(狭山事件裁判資料より)
【公判調書2148丁〜】
「第四十三回公判調書(供述)」⑪
証人=中 勲(五十七歳)
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主任弁護人=「石川君が川越署分室に移されたのちも、あなたは堀兼の捜査本部に行ったり川越署分室に行ったり、時には狭山署に行くということもあったわけですね」
証人=「はい」
主任弁護人=「将田さんはどこにいたのですか」
証人=「本部と川越署分室と半々ぐらいではなかったでしょうか」
主任弁護人=「川越署分室にずっといた一番位の高い人は長谷部さんですね」
証人=「位で言えばそうです。あとは青木警部」
主任弁護人=「新聞記者会見はあまりしないでおこうというようになってから単独犯の発表をするようにと命ぜられた、それはあなたに代わって竹内さんが発表するようになったのがまたあなたに変わったわけだが、それは捜査本部長として発表せよということだったのですか」
証人=「たまたま警察本部長が来ていて、重大な発表だから特捜本部長が行って発表すべきだろうということで私が指示を受けて行ったのです。それまでの日常の記者会見というのは、竹内署長がどちらかと言うと閑職にあったので新聞発表ぐらいはやれということで竹内署長がやっていたのです」
主任弁護人=「そうすると、自白の内容や証拠関係を検討して発表しようということになったその時には県警本部長も同じところにいたわけですか」
証人=「特別の用事がない限り一日に一度ぐらいは特捜本部に必ず顔を見せておりましたし、特にそういう自供の発表をするというような重大な時期ですから来ていたと思います」
主任弁護人=「自白したということを新聞記者に発表したのは特捜本部でですか」
証人=「狭山警察署の講堂で発表したように記憶しています」
主任弁護人=「そうすると、堀兼の特別捜査本部に来ていた上田県警本部長とも相談して発表することを決めて」
証人=「上田本部長が堀兼に来ていたか川越に来ていたかははっきりしませんが、いずれにしても警察本部長が来て新聞発表の相談をしたと思うのですが、重大な発表だから特捜本部長がやれということで私がやったように記憶しています」
主任弁護人=「新聞記者発表をした場所は狭山警察署なのですね」
証人=「狭山警察署の講堂だと思います」
主任弁護人=「そういう発表をするということを上田本部長と決めた場所は狭山署ではないという記憶ですか」
証人=「はい。狭山署へ車で行ったのですから狭山署ではありません」
主任弁護人=「被害者の腕時計が発見されたのはいつか覚えていますか」
証人=「七月の初めだと思います。六月末から捜査を始めて四、五日あったと思います」
主任弁護人=「捜査発表をした六月二十五日と関連してですが、週刊文春の昭和三十八年七月八日号に『石川一雄自供発表の夜』と題する記事があり、それには、あなたが石川が単独犯行を自供したと発表したその記者会見のあった日の夜、つまり六月二十五日の夜、ある新聞記者の耳に警察が善枝さんの万年筆と時計を見つけたという重大な情報が入った、ということが書いてあるが、あなたはそういう記事を見たことはありませんか」
証人=「ありません」
主任弁護人=「その記事の趣旨は、六月二十五日の捜査発表のときには警察の方には善枝さんの万年筆と時計がすでに手に入っていたということのようだが、そういう記事が書かれた経過について思い当たることはありませんか」
証人=「当時は公式発表以外は全然新聞記者に会っていませんし、最高責任者が出もしないものが出たなどと言うわけはありません。そのような事実は絶対にありません」
主任弁護人=「あなたが話したという意味でなく、六月二十五日の夜、ある新聞記者がそういう情報を手に入れたということなのですが、そういう記事が出るようになったことについて、あなたとして思い当たることはありませんか」
証人=「ありません」
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山上弁護人=「大野喜平さんが昭和三十八年五月四日付で作っている死体発見の際の実況見分調書にあなたは目を通していますか」
証人=「サインはしたかも知れませんが、ほとんど目は通していません」
山上弁護人=「死体が発見され、そこからいろいろな物が出て来ると、それはいちいちあなたの方に報告され、この物はどういう役目があり、どういう発見のされ方をしたか、あるいは被害者の所有であるのかどうか、というような検討は加えられるのですか」
証人=「捜査担当者が検討を加えられるわけですが、私のところにいちいちそういう相談には来ないと思います」
山上弁護人=「死体が発見された場所からビニールの風呂敷とか麻縄などが発見されると、それがどういう風に本件犯行に使われているかということについて、あなたは全然タッチしていないのですか」
証人=「タッチする場合もあるしタッチしない場合もあります。大体捜査が終わり主任捜査官が集まって捜査検討会が開かれ、その際に統轄するのは現場の責任者である将田警視ですが、私共が立会う場合はあります」
山上弁護人=「玉石、棍棒、こういう物は石川君の自供調書に出て来ていないが、それらの物の本件との関係について考えたことがありますか、ありませんか」
証人=「玉石については私はよく状況を知らないのですが、棒については、何回も現場に行って現物を見ています。あれについては当時いろいろ説があり、捜索隊が捨てたものであろうとか、死体を吊るすときに支えにしたのではなかろうか、その証拠に先の方に泥が付いている、しかし直径三センチぐらいのものだから支えられないで隣にある桑の株に縄を巻いたのであろう、とかいうような議論がされたことはあります」
山上弁護人=「棍棒についてその役割をいろいろ想定したわけですね」
証人=「はい」
山上弁護人=「その想定をしたについては、捜査官から報告を受けたのですか、それともあなたが指示をしたのですか」
証人=「捜査会議の際に出たのではないかと思います。書類上残っているかどうかは分かりません」
山上弁護人=「あなたが出席していた捜査会議でその話が出たのではないか、という記憶ですか」
証人=「そういうことです」
山上弁護人=「あなたの意見はどうでしたか」
証人=「私も死体を吊るすときに縄を支えるため最初試みたものではなかろうかという意見でした」
山上弁護人=「その考えに基づいて係官に対し、容疑者とされている石川君にもう少しはっきり聞きなさいというような指示をしましたか」
証人=「そういう指示をした覚えはありません」
山上弁護人=「そうすると、棍棒については捜査会議でそういういろいろな意見が出たままに終わった、という風に聞いていいのですか」
証人=「書類を検討してみないと分かりませんが、それに関する捜査が何かしてありはしないかと思うのですですけれども記憶はありません」
山上弁護人=「棍棒については、捜査会議で出た以後は具体的には報告を受けていないわけですね」
証人=「そういう議論がされたことは記憶にありますが、結論がどういう風に出たかということについては承知していません」
(続く)