アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1387

◯事件当時に撮影された航空写真。右端やや上に「通称山学校」が写っている。なお、これを拡大すると写真周囲には事件に関連する各地点の説明が確認でき、おおよその全体像が把握出来ようか。

◯こちらは上記の写真撮影を行なった芝岡清吉警部の報告書。

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狭山事件公判調書第二審4210丁〜】

             『出会地点』自白の生成と虚偽架空

                                                                  弁護人=石田  享

                                             ♢

 ("二、取調官の認識、想定=奥富植木職の供述"の続き) 

   2.被告人と東島に対する取調べの狙い

   取調官らが、被告人と東島(彼も被告人よりやや遅れて逮捕されている)に対し、"山学校附近にいただろう、そう言っている人がある"と追及したことは必然の成り行きであった。

   被告人に対し、狭山署に留置されていた当時から取調官は"被告人と東島が山学校附近にいるのを見た人がある"と教え込み、しかも、山学校の方でお前を見たことがある人がいるからと、鏡の前に立たせたりもした(被告人当審二回供述)。

   のみならず、"東島が被告人と一緒に善枝さん殺しをしたと言っているから、お前だけが知らないと言っても裁判へ行ってお前がやったことになる"旨、被告人に告げさえした(前同)。

   東島に対する取調べも、また苛烈であった。

   青木警部らは「五月一日はどこへ行ってた」と聞き続けた(東島明当審十八回証言)。この点で注目すべきは青木警部の役割である。彼は六月十七日まで東島明の取調べを続け、被告人が再逮捕され川越分室に移監された翌十八日からは被告人に対する取調べに専念し続ける。

   長谷部警視に言わせれば青木警部こそ本件の捜査主任官なのであった(長谷部梅吉当審五十一回証言)。すでにみたように、彼は奥富植木職を逸早く取調べ、「そこに二人の男がおったということにつきましてはある程度間違いなかろう」と考えていたのである(青木一夫当審七回証言)。その捜査主任官=青木警部が東島を追及したが成功せず、被告人を再逮捕するや、今度は被告人の取調べに転進したのである。

   青木、長谷部らが被告人に対し加えた追及の一つに「東島がすでに供述している」旨告げていることはすでにみたとおりである。その追及の手懸かりは奥富植木職の供述であったし、したがって山学校附近に被告人と東島の両名を登場させることが狙いであった。

   被告人は当審において次のように述べている。

(中田主任弁護人の問に対し)

中田弁護人=「その中でどうして山学校の方へ行ったというようになったかについて、あなたは今まで私にもはっきり覚えていないと言っていたが、思い出しましたか」

被告人=「はい」

中田弁護人=「どういうことからか」

被告人=「まだ捕まって間もない当時、私の友達に名前はちょっとわかりませんが、奥富という植木屋がいました」

中田弁護人=「あなたが十四軒のお百姓さんのところに東島と一緒に行った時連れて行ってくれた人ですね」

被告人=「そうです。その人が東島とおれが山学校附近にいたということを警察へ届けたらしいです。もちろん警察でも最初のうちはそれを信用したらしいですね。それで山学校附近に東島とおれといたということで、山学校ということになっちゃったです」(以上、当審三十回公判)

                                            *

中田弁護人=「ところで東島と一緒に十四軒の方へ行くについて紹介してくれた奥富という植木屋さんですが、その植木屋さんが、善枝さん殺しのことについて何かあなた方のことを言っていた、ということを警察の人が教えてくれませんでしたか」

被告人=「教えてくれました」

中田弁護人=「どういうことでしたか」

被告人=「おれと東島が通称山学校附近に二人でいるところを見たと、警察へ知らせたらしいです。多分面通しもされたと思います」(以上、当審二十六回公判)

                                            *

中田弁護人=「それから、これは狭山(署)にいる時のことですがね、警察の人から誰かほかの人があなたを見に来ているので鏡の前に立てというようなことを言われたことがありますか」

