アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 650

「ドキュメント狭山事件佐木隆三」の文春文庫版に書下ろしで収録された「熊谷事件」は強烈な冤罪記録である。

その事件が、本法廷において、まさか弁護人の口から語られるとは思いもよらなかった・・・・・・。

【公判調書2028丁〜】

                   「第四十一回公判調書(供述)」⑨

証人=竹内武雄(五十六歳・埼玉県交通教育協会評議員。事件当時、狭山警察署長)

                                         *

山上弁護人=「中さんはこのあいだ証言の中ではっきりね、捜査員を集めて、こういう風なことは特殊部落、あるいは、差別的な捜査という、字句はともかくそういう風なことが問題になっておるので注意をしなければいけないと。全員集めて、訓示と言いましたか、何と言いましたか記憶ありませんが、注意を与えたと、はっきり仰ってますが、あなたはそれは無関係ですか」

証人=「ええ、私は聞いてません」

山上弁護人=「それでは、狭山署に地元の、これは部落解放同盟と言いますが、そういう人達の関係の人があなたに直接ですね、面会を求めて部落問題を含んでおる、あるいは、部落に対して差別的な捜査が行なわれておるのではないかというような抗議と言いますか、陳情と言いますか、そういうことがありましたか」

証人=「相手は記憶ありませんが、そういう抗議を受けたことはあります。相手は記憶ありません」

山上弁護人=「それはいつ頃ですか」

証人=「それは日もはっきり捜査過程で記憶もありません。とにかく捜査中でしたね」

山上弁護人=「思い起こして頂くために申し上げるのですが、五月二十三日頃には、もうそういうことが起こってませんでしたか、逮捕した前後ですね、その頃じゃないですか」

証人=「私はもっと後と思いますね」

山上弁護人=「それはいつ頃ですか」

証人=「日ははっきりしませんが、地元の人ではなかったですね。埼玉県の何か、全国の何か、三十人ばかりですね、人の名前憶えてませんが」

山上弁護人=「その話し合いと言いますかね、内容はどういう内容のものであったか、記憶ございませんか」

証人=「今、申したようにそういう特別な考えで捜査しておるんじゃないかというような意味だったですね」

山上弁護人=「あなたはその後、そういう事情もありまして、その後、あるいはそれ以前からでも結構ですが、この石川一雄君が特殊部落の出身であるというようなことを調査されたか、もしくは、聞いたことがありますか」

証人=「はい、聞いてますね」

山上弁護人=「この石川君との関連でと思いますが、六月四日頃でしょうか、記録を見なくちゃ分かりませんが、東島君、あるいは石田一義君というのが逮捕されておりましたね」

証人=「はい」

山上弁護人=「この二人の青年も部落出身者だということは聞いておられますか、知っていますか」

証人=「ええ、知ってますね」

山上弁護人=「筆跡を調べるというか、まあ、大変御苦労な捜査だったと思うんですが、筆跡を部落の中、約百二十名くらいあたっていらっしゃるという事実を聞いてますが、そういう事実ありますか」

証人=「百二十名ですか」

山上弁護人=「そのことで筆跡の捜査を広範囲に、我々が調べたところでは百二十名ということが出ておりますが、それは事実ですか」

証人=「百二十名かどうか知りません。とにかく、広範囲に筆跡捜査ですか、やったことはありますね」

山上弁護人=「そういう筆跡捜査の対象になった人達がいわゆる特殊部落に含まれておる大部分の人であるということで現地で問題になり、あなた自体抗議を受けたことはございませんか」

