アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 742

【公判調書2326丁〜】

                   「第四十五回公判調書(供述)」

証人=梅沢  茂(五十歳・埼玉県警察本部捜査三課)

                                          *

裁判長=「あなたは投げたという言葉を使いましたね」

証人=「はい」

裁判長=「被疑者が、歩きながら投げたと言ったからそれを捜したというんですが、投げたというのは、どういう意味で被疑者が言ったか、どういう頭で捜したんですか。よく、投げたというのは、特に野球のボールを投げるということの "投げる" ではなく、物を捨てることを投げるという使い方をする地方もあるんで、どっちだと思ったですか」

証人=「私の考えでは、野球のボールを投げるように投げたんでは二人や三人では到底見つけられませんから」

裁判長=「あなたは、被疑者が投げたと言ったのは、歩きながら捨てたという意味に解釈して捜したのですか」

証人=「そうです」

                                          *

宮沢弁護人=「すると、範囲としては、道路沿いに茶株がありましたね、いくつぐらいの茶株を捜されたのですか」

証人=「さあ、その点もはっきり申し上げられませんが」

宮沢弁護人=「道路沿いだけではないですね」

証人=「だから両側捜したですね。道路にしては二十メーターぐらいあったんじゃないでしょうか。二十メーターや三十メーターあったでしょう」

宮沢弁護人=「それじゃ時計の点はそのくらいにしまして、あなたは、そのほかに何か捜査に従事されたことはございませんか」

証人=「そのほかと申されましても、いろいろやってますが」

宮沢弁護人=「牛乳瓶を捜されたことは覚えておりませんか」

証人=「はい、そういう記憶もあります」

宮沢弁護人=「それは、どういうことですか」

証人=「これも被疑者が作った図面によって、ここに牛乳瓶があるはずだから捜して来いと命を受けまして捜しました」

宮沢弁護人=「どなたから命を受けましたか」

証人=「これもはっきりしませんが、とにかく、大谷木警部か清水警部かどっちかです」

宮沢弁護人=「いつ頃ですか」

証人=「これもわかりません」

宮沢弁護人=「捜した場所はどの辺ですか」

証人=「これは入間川の駅のすぐ近くです」

宮沢弁護人=「あなたは具体的に捜されたわけですか」

証人=「はい」

宮沢弁護人=「その牛乳瓶というのは、あったのですか」

証人=「牛乳瓶ありました」

宮沢弁護人=「どういう場所にありましたか」

証人=「これは入間川の駅のすぐ近くなんですけれども、入間川の駅の隣りと言ってもいいですね。構内信号機のあるすぐ近くでしたね、あれは畑でしたね」

宮沢弁護人=「そのとき、あなたは何か、その捜査に関して、書類を作った覚えはございませんか」

証人=「どういう書類ですか」

宮沢弁護人=「捜査報告書とか、実況見分調書とか、そういった捜査関係の書類です」

証人=「実況見分調書は作った記憶があります」

宮沢弁護人=「それは、あなたがお作りになったのですね」

証人=「はい」

宮沢弁護人=「その牛乳瓶は、どういう牛乳瓶だったか覚えておりますか」

証人=「どういうって、普通の牛乳瓶です」

宮沢弁護人=「どういうしるしの牛乳瓶か」

証人=「メーカーですか」

宮沢弁護人=「ええ」

証人=「記憶にありませんが、当時あの辺で売ってるのは、ジェルシーという牛乳を売っていたんですが、それじゃないでしょうか」

宮沢弁護人=「その出所を確かめられたことはありませんか。要するにどこの牛乳屋さんから出た牛乳だか」

証人=「そういう記憶ありません」

宮沢弁護人=「要するに牛乳瓶を発見したということだけですね」

証人=「はい」

宮沢弁護人=「もう一度確認しておきますが、時期はいつ頃か、全然覚えありませんか」

証人=「六月中じゃなかったでしょうか」

宮沢弁護人=「六月のどのくらいですか」

証人=「それはわかりません」

宮沢弁護人=「あなたは、それ以外に何かまだ捜査に従事されたことはございませんか」

証人=「まあ、毎日が捜査の仕事ですから」

宮沢弁護人=「特に記憶にあることはありませんか」

証人=「特に記憶に残っていることはありません」

宮沢弁護人=「もう一つちょっとお伺いしますが、あなたは三柱神社といいますか、荒神様といいますか、そこのお祭りのことをお調べになった記憶はありませんか」

証人=「お祭りのことと言いますと」

宮沢弁護人=「お祭りがいつ行なわれたかということをお調べになったことはありませんか」

証人=「ちょっと記憶にありません」

宮沢弁護人=「あなたはその捜査報告書とか、神主さんの参考人調書を作ったという記憶はありませんか」

証人=「記憶はありませんが、それがあるんでしたら私が作ったんです」

宮沢弁護人=「それは覚えておりませんか、本当に」

証人=「覚えておりません」

宮沢弁護人=「(当審記録第十七冊二八九六丁、昭和三十八年六月二十八日付司法警察員上野俊章及び梅沢茂作成の"被疑者の自供に基く捜査について"と題する書面を示す)これは、あなたがお書きになった報告書ですか」

証人=「そうです」

宮沢弁護人=「上野俊章さんとあなたの名前が書いてありますが」

証人=「私が書いたんです」

宮沢弁護人=「覚えありますか」

証人=「覚えあります」

宮沢弁護人=「(同記録二八九一丁証人に対する野口清之函の供述調書を示す) これは、あなたがお聞きになったんですね、そういう記憶ありませんか」

証人=「私が作成したんだから聞いたわけです」

宮沢弁護人=「違う人が書いたんじゃないですか。普通の人なら、警察官で自分が書けば内容まで思い出すんですが、あなたは判子をついただけじゃないですか」

証人=「私の書いた字です」

宮沢弁護人=「間違いないですか」

証人=「間違いないです」

                                          *

裁判長=「ちょっと弁護人、犯罪捜査の警察官は、被疑者でもない参考人の調書、これは何千通作るかわからないから、自分が記憶を失っていることを直ちに攻撃するのは少し考えものだと思いますが」

                                         *

宮沢弁護人=「その報告書と供述調書は、あなたが作成されたことは間違いないですね」

証人=「はい」

宮沢弁護人=「今それを見て、どういうことを捜査したという記憶はよみがえりましたか」

証人=「ちょっと思い出せませんです」

                                                                                  以上

昭和四十六年三月十六日       東京高等裁判所第四刑事部

                                                    裁判所速記官 佐藤治子

                                          *

弁護人が証人に牛乳瓶の捜索について尋ねると、証人はその発見場所は入間川駅近くだと述べている。しかし牛乳瓶は鞄と共に発見されている。鞄の発見場所は山ぎわの畑、その溝であり、入間川駅近くの、証人の言う入間川駅の隣りではない。むしろこの入間川駅近くの場所は、石川被告人が事件当日に購入し、飲み干した牛乳瓶を捨てた場所である可能性が高い。ただ、鞄と共に発見された牛乳瓶に刻印された文字が証人の言う"ジェルシー"と読めるため、私は思考が止まった。

これは被害者の所持品である鞄と共に発見された牛乳瓶である。そして中身入りだったとされる。

商品名はジェルシーと読める。

従って今回の問答を読み終え、弁護人が牛乳瓶の中に中身かあったかどうかを問うてない点や、鞄と共に発見された牛乳瓶と、入間川駅近くで発見された牛乳瓶、その相違の追及がなされていないことが悔やまれるのであった。