アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 685

(狭山事件裁判資料より)

【公判調書2151丁〜】

                   「第四十三回公判調書(供述)」⑫

証人=中  勲(五十七歳)

                                         *

山上弁護人=「あなたは先ほどの主任弁護人の尋問に対しては玉石については記憶がないという風に述べたが、石みたいなものがあるとの報告は受けたのですか、どうですか」

証人=「そういう細かい点については記憶がありません。私の立場は捜査主任官ではなく刑事部であり特捜本部長ですから、組織上細かい点は分からないというのが実情です」

山上弁護人=「そういうものについては全然報告を受けていないし実況見分調書も見ていないので、石のことは全然頭にないのですか」

証人=「ありません」

山上弁護人=「その石はどういうところから出ているかを調べるとか石の質などを鑑定するとか、そういうこともしていませんか」

証人=「記憶ありません」

山上弁護人=「五月四日死体が発見された直後あたりに、あなたの方で、この犯行は顔見知りの者によるものではないかという新聞発表をした記憶はありませんか」

証人=「ありません」

山上弁護人=「顔見知りの者の犯行ではないかというような発言、捜査方針というものは当初出ていましたか」

証人=「顔見知りというよりも、少なくとも土地鑑(勘)のある者ということは出ていました」

や弁護人=「捜査会議の中で、高校一年になる体格のいい女性がただ単に山について行くだろうかというような疑問は出ましたか」

証人=「出ました」

山上弁護人=「その疑問は捜査当局としてどういう風に解明しましたか」

証人=「ます、日中であるということですね。それと、自転車を買ってもらったばかりでその自転車を取り上げられた、しかも自転車には学校の荷物も積んである、付近には助けを求めるような人家もない、やはり自転車に執着し学校の荷物にも執着して、日中のことでもあるのでついて行ったのではなかろうか、という結論でした」

山上弁護人=「幼児の誘拐ならばともかく、高校一年の女性がついて来いと言われてついて行った根拠としては、今あなたが言った自転車が新しいからというようなことではどうでしょうか」

証人=「むしろ小さい子だったら泣き騒ぐと思います。もう分別のつきかけている人間ですし、日中のことだからついて行くだろう、ということでした」

山上弁護人=「そういう点から、これは顔見知りの者ではないかというような推定もしたのではありませんか」

証人=「一応顔見知りの者ということも考えられますね。最初から土地鑑のある者であろうということは考えられたわけですから」

山上弁護人=「顔見知りの線ではないかということも捜査会議に出ていたのですか」

証人=「出ていますですね」

山上弁護人=「そうすると先ほどの証言は誤りですか」

証人=「私共は土地鑑ということはそういうものを含めて言っております。その土地に非常に関係の深い者ということです」

山上弁護人=「捜査の過程で顔見知りの者ではないかという言葉が使われたのではありませんか」

証人=「そういう言葉が使われたかどうか、我々としては土地鑑のある者であろうということで捜査をしました」

山上弁護人=「先ほど、石田豚屋でスコップを取られた、スコップを取ったのは石田豚屋に出入り出来る者であろうという想定ができる、普通の人では取れないという趣旨の証言があったが、普通の人というのはどういう意味で言ったのですか」

証人=「この前も述べたと思いますが、犬が七匹いて一般の人はそばに寄れないというのが実情だったわけです。犬に慣れた人ということですから少なくとも石田さんに関係のない人ではあのスコップは取り得ないというのが当時の判断でした。そういう意味です」

山上弁護人=「石田さんのところに出入りするのはいわゆる特殊部落の人という趣旨ではありませんか」

証人=「そんなことはありません。犬が確か七匹ですか、いて非常に吠える、特にスコップのあったところには犬が一匹つないであって、それが吠えると自宅の方に放してある犬がすぐ応援に来るような態勢になっていて、一般的には取れない、という状態でした」

山上弁護人=「大野さんの作成した五月四日付実況見分調書に関してですが、死体の発掘現場から古い茶の木の葉が出て来たということは知っていますか」

証人=「知りません」

山上弁護人=「玉石も知らない、古い茶の木の葉も知らないということですが、死体発掘現場からどういう物が出て来たかということを捜査当局がしっかり掴むことは捜査の基本ではないでしょうか」

証人=「捜査の指揮は将田警視が中心になってやっていたので、私は確かに現場を見ていますが実況見分の立ち入った細かい点とか、そういう点については大体深くタッチしていませんでした」

山上弁護人=「こういう強盗強姦殺人というような事件において捜査当局が基本的に最も注目すべき点は、被害者の死体とかそこにどういう物があったかという点だと思われるが、あなたは捜査本部長として、いちいち的確に実況見分調書に当っていないわけですか」

証人=「はい」

山上弁護人=「掘った中から茶の木の葉が出て来たことは知らないのですか」

証人=「知りません」

山上弁護人=「そうすると、茶の木がどういう目的で入っていたかということも調査していませんね」

証人=「分かりません」

山上弁護人=「茶の葉がどういう役割でどうして入っていた、どの程度入っていたという報告も受けていませんね」

証人=「受けたかも知れませんけれども現在記憶はありません。先ほどから申しておりますように、私は当時刑事部長で、刑事部長と言えば警察本部においても最高幹部であり、個々の捜査については私の下にいる副本部長が百五十人もいる捜査官を統轄して捜査を進めているし、私には刑事部各課の仕事もあり、時には記者会見の問題もあるし、いろいろな雑用もあるし、一から十まで私が承知するということは現実の問題としてないわけです」

山上弁護人=「捜査会議で棍棒についていろいろな想定をしたようだが、これが結局本件についてどういう役目を果たしているのか分からないからこの点の追及はよそうではないかという意見があったのですか」

証人=「ありません。私の記憶ではそんな意見はありません」

山上弁護人=「しかし棍棒について、死体を吊るす時に使ったのではないかという推定、想像、意見などが出ているわけですね」

証人=「それはあまり細過ぎて不可能だということでした。重量に耐えないだろうという意見、あるいは捜索に行った機動隊あるいは消防団という者が突いて歩いたものではなかろうかというような意見もあったように記憶しています」

山上弁護人=「そうすると、捜査会議で棍棒の役目について意見が出たが結論としてはうやむやの内に、分からないままに捜査はなされなかった、と聞いていいですか」

証人=「私の立場ではそうですが、実際に捜査をした者の結論がどう出ているか、それは今言いかねます」

(続く)