アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 621

狭山事件においてこの証人は、被害者の遺体に巻かれた縄の捜査や被告人の取調べに従事しており、その意味では事件を肌で感じ、いくら鈍感であろうとも常識的にはその携わった事柄にはある程度の記憶が残ろうと思うが、それは予断と呼ばれるらしい。

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【公判調書1940丁〜】

                  「第四十回公判調書(供述)」④

証人=河本仁之(三十七歳・弁護士。事件当時、浦和地検検察官)

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橋本弁護人=「私共は、五月二十三日の第一次逮捕は違法な逮捕である、つまり窃盗などの余罪に藉口(注:1)した、いわゆる別件逮捕であると一審以来主張しているわけで、それでお尋ねするのですが、恐喝未遂の嫌疑を持ったというについては、いかなる根拠、資料があったのですか」

証人=「最初に嫌疑を持って逮捕状を請求して取ったのが私でないのではっきり分かりませんが、いずれにしても裁判所が逮捕状を出したわけですからそれ相応の疎明資料は揃っていたのだろうと思います」

橋本弁護人=「あなたは先程、石川君を全般について調べたという風に言いましたが、全般というのはどの範囲のことですか」

証人=「恐喝未遂の事実が中心だったと思います」

橋本弁護人=「具体的に言ってください」

証人=「脅迫状を作って被害者方に届け、翌日か翌々日かの晩に狭山の茶畑の近くに金を取りに来た。それを警察官が取り逃がした、というその関係について聞いたと思います」

橋本弁護人=「あなたが取調べをした段階では被告人は自供していたのですか、それとも否認の段階だったのですか」

証人=「否認していました」

橋本弁護人=「否認というのは全面否認ですか、それとも一部を認めて一部を否認するという形だったのですか」

証人=「全面的に否認していたと記憶します」

橋本弁護人=「それは警察官に対しても検事に対してもですか」

証人=「そう記憶します」

橋本弁護人=「昭和三十八年六月十一日付のあなた名義の被告人供述調書がありますが、記憶ありますか」

証人=「そのころに作成したような記憶があります」

橋本弁護人=「その調書には被告人の署名押印がありませんが、そういう被告人の署名押印のない調書を作成した記憶がありますか」

証人=「あります」

橋本弁護人=「そういう調書は何通ぐらいありますか」

証人=「私の記憶では一通だと思います」

橋本弁護人=「今言った、被告人の署名押印のない調書作成以前に被告人の調書を作成していますか」

証人=「作成していないのではないかと記憶します」

橋本弁護人=「それから後、被告人が全面自供を始めるまではどうですか」

証人=「全面自供を始める前においてはその調書一通しか取らなかったように記憶します」

橋本弁護人=「六月十一日付の調書を作成した場所はどこですか」

証人=「狭山警察署だったと思います」

橋本弁護人=「時刻は何時ごろでしたか」

証人=「夕刻から夜にかけてではなかったかと思います」

橋本弁護人=「夜は何時ごろまででしたか」

証人=「七時か八時かそれほど遅くもない時間だったと記憶します」

橋本弁護人=「夕刻というのは何時ごろですか」

証人=「夕刻としか言いようがありません」

橋本弁護人=「留置人の食事時間を基準にして考えると、食事が終わった後ですか、あるいは終わる前からですか」

証人=「調書を作り始めたのは夕刻後だったのではないかと思うのですが」

橋本弁護人=「食事時間からいうと」

証人=「食後ですね」

橋本弁護人=「あなたが取調べに当たったのはそれより前ですか」

証人=「取調べはその日の朝からやっていたと思います」

橋本弁護人=「その日は警察官は取調べをしていないわけですか」

証人=「していないと思います。私だけだったと思います」

橋本弁護人=「そのときの取調状況はどうでしたか」

証人=「そのときが被告人の取調べを始めた一日目か二日目か、とにかく最初の頃だったと思うのですけれども、恐喝未遂の事実を中心にいろいろ聞いて行き、それについて被告人は最初は否認していました。途中には雑談などもあったと思うのですけれども、時間的にどのくらい経過してからかは分かりませんが私が調書に取ったような趣旨の供述をしたように記憶します」

橋本弁護人=「その調書に取った趣旨の記憶が今ありますか」

証人=「大体記憶しております。被告人自身と外二名の共犯者で本件を敢行したという趣旨の供述だったと思います」

橋本弁護人=「つまり、三人共犯で本件を行なったという自供になったわけですね」

証人=「そうですね。自供といいますか、自認といいますか」

橋本弁護人=「被告人以外の二人については名前を言いましたか」

証人=「名前は言わなかったと記憶します」

橋本弁護人=「その取調べの時あなたは現在のようにめがねをかけていましたか」

証人=「このめがねではありませんが、かけていました」

橋本弁護人=「三人共犯というのはあなたにとって予想していたことですか」

証人=「当時、単独犯なのか共犯なのかその辺にかなり問題があり、あるいは二、三名の共犯による犯行ではないかという推定もあったと記憶しますので、それほど意外なことではありませんでした」(続く)

 

(注:1)「藉口=しゃこう」何かにかこつけること。都合のよい口実にすること。