アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 615

昭和三十八年五月二十三日、石川一雄氏は逮捕される。容疑は傷害、窃盗、恐喝未遂。

                                           *

【公判調書丁〜】

                 「第三十九回公判調書(供述)」㉕

証人=中  勲(五十七歳・埼玉県消防防災課長。事件当時、埼玉県警刑事部長)

                                         * 

山上弁護人=「石川一雄くんの場合どういう捜査上の必要があってあなたは行かれたんですか」

証人=「真実な自供であるかどうか、或いは、警察が無理をしているのではないかという様なことを中心に私は・・・・・・」

山上弁護人=「つまりあなたの難事件とおっしゃるのは、警察の捜査の段階で完全に被疑者とされている人が、果たしてクロかシロかわからないという場合に、部長としての責任において隣で聞くと、こういうことですね」

証人=「いや、私は、刑事部長在任中でも大体夕刻は本部のあるところには仕事が終わってから出て行っております。殆ど夜うちへ帰ったことはない、特捜本部へ参りますから。そして取調べをしてる時には、ひとつ隣で聞かしてもらおうかということで、これはまあ日常やっていることでございました。特に、特別な事柄じゃないです」

山上弁護人=「私が、捜査の必要で聞くとはどういうことかという問に対して、真実を述べておるかどうかを見るために聞くと、こう証言されましたね」

証人=「警察の取調べその他でも、無理その他がないかどうかという様なことを念頭に置きまして聞いたわけです」

山上弁護人=「警察の取調べに無理があるかどうかということは、この石川さんの捜査について無理があるかどうかということが問題となっておったんですか」

証人=「なっておりません」

山上弁護人=「じゃ、何故あなたは取調室の横にいて無理があるかどうか調べる必要があるんですか」

証人=「なかなか供述をしない、事件ですから、供述がぼつぼつ始まったということですから、それに対して取調べ上の無理があるかどうかということは、当然刑事部長として関心を持つべき事柄だという風に考えております」

山上弁護人=「取調べ上の無理というのは具体的にはどういうことですか」

証人=「たとえばよく言われます・・・・・・」

山上弁護人=「たとえばでなく、石川くんについて言うて下さい。石川一雄くんの事件について、無理があるかないかということは、もう少し具体的に言うとどうですか」

証人=「別に具体的にといいましても要するに任意の自供がなされておるか、警察の圧力がかかっているかどうかという様な点でございます」

山上弁護人=「あなたがお聞きになる前提として、石川くんは、捜査に協力しないというか、自分は関係がないんだということを主張しておったために、あなたが行く必要があったわけですか」

証人=「いや、私は、もう平素行っておりました」

山上弁護人=「平素というと、この事件について・・・」

証人=「この事件についても七十何日という捜査をしましたけれども、現地へ行かない日は一日もございません」

山上弁護人=「何回取調室の横で聞きましたか」

証人=「二回ぐらい聞いたと思います」

山上弁護人=「いや、もっと聞いておられるんじゃないですか。もっともっと聞いておられるように調べておりますよ、どうですか」

証人=「二、三回のような記憶です」

山上弁護人=「もっと聞いておりますよ、正直に言うて下さい。あなたが別に不利益になるわけでもない、あなたが、それだけ真剣に捜査されたということですから。隣で聞いたのはもっとでしょう」

証人=「隣で聞いたというのはそんなものだと思います」

山上弁護人=「二、三回ですか」

証人=「はい」

山上弁護人=「四、五回くらいはどうですか、本当のことを言って下さい」

証人=「三回ぐらいだと思います」

山上弁護人=「それはどういう段階で隣に行かれましたか。何月何日ごろ」

証人=「覚えておりません。毎日のように行ってる過程で、じゃあ調べているということで聞いたと思います」

山上弁護人=「あなたのほうのご見解では、石川一雄くんが自供したのはいつなんですか。あなたの記憶ですよ」

証人=「二十一日頃じゃないでしょうか。再逮捕したのが十七日頃ですからね」

山上弁護人=「と、記憶してる」

証人=「はい」

山上弁護人=「その後二十五日、二十六日頃に記者会見してることがございますね」

証人=「二十五日にしてます」

山上弁護人=「その時の、石川くんに対する罪名はもう既に切りかえておりましたか、どういう罪名でしたか」

証人=「切りかえておったと思います。逮捕状をとる段階で」

山上弁護人=「どういう罪名でしたか」

証人=「強盗強姦、死体遺棄、そこに恐喝未遂がついておりましたでしょうか」

山上弁護人=「あなたの記憶違いじゃないかと思いますが。六月二十五日には強盗という罪名は付いていなかったでしょう」

証人=「付いていなかったでしょうか、ちょっと記憶にございません」

山上弁護人=「新聞記事によれば、強盗罪という罪名を付けなかったのには理由があるんだと、その理由を証人ご自身が説明を新聞記者に対してなさっておるように記事がございますが、ちょっと思い起こしていただけませんか。新聞記者が、強盗が抜けておるのはどういうことですかということについて、あなたの方でご説明なさってるんですが、もうちょっと思い出してもらえませんか」

証人=「全然記憶がないです」

山上弁護人=「強盗という罪名が付いていなかったかも知れないという記憶はありますか」

証人=「ないです。私は付いてると思うんですが、現実に証明書ですか、ああいったものを取ってるわけですから、強盗が付いてるような感じがしますけれども」

山上弁護人=「後で必要に応じて証拠を出す必要があるかも知れませんけれども、強盗という罪名を付けなかったのは、強盗、つまり物を盗るという動機が石川くんの自供の中にはっきりしなかったんだから付けなかったんだと、こういう説明が新聞記事にあるんですが、記憶ないですか」

証人=「ございません」

山上弁護人=「そうすると、六月二十五日、新聞記者と会見をなさった時点において、石川くんがこの事件をした、まあ、仮にしたということになってるんですが、その動機はどういうものという具合に印象を得ましたか。犯罪にはすべて動機がありますね、女の子を姦淫するとか、二十万円のものをとるとか、動機がありますね。どういう動機があったとあなたは思いましたか」

証人=「私は、やはり金が欲しかったんじゃないかという風に見ました。二十万円持って来いという風にね」

山上弁護人=「そうするとこれは、記録上はっきりしてますがね、六月二十五日自供後、強盗という罪名は付いていないんですけれども分かりませんか」

証人=「分かりません」

(続く)