指紋は、人間が生まれ、やがて一生を終えるまで、その紋様は変化せず「万人不同」「終生不変」である。
【公判調書1875丁〜】
「第三十九回公判調書(供述)」⑧
証人=新井 実(三十五歳・埼玉県警察本部刑事部鑑識課勤務、技術吏員)
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山梨検事=「日常使われていた場合と、放置されて後に触られたという場合の相違については、先ほどあなたの証言では差異があるような、ないような証言になってますけれども、少なくとも、放置されたと見る期間、初めは何か数年という言葉を使われて、あとで、弁護人のほうの質問で一ヶ月という風に限られた期間を質問で持ち出されたわけですけれども、あなたとしては日常使われたという期間、そういう考え方と、いわゆる放置という概念ですね、一ヶ月というのはどうですか、日常使われたという内に入るんですか、放置されたという風な期間に入るんですか」
証人=「放置されたほうの期間に入るんじゃないかと思います」
山梨検事=「一ヶ月が」
証人=「はい」
山梨検事=「というのは、具体的に言うとどういう風なことからですか」
証人=「一ヶ月くらい経ちますと、この場合、万年筆の水分が蒸発してですね、放置状態になると思うんですが。水分とかその他のもの、成分ですか」
山梨検事=「脂肪とか蛋白質ですか、こういうものも一ヶ月経つと相当変化するわけですか」
証人=「変化するんじゃないかと思うんですけれども、私、そういう点についてはよくわからないんですが」
山梨検事=「日常使われているという意味はあなたの考えによると、水分が蒸発しない間くらいの期間という風に考えるわけですね」
証人=「そういうことです」
山梨検事=「で、その差についても、困難な場合もあるし、容易になる場合もあると、結論は」
証人=「はい。容易に採取できることもありますですね。また、全然採取されないということもございます」
山梨検事=「それから、あなたが今までの経験で万年筆はあまりやったことはないとおっしゃったですね」
証人=「はい」
山梨検事=「というのは、万年筆は指紋ができにくいんだということが裏返せば言えるからでしょうか」
証人=「いや、そういうことではなくて、万年筆とか通常手に触っているものですね。そういうものは取りずらいということは自分にも頭にありましたからですね、水分が完全に蒸発していなければ取れる可能性はあったんじゃないかと私思うんですけれども」
山梨検事=「ただ、そういう取りずらいという頭はあるわけですね」
証人=「あります」
山梨検事=「捜査官一般はどうですか。一般にはそういうことは頭にあるんですか」
証人=「ないんじゃないでしょうかね。あまり指紋の詳細についちゃわからないんじゃないでしょうか」
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○調書の引用は続く。