アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 625

【公判調書1950丁〜】

                   「第四十回公判調書(供述)」⑧

証人=河本仁之(三十七歳・弁護士。事件当時、浦和地検検察官)

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橋本弁護人=「被告人の家にそのタオル、手ぬぐいが存在した可能性があるということはわかっていたわけですね」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「タオル、手ぬぐいが第一次逮捕から第二次逮捕までの間に、さらに一層緊密に被告人と結び付く新しい証拠が出て来ましたか」

証人=「タオル、手ぬぐいの関係は確か滝沢検事だったと思いますが、非常に緻密に調べ、警察の捜査当時よりもさらに事情が明確になったのではないかという風に思います」

橋本弁護人=「滝沢検事の証言はこの法廷でも聞きましたが、滝沢検事の詳細な捜査によってもタオル、手ぬぐいが絶対的に被告人の家にあったかどうかについては不明である、いずれにしろ存在した可能性はある、ということが言われています。ですから、タオル、手ぬぐいは第二次逮捕の際には特段の資料にはならなかったと思うのですが、どうですか」

証人=「再逮捕の逮捕状を取ることに関与していないので疎明資料の関係については責任を持って答えられません」

橋本弁護人=「再逮捕を予想していた根拠はどうなのですか」

証人=「具体的な根拠については記憶がはっきりしません」

橋本弁護人=「第二次逮捕の根拠となるものについて先ほど荒縄を挙げましたが、五月二十三日の第一次逮捕から六月十七日の第二次逮捕までの間に、荒縄の捜査について進展がありましたか」

証人=「私の捜査によって事実が更に明らかになったということは格別なかったと思います」

橋本弁護人=「あなたの捜査は警察の捜査の裏付け程度ですか」

証人=「上塗りになりましょうか」

橋本弁護人=「特段新しい事実は出なかったのですか」

証人=「出て来なかったと記憶します」

橋本弁護人=「中川ゑみ子の宅の庭先に垣根代わりに張ってあった荒縄が紛失したという事実と、その隣に建築現場があり、その建築現場の周囲に大工さんが張っておいた荒縄が一部紛失したという事実があったようで、捜査当局はこの事実を被告人が自供を始める前のかなり初期の段階から知っていたようですが、あなたは殺害現場、死体を埋めた現場は見ましたか」

証人=「見ました」

橋本弁護人=「あの周辺に茶畑がありますね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「茶畑に荒縄が敷き込んであるのを当時見たことがありますか」

証人=「見たかも知れませんが記憶ありません」

橋本弁護人=「本件の荒縄の出所はそういう所にあるかも知れないということを当時考えたことはありませんか」

証人=「そういう風には考えませんでした。考えなかったところをみると茶畑に縄などはなかったのではないでしょうか」

橋本弁護人=「そういう所から出たのではないかとの新聞記事もあったようですが、そういうことを考えたことはありませんか」

証人=「記憶ありません」

橋本弁護人=「あなたの現在の記憶としては、六月十七日の再逮捕はどういう証拠に基づいて決定されたかについては不明だということですか」

証人=「関与していないからわからないということです」

橋本弁護人=「被告人の直接の取調べを命ぜられ、のちにその取調べから外されたのには理由があるのですか」

証人=「おそらく茶碗の一件などもあって、被告人との関係が円滑にいかなくなったということもあったので調べからおりたということだと思います」

橋本弁護人=「六月十七日の再逮捕があったときあなたの気持はどうでしたか。法律家にとってみれば再逮捕というようなことは、ある意味では異常なことと思いますが」

証人=「やはり再逮捕したかというのが実感です」

橋本弁護人=「再逮捕するには根拠薄弱ではなかろうかとは思いませんでしたか」

証人=「逮捕状の請求者と発付した裁判官を信頼しました」

橋本弁護人=「当時ジャーナリズムは再逮捕に批判的だったのではありませんか」

証人=「賛否両論あったのではないかと記憶します」橋本弁護人=「再逮捕しなければならない必要、被疑者の逃亡、証拠を隠すとか壊すということを恐れる具体的状態はあったのですか」

証人=「再逮捕そのものに関与していませんから何とも言えませんけれども、そういう法律上の必要があったから請求し且つ発付されたのではないかと思います」

橋本弁護人=「あなたは当時の検察官であり取調官なのだから確固とした考えがあったのではありませんか」

証人=「補助検事というものは命ぜらたことを調べ上げるという性質なものですから、事件全体の流れとか筋とかいうことにはそれほど深く関与しないわけです」

橋本弁護人=「私たちは被告人の自白を得るため再逮捕したのではないかという風に考えておりますが、仮に釈放しても捜査側に不利なこと、つまり逃亡とか証拠隠滅とかいうことはなかったのではありませんか」

証人=「しかし全面自供ののちにいろいろの重要な証拠品が出て来たのだからそうとも言えないのではないでしょうか」(続く)

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写真は本文とは全く関係ないが、明治時代の入間川橋である。ここに写る馬のシルエットが、先々週のレースで三千円突っ込みながらも泡と消えたファントムシーフの馬体と似ていないか、などという話を今ここで言うことは控えよう。