アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 639

(写真は当時の新聞記事のコピー)

【公判調書1991丁〜】

                    「第四十回公判調書(供述)」㉒

証人=河本仁之(三十七歳・弁護士。事件当時、浦和地検検察官)

                                          *

主任弁護人=「少時という人をあなたとしては実在する人物と考えて捜査したわけでしょう」

証人=「はい」

主任弁護人=「その意味は、ショウジという音読みの人がいるという意味で実在ですね」

証人=「そうです」

主任弁護人=「それに当たる人は江田昭司を含めて二、三人いたということですね」

証人=「そうです」

主任弁護人=「"少時"と書いてあったわけですが、そういう字の名前の人がいるかどうかという意味での実在性、あるいは架空性についてはどう考えていたのですか」

証人=「被告人が適当に当て字を書いたと考えていました」

主任弁護人=「"少時"という字の名前の人がいるかいないか問題になったことはありませんか」

証人=「かなり当て字が多いので、これも当て字であろうということで、その字の名前の人がいるかいないかということはあまり問題にしなかったと思います」

主任弁護人=「そういう字の名前の人はいないだろうということをこの法廷で述べた捜査官もいるのですが、あなたが今述べたことも考え合わせると、これは当て字で、こういう字の名前の人はいないだろうという前提で捜査を進めていたと考えてもいいわけですか」

証人=「そうですね。"少時"と書く人は日本中捜してもいないのではないかと思います」

                                         *

佐藤検事=「いわゆる第一次逮捕のときにどういう疎明資料をもって逮捕がなされたのかという問いに対して、それは知らないという答えでしたが、証人が直接この事件の捜査を始めたときには既に第一次逮捕は行なわれていたわけですね」

証人=「そうです」

佐藤検事=「この事件について捜査陣に入る段階においてはそれまでに捜査された一件記録に目を通したのでしょうね」

証人=「一応目を通したと思います」

佐藤検事=「その中には、逮捕状請求時までに収集された逮捕状請求の疎明資料になったもの及び逮捕後あるいは勾留後に捜査を続けて収集された供述調書その他の書類なども一緒にあったわけですね」

証人=「一緒にあっただろうと思います」

佐藤検事=「そういう場合に、途中から捜査陣に加わった検察官として、特に逮捕前の逮捕状請求の疎明資料となったものと、逮捕あるいは勾留後に収集された資料というように分けて見るか、それとも自分が捜査に加わったその段階においてどれだけの資料が揃っている、これからどういう調べをするかという頭で資料を見るか、通常はどうですか」

証人=「当面捜査を命ぜられた事項を調べるについて必要な記録をまず検討すると思います」

佐藤検事=「そうするとその場合、その資料が逮捕状請求前に収集された資料であるか、逮捕後に収集された資料であるかということは必ずしも重大関心事ではない、ということですか」

証人=「そういう風にはっきり区分けして意識して検討するということはありません」

佐藤検事=「そうすると、本件について証人が捜査に加わった際に第一次逮捕の逮捕状請求にどの程度の疎明資料があったか知らないというのはそういう趣旨だと聞いていいですか」

証人=「はい」

佐藤検事=「六月十一日に三人共犯説といわれている供述を聞いてそれを録取したことは間違いありませんね」

証人=「はい」

佐藤検事=「そして被告人はその調書に署名押印をしなかったわけですが、署名押印をしない理由について証人は後日被告人から何か聞いた覚えはありますか」

証人=「その点は被告人から聞いていないと思います」

佐藤検事=「既に提出済の、証人が調べて録取した被告人の供述調書の中に、被告人がその理由について説明している部分が若干ありますが、記憶ありませんか」

証人=「記憶としてはありません」

佐藤検事=「証人は、被告人と被害者との出会地点付近の畑の所有者、あるいは耕作者から参考人調書を取ったように思うという趣旨の証言をしましたが、その点の記憶はどうですか」

証人=「極めて曖昧な記憶で、その関係の参考人は私は調べていないかも知れません」

佐藤検事=「警察官が調べた参考人調書もあったように思う、という風な証言もありましたが、その点はどうですか」

証人=「警察官の調書は当然あったという記憶がありますので・・・」

佐藤検事=「それは具体的に見た記憶があるという趣旨ですか、それとも問題が問題だから当然調べていたであろうという、今からの推測ですか」

証人=「今からの推測です」

(続く)

                                           *

○中田主任弁護人の問いに対し河本証人が述べた「"少時"と書く人は日本中捜してもいないのではないか」との証言は実に興味深い。それはなぜか。彼は"少時"という宛名が当て字であると捉えているからだ。

脅迫状の文面には当て字が散りばめられており、執筆者はそこに何らかの策略を巡らせたと私は解釈するのだが、今回の河本証人の供述を見、なるほど、見事に証人はその策略に乗せられていたということが理解できるのである。ただし常識的には、封筒の表に「少時様」と書かれていた場合、それを当て字による宛名と捉えることは極めて稀であろう。

さらに言えば、この脅迫状の宛名を見ると「少時様」と「中田江さく」という二人の名前が確認出来、そうであるならばこの脅迫状の作成者はその宛名である二名を知る者ではないか、との推測も生まれるが、今となってはそれを追う術は無い。