証人=「私、直接はありません」

山上弁護人=「間接には聞いておられますか」

証人=「間接も現在私は記憶ないです」

山上弁護人=「記憶がないというのは聞いたことがあるけれども、その内容を忘れたということですか、どうですか」

証人=「抗議はあのときいろいろ来ましたですからね、何の抗議か、いちいち現在は私記憶がありません。私がそういう面で受けたのは多分一回です」

山上弁護人=「埼玉県警の管轄内で昭和三十年頃に誤判事件、誤って二重逮捕した事件、つまり、神谷せつ子さん事件というのがあったのをご存じですか。これは内容を申し上げますと、十八才の神谷せつ子さんを吉沢徳次郎さんという方が殺したということで逮捕されてですね、それで審判中に真犯人水野という人が出てきまして、そして異例なことですが、最高検の指示によって、浦和地検熊谷支部が、この吉沢徳次郎さんに対する公訴を取り消した事犯が埼玉県警の管轄内で昭和三十年頃に起こっておりますが、あなたは記憶ありますか」

証人=「記憶ありませんね」

山上弁護人=「こういう大事件記憶ありませんかね」

証人=「当時、川口でしたから記憶ありませんね、管轄はどこですか。管轄を言えば思い出しますが」

山上弁護人=「管轄は私どもの調べたところでは埼玉県警が本部を挙げてこの捜査に取り組んだと聞いておりますが」

証人=「いや、所轄警察は」

山上弁護人=「これは熊谷警察です」

証人=「何か、記憶あります」

山上弁護人=「この捜査の主任に当たられたのは、この本件に関係ある清水警部という方も主任で捜査に当たられたと、我々調査しておりますが、どうですか」

証人=「そうですね、捜査課ですから、私は記憶ないですね」

山上弁護人=「清水さん、当たったんじゃないですかね」

証人=「ええ、捜査課におりましたですね」

山上弁護人=「熊谷の」

証人=「ええ、当時ですね」

山上弁護人=「それで本件に関係するんですが、この清水さんを石川君の捜査の途中から外したという事実がありますかどうですか。つまり、石川君と、このあいだの証言によりますと相性が悪いというか、そういうことがあったかどうか知りませんが、君はちょっと外しなさいと、この捜査から退いてほしいと、取調べることはよしてほしいというような問題が清水さんに起こりましたか」

証人=「はっきりは聞いてませんね」

山上弁護人=「重要なことですよ」

証人=「捜査の方は捜査官、本部の方が中心にやっておりましたから」

山上弁護人=「そんなことを聞いたことはありますか」

証人=「何か途中から外れたような記憶はありますが、その意味とかは知りません」

山上弁護人=「それからもう一つお尋ねしますが、六月十八日頃ですね、石川君の自宅を全面的に家宅捜索をしたことがありますか」

証人=「六月十八日ですか」

山上弁護人=「当時ですね、これは記憶を呼び戻すため申し上げますが、石川君の裏の井戸を捜索するためにジョンソン基地から酸素ボンベを持ち出して古井戸を捜索したことがありますね」

証人=「そんな記憶ありますね」

山上弁護人=「この古井戸も相当徹底的に捜査なさったようですが、あなたは直接、調書上は関係してませんね」

証人=「してません」

山上弁護人=「で、そのときに実際に捜査に当たられた方からそういう具合にジョンソン基地の酸素ボンベ待って古井戸の中に入ったという報告を受けたんですね」

証人=「ええ、聞いております」

山上弁護人=「そうすると、六月十八日当時、石川一雄君の家の中も徹底的に捜査したというような報告は受けておりますか。天井とか、まあ、いろんなところを、徹底的にというのは抽象的ですが」

証人=「期日は十八日頃か知りませんが、捜査したことは知ってます」

山上弁護人=「それは古井戸を徹底的にさらい洗ったときのことですか」

証人=「同じですかね、違うときですかな」

山上弁護人=「同じです、記録上は」

証人=「ああ、そうですか」

山上弁護人=「この古井戸を調べるときには、わざわざ蝶々を古井戸の中にまで入れてメタンガスがあるかどうかまで調べて捜査した大掛かりなものだそうですね」

証人=「私、記憶ありませんね」(続く)

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中さん=中  勲。事件当時、埼玉県警刑事部長・狭山事件特捜本部長。