被告人=「あります」

中田弁護人=「何度ありますか」

被告人=「五回以上ありますね。東京のね、刑事さんとかいう人、ちょっとわからないけれどもね、その人もお前を見たという人がいるからと言って立てと言ったんだね、でおれは立っていたんだね、でおれの顔を見るんだったらおれに会わしてくれ、と言ったら、そんなことしなくて向こうから見ればわかる、というので鏡の前に立っていたんです」

中田弁護人=「で一度はお前を見た人がいるということで立ったわけですね」

被告人=「ええ」

中田弁護人=「その鏡の前に立ったというのは先ほど弁護士が会いに来たというその部屋ですか」

被告人=「ええ同じ部屋です」

中田弁護人=「その前お前を見たことがあるという人は、どこでお前を見たということを説明しましたか」

被告人=「山学校の方で見たと言いました」

中田弁護人=「そういうことを言われて立ったのが一回と」

被告人=「はい」

中田弁護人=「ほかにどういう風に言われましたか」

被告人=「あとは、君を見たんだと、五月一日にお前を山の方で見た人がいる、というのであったです」

中田弁護人=「あなたはその人を見たことがあるわけじゃないでしょう」

被告人=「見てません。要するに鏡の前に立ったわけです」

        ・・・(中略)・・・・・・(以下三人説自白につき)・・・

中田弁護人=「警察の人はね、お前一人で殺したんだろうという風に聞いていたんですか」

被告人=「そうじゃないんです」

中田弁護人=「何人かでやったろうという風に聞いていたわけですか」

被告人=「はあ、そうです」

中田弁護人=「何人でやったんだという風に」

被告人=「三人か四人で」

中田弁護人=「自白する前に、誰かからお前と一緒に善枝さんを殺したということを自白したやつがいるぞという話を聞いたことがありませんか」

被告人=「あります。それは東島が言ったらしいんだね」

中田弁護人=「誰がそういう話をしたんですか」

被告人=「長谷部さんだと思ったんですがちょっと名前がわからないですね」

中田弁護人=「どういう話を聞きましたか」

被告人=「東島がやったというんだね、五月一日に、善枝ちゃんをやったというんだね。だけどおれは知らないから知らないと言ったわけですね。しかし東島がやったと言っているからね、お前が知らないと言っても、裁判へ行ってお前がやったことになるとね、だけどね、おれはね、やらないと言ったんだけれどもね、東島はそんな嘘をつく人じゃないというわけです」

中田弁護人=「そうすると、東島があなたと一緒に善枝ちゃんをやったという意味のことを言ったわけですね」

被告人=「ええ」

中田弁護人=「入間川の人とか入曾の人とかいうのを挙げて三人でやったというようになったのは、取調べの中で警察の人も三人か四人でやったろうという風に聞いていたし、そういうこともあったでしょうか」

被告人=「そうです。最初三人で悪いことをしたんだね、署長に話すと言ったやつ、それと絡めて言ったわけですね」

中田弁護人=「署長に言ったときには三人で物を盗んだことを言うと、それも関係あるんですか」

被告人=「そうです」(当審二回公判)

                                            ♢

◯以上が"2.被告人と東島に対する取調べの狙い"である。次回から"3.取調官の認識と三人説自白"へ進む。

                                            *

   当時、捜査当局が石川一雄氏に狙いを定めた理由が、なるほど今回の弁論を読むとよく分かる。ではそうすると、五月一日には植木屋の奥富という人物も山学校附近にいた(または通りかかった)ことになる。ということはこの植木屋:奥富を山学校附近で目撃した人間がいても不思議ではないし、あるいは逆に被告人や東島が奥富を目撃していてもよいではないか。また、仮に植木屋:奥富の目撃証言が本当であれば、むしろ被告人と東島の二人が山学校のどの辺りにいたのかを捜査側は奥富供述に対する裏付捜査により特定することが可能であったはずである。

   被告が、当初供述していた三人説をくつがえし単独犯行を自白、捜査もその単独犯行という線で進んでいくが、ではこの植木屋が見たという証言は一体何であり彼の証言はどこへ消えていったのだろうか・・・。