書より転載)

【公判調書1973丁〜】

                 「第四十回公判調書(供述)」⑯

証人=河本仁之(三十七歳・弁護士。事件当時、浦和地検検察官)

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橋本弁護人=「あなたが取った被告人の供述調書は法廷に全部出されていますか」

証人=「全部提出された記憶です」

橋本弁護人=「一審の段階で残っていたものはありませんか」

証人=「ないというように記憶します」

橋本弁護人=「この事件は被告人の自供がなければ起訴できましたか。起訴できるだけの物証が集まっていましたか」

証人=「最初の逮捕、勾留のとき恐喝未遂というのが入っていましたが、それは処分保留となったようですから、その点から推察すると自供がなければ起訴はなかなか難しかったかも知れません」

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山上弁護人=「昭和三十八年五月一日当時あなたは結婚していましたか」

証人=「結婚していました」

山上弁護人=「あなたが作成した昭和三十八年七月三日付被告人の供述調書第六項に『善枝ちゃんを山へ連れ込んだりおまんこをしたりした時、善枝ちゃんの顔を殴ったかどうかはっきりしません。もし殴ったとすればおまんこをしている時だと思うがはっきりしません』(記録第七冊第二、三一三丁表七行目以下)という記載がありますが、そういう記載があればそういう供述があったということですか」

証人=「そうです」

山上弁護人=「おまんこをしているときに殴るというのはどういう状況なのか、あなたは石川君にそういう状況をさせてこの調書を取ったのですか」

証人=「そういうえげつないことはしません」

山上弁護人=「性交をしながら殴るということは可能なのだという判断でこの調書を作成したのですか」

証人=「十分可能であると考えてそういう調書を取ったと思います」

山上弁護人=「その調書を作成する前に原検事作成の調書には大体目を通していたのですね」

証人=「はい」

山上弁護人=「殴ったということが調書に出て来るのはあなたの調書が初めてだと判断されるのですが、あなたの記憶はどうですか」

証人=「私が質問したときに被告人がそういう供述をしたからそれを調書に取ったのだと思います」

山上弁護人=「被害者の顔面に傷があったのですか」

証人=「被害者の死体の状況についてははっきりした記憶はありません」

山上弁護人=「調書を取るときにもそういう記憶はなかったのですか」

証人=「もし傷があったとすれば調書を取るときはそれを念頭においていたと思います」

山上弁護人=「どちらの手で顔のどちら側を殴ったかは調書に出ていませんが、それには理由があるのですか」

証人=「顔面に傷が残っていれば詳細に聞くべきだと思います」

山上弁護人=「殴ったということをあなたの方から積極的に尋ねたのですか、どうですか」

証人=「現在の記憶としては殴ったのか殴らないのかということを尋問したかどうかについての記憶がはっきりしないのです」

山上弁護人=「そうすると、殴ったということは被告人の方から言ったものであるかどうかも記憶がないということですか」

証人=「質問に応じて答えたものか、自発的に述べたものかの記憶もはっきりしません」

山上弁護人=「どういう風に殴ったかという点は聞かなかったのですか、それとも聞いたけれども調書に載せなかったのですか」

証人=「客観的事実として被害者の顔面に傷があったのであれば捜査官として、その傷はどうしてできたのかを聞くべきである、という風に考え得るわけです」

山上弁護人=「あなたの作成した昭和三十八年七月六日付石川一雄君の供述調書第一項に『私が善枝ちゃんを引っ張り込んだ山の事だが、最初に道の左側の山に引っ張り込み、次に道の右側の山に引き込んだのです』(記録第七冊第二、三三七丁表末行以下)とありますが、どういう状態で被害者を引っ張って行ったのかということが出ていないのですが、どういう状態だったか当時の判断はどうでしたか。被害者は相当活発な女性で体格もしっかりしていたということが証拠上明らかですが、ついて来いと言われてついて行ったのか、あるいは暴力的に連れて行かれたのか。なお、同じ調書に『時計等を取って、おまんこをしたくなり、一旦ほどいて道を横切り反対側の山の"すぎ"と書いた中の辺でおまんこをやった訳で、その松の木と道との距離は大体の見当で二、三メートルです』(同第二、三三八丁表三行目以下)とあり、被害者は一旦縛られたのち、ほどかれたということですが、ほどかれたのちに逃げようとしなかったのかどうかの状況が現われていないのですが、その点の判断はどうですか」

証人=「被害者が相当活発な女学性だったという記憶はあります。一方、被告人の方も腕力衆(注:1)に優れた青年であるという記憶があります。そこで、男女の性別もあるし、被害者は恐怖心に駆られて、いわば金縛りという状態で引っ張り回されたと、という風に考えていたのではないかと思います」

山上弁護人=「調書の中に具体的にどういう状況で引っ張って行ったという記載がないのは何か理由があるのですか」

証人=「それは私の未熟と申し上げるほかないと思います」

山上弁護人=「そうではなくて、石川君にどういう仕方で引っ張って行ったのかということを聞いても、石川君が答えられなかったから記載してないのではありませんか」

証人=「そうではないと思います」

山上弁護人=「やはりあなたの未熟ですか」

証人=「未熟もその一因でしょうし、それから原検事の調書の補足という意識があったし、原検事の調書で既にかなり詳細にそういう点は取られていたので、ある程度筋書的な調書になったのではないかとも思います」

山上弁護人=「あなたは原検事の調書の補足をするという意味で調書を取ったのならもっと詳細に調書を作成すべきではなかったかという風に思うのですが、その点はどうですか」

証人=「補足というのは原検事の調書で簡潔に取られている部分を詳細にするという意味ではなく、原検事の調書で取りもらされている箇所を意識して取ったのではないかと思います。従って原検事の調書で既に詳細に取られている部分は筋書的になったという面もあっただろうと思います」(続く)

(注:1) 衆に=おおいに。(腕力おおいに優れた青年)

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○被告人が被害者を殴ったとするならば、それは右手か左手か、平手か拳骨かまで特定することが取調官の仕事となろう。