【公判調書1871丁〜】
「第三十九回公判調書(供述)」⑥
○証人=新井 実(三十五歳・埼玉県警察本部刑事部鑑識課勤務、技術吏員)
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植木弁護人=「それから、一個隆線模様が認められたというんですが、それ以外の部分には全く隆線模様を認めることはできなかったと考えていいわけですね」
証人=「はい、そうです」
植木弁護人=「まあ、普通万年筆を持ちます場合、一本の指では持てませんわね。二本なり三本なりの、最小限二本指がなければ物は持てないわけですがね。一個だけしかなかったというのはどうも解せないんですが、何か理由が考えられますか。一個あれば当然二個あるだろうと普通は考えられますが」
証人=「たまたまですね、反対側の面ですか、指で持ちますから反対側のほうに付く可能性があると思いますが、反対側のほうはたまたま先ほど申し上げました人体の脂ですか、そういうものの付着のために印象自体がされなかったということも考えられますから、一個であってもこの場合別に不思議はないと私は思うんですが」
植木弁護人=「ですけれども、万年筆は小さなものですからね。片面だけを使用するわけじゃないですからね。手の中に握れるものですから、脂だけが付着するとすれば、平常使っておるなら通常全面に付くのが普通じゃないでしょうか」
証人=「それはこのときの状態を考えてですね、まあちょっと難しかったんじゃないかと私思うんですけれども。ですから私の検出の方法が悪かったかももちろん知れませんし、たまたま採取されたものが一個あったと、こういう風に言うより方法がないんじゃないかと思いますが」
植木弁護人=「あなたとしてはそうすると、今私が質問したような疑問点ですね。普通なら対象的に裏側にもう一つあると、それがない。その原因は何かといったようなことを更に検討してみると、こういうことは考えなかったし、おやりにならなかったと、こういうことですね」
証人=「別になかったですね」
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山上弁護人=「通常、指紋の検体を渡されるときに、どういう事件のものに関係があるという説明はあるんですか」
証人=「通常、窃盗事件とか、それから強盗事件の場合ですね、そういう場合なんかは、あらかじめ話がある場合がございます」
山上弁護人=「本件の場合」
証人=「本件の場合は捜索をしたということはわかって、先ほど申し上げました通り、捜索をやったということは私、事前に聞いておりましたが、どういう状態で、どうだったかということは私聞いておりません」
山上弁護人=「私の質問はたやすく一言で言えば、罪名ですね。どういうことの事件に関係のある万年筆である、検体であるという説明を受けて、この検体、万年筆があなたの手許に入ったかどうかという質問です」
証人=「罪名や何かはあらかじめ聞いておりません。ですからこの場合で申し上げますと、これこれこういうわけで捜索したと。それについてこういう万年筆があったんだけれども、指紋検出をしてくれと。こういう話で着手したものですから」
山上弁護人=「これこれの捜査と今おっしゃいましたこれこれの捜査という内容はどういうことでございますか」
証人=「いや、捜索でございます」
山上弁護人=「あなた特にこの狭山事件について、五月四日から一ヶ月半くらい本部詰だったんですね」
証人=「はい。これは後半は一日おきになりましたが前半はほとんど毎日行っておりました」
山上弁護人=「そうすると、本部詰をなさったというのは、万年筆を、検体を受け取ったときには現実にはどこに勤務なさっておられたんですか。狭山の助勤をされておったんですか」
証人=「特捜本部におりました。捜査本部ですね。これは狭山市の堀兼の狭山市役所の堀兼支所を借りて捜査本部に使用しておりました関係上、そこに勤務しておりました」
山上弁護人=「この万年筆を渡されたのはあなたが本部詰をした前半ですか、半ば頃ですか後半ですか」
証人=「これは後半だと思います」
山上弁護人=「そうすると、本部詰をなさった性格からこの検体がどういう事件の内容に関係するかということは知っておられたんじゃないでしょうか」
証人=「この事件に関連性のあるということは私も知っておりました」
山上弁護人=「どういう状態で万年筆が捜査の対象になり、収集されたかということは知らなかったと、こういうことですか」
証人=「私は別に捜索に加わっていなかったもんですから」
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○調書の引用は続く。
連休中に終了させたかった古本整理であるが、結局は単に手元に残すべき物の選択となった。
写真奥の箱に収まる文書束は狭山事件公判調書第二審をコピーした物の一部。