アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 597

 AとB、二つの指紋があり、それぞれの特徴点が十二点一致すると、AとBは同一人の指紋と認められる。

                                              「十二特徴点指紋鑑定法」

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【公判調書1873丁〜】                

                   「第三十九回公判調書(供述)」⑦

○証人=新井  実(三十五歳・埼玉県警察本部刑事部鑑識課勤務、技術吏員)

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中田弁護人=「やや確かめることになるかも知れませんが、肉眼検査をしたところ、指紋らしいものはわからなかったわけですね」

証人=「そうです」

中田弁護人=「だから予備的にという言葉を、二次的にという言葉を使われたが、念のため固体法によって粉末をかけてみると、こういうわけですね」

証人=「ですから肉眼的に見えれば粉末のかける場所が分かるわけですね。ここにかければいいと。ですけれども肉眼的に見えなければ、かけ方が若干変わってくると思うんです」

中田弁護人=「肉眼で見えればそこをかければいいわけですね」

証人=「そこを主体としてかければいいわけですが」

中田弁護人=「で、肉眼で見えなかったということは万年筆の全面についてあなたはアルミニューム粉末をかけて検査したということになるんでしょうね」

証人=「そうです」

中田弁護人=「全体にかけてやったところが、隆線模様が分かったのは結局一個しか出なかったと、こういうことですね。結論的に言うと」

証人=「そうです」

中田弁護人=「ちょっと素人らしいことを伺いますがね、アルミニューム粉末をかけて指紋が浮き出てくるのは、その粉末と指紋が付いたものとがうまく化学的に反応するからでしょう」

証人=「これは指紋の隆線部分に付着するわけですね、粉末がですね。それを転写するわけです」

中田弁護人=「その隆線部分に付着するのはどうしてですか」

証人=「これはですね、水分とか蛋白質ですか、これは分解しますと、印象された指紋の九十八パーセントは水分じゃないかと思いますが、残りの何パーセントに蛋白質、あるいはアミノ酸が含まれているわけですが、そういうものにアルミニューム粉末が先ほど申し上げましたように乗るわけです。それで乗ったものに対して、指紋の転写用紙がございますが、それに転写するわけなんです。そうすると同じものが出ると、こういうことです」

中田弁護人=「もちろん、あなたは肉眼で検査するときには潜在的にもせよ、あるかも知れない指紋を損傷しないように充分注意してやるわけでしょう」

証人=「そうです」

中田弁護人=「どういう方法で注意してやるんですか」

証人=「これは両端を持って、それでこの場合、回しながら見ていったんじゃないかと私は思うんですが」

中田弁護人=「ちょっと記録に残らないで悪いけれども、こういう風に持って見るということですか(このとき弁護人は万年筆を取り出し、片手二本の指で、その両端を押さえるようにして持って見せた)」

証人=「そうです」

中田弁護人=「手袋はしないんですか」

証人=「手袋はします。鑑識は常識的に常時手袋をして入りますし、物件の検出をするときには手袋をしてやるように心掛けておりますが」

中田弁護人=「印象で結構ですが、現在の記憶による、先ほどから伺ったことを全て総合すると、その万年筆は肉眼で検査する状況のときには、いわば、かなり乾いた状況であったということは言えるんでしょうか、言えないんでしょうか」

証人=「それは私、記憶にないですね。それはあの当時ですね、ずぶずぶに濡れておれば、これは記憶に残ると思うんですけれども、普通の状態だったような気がしますから記憶にございません」

中田弁護人=「もう一点だけ。私がいつも万年筆を使っているように、日常的に万年筆を使っている場合に、その固体法によって指紋を検出しようとすると、指紋の隆線模様自体は明確に現れないことも多いでしょうが、つまり、何と言いますか、人の手なり、人の指によって使用されたという、異同識別をすることは出来ないにしても、指紋があるような形では出てくるんでしょうか」

証人=「指紋ですか、指の先の痕ということですか」

中田弁護人=「はい」

証人=「指痕ですと、その、たまたま粉末の乗り過ぎと区別することが難しいと思うんですけれども、場合によっては指痕と認められる場合もありますですね。万年筆に限らずですね、これはロッカーとか洋服ダンス、こういうものから指痕状のものは出る場合はございますですね」

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○調書の引用は続く。