アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 681

(狭山事件裁判資料より)

【公判調書2139丁〜】

                   「第四十三回公判調書(供述)」⑧

証人=中  勲(五十七歳)

                                          *

主任弁護人=「前回の竹内署長の証言によると、その小谷田というところは狭山署管内であり駐在がいる、駐在のおまわりさんは二年もいればどういうところにどういう子供がいるとか、誰が何をしているとかいうことは皆分かるということだったが、滅多に見られないような字を書く特異な名前の人で、この事件の捜査について所轄署として重大な責任を持っている狭山署の管内にいる人が分からないなどということが実際にあり得ますか」

証人=「最近は、昔のように戸籍調べというような制度をやった時代と違って、警察もそういうことを全然やっていませんし、巡回連絡と称するものを、私共の若い頃は年に四回ほど、三月に一遍ぐらいは各戸を巡回したのですけれども、現在では規定では年に二回やることになっていますが、それも共稼ぎその他で出ていて不在の者も相当いるし、特に人口急増地帯においては住民のそういう面まで把握されていないというのが実情です」

主任弁護人=「あなたは刑事総務課に照合した時に、少時なる人物が狭山署から猟銃所持の許可を得ている人であるということも聞いたのではありませんか」

証人=「知りません。いるという事とどの辺にいるかを照合しました。どうして判らなかったかということを究明するために」

主任弁護人=「猟銃のことは今初めて聞くのですか」

証人=「初めてです」

主任弁護人=「長島少時という人は猟銃を持っているようなのですが」

証人=「それなら銃砲台帳を見ればすぐ判るわけです」

主任弁護人=「しかもそれは狭山署の管内で狭山署長の所持許可を受けているわけでしょう」

証人=「それは公安委員会です」

主任弁護人=「しかし署長が代行するのでしょう」

証人=「実際の取扱いとしては」

主任弁護人=「狭山市はそれほど大きな町ではないでしょう」

証人=「そうですね。特にそういう特殊な免状を持っていれば当然判らなければならないような気がします」

主任弁護人=「大野喜平という人を知っていますか」

証人=「はい。当時巡査部長だったでしょうか」

主任弁護人=「その人が当時狭山署の防犯係だったということだが、猟銃所持許可も防犯係の関係だそうですね」

証人=「そうです」

主任弁護人=「大野喜平氏もこの事件の捜査に当っていたでしょう」

証人=「はい」

主任弁護人=「あなたは刑事総務課に対して、どうしてそういう実在の人物がいたことが判らなかったか事実を究明せよ、ということを言いましたか」

証人=「言いません。今はその指揮命令権がありませんし人も変わってますし、事実の照会に留めたわけです」

主任弁護人=「刑事総務課ではその辺を調査しているようでしたか」

証人=「私は係に対して、少時という名前の人がいたそうだがどの辺の人だろうということを照会しただけです」

主任弁護人=「捜査の専門家であったあなたの意見を求めますが、脅迫状の封筒に書かれていた少時が実在の人物であったということになると、捜査方針は全く違ったものでなければならなかったという風には考えませんか」

証人=「地理的条件その他を検討して見ないと俄かに結論は出ないと思います」

主任弁護人=「しかし、ごく通常に考えれば、少時なる人物が実在していれば犯人はその少時なる人物を知っている人ではないかとの推測がまず立てられるべきでしょうね」

証人=「それはそうです」

主任弁護人=「結果的に言えば、捜査本部としては少時という人を見つけることが出来なかったわけですね」

証人=「はい」

主任弁護人=「初期の捜査としては、手抜かりであったかどうかは別として、大変間違っていたとは今から考えませんか」

証人=「不徹底だったということは言えます。相当離れているにしても同じ市内ですし、特に銃砲の許可を受けているということですから、当然所轄署で割り出せなければならないと考えます」

主任弁護人=「あなたとしては、そういう人が実在すると判っていたらおそらく当初立てた捜査方針は大きく変わっていただろう、と思うでしょう」

証人=「捜査方針まではともかくとして、いずれにしても関連の捜査はされたであろうと思います」

主任弁護人=「捜査本部が石田豚屋に出入りする人に捜査を狭めていったという時期はあるのでしょう」

証人=「これは、それぞれの特命捜査班を編成していましたから、特に石田一義さんのところに狭めていったというわけではなく、それぞれ並行して進んで行ったと思います」

主任弁護人=「石田豚屋からスコップがなくなっているということが分かった時点で、スコップを取り得る人だという風に捜査当局としては考えたわけでしょう」

証人=「五月六日だったでしょうか、なくなったという届出があり、これらが穴を掘るのに使われたのだろうと推定したわけです。そうすると、そのスコップは普通の者では取り得ない、どういう人なら取れるかと取り得る人の検討をしました」

主任弁護人=「五月六日からかなり近い時期にそういう検討を始めたわけでしょう」

証人=「そうです」

主任弁護人=「あなたは五月六日ということを前回にも何回も言っているし大変よく覚えているが、そのスコップが発見された日を覚えていますか」

証人=「覚えていません」

主任弁護人=「それは五月十一日だが、五月六日当時すでになくなったスコップということから調べていって、犯人はそのスコップを取り得る人ではなかろうかという風に推定し、十一日には死体発見現場付近からスコップが実際に出たとなると、あなたとしてはその推定は正しいのではないかという気持ちを強めたわけでしょう」

証人=「そうです」

主任弁護人=「ところで、そのスコップが本当に石田豚屋からなくなったものであるかどうかをいつ確認したか覚えていますか」

証人=「石田さんからなくなったという届が出ているわけですから、それによって捜査員が多分行ってそれについての関係書類を作ったと思いますが、それが確認の時期ではないでしょうか」

主任弁護人=「そうすると、あなたとすればスコップが発見された直後に当然確認した、また、そうでなければいけないと考えるわけですね」

証人=「そうなるべきものです」

主任弁護人=「五月二十一日になって確認しているのだが、どうですか」

証人=「これに間違いないかという確認ですか」

主任弁護人=「そうです。確認上申書を求めているのが五月二十一日なのですがね」

証人=「その前に何か手続をしていないでしょうか」

主任弁護人=「その前に鑑定に出しているのですが、紛失したという連絡が捜査本部に入っていて、そしてそのものであるかどうかわからないけれどもとにかくスコップが出て来て、なくなったということを言っている人に確認する前に鑑定に回してしまうということが普通ありますか」

証人=「一応見せてやるのが筋のようですね」

主任弁護人=「特別にそういうことをしなければならない理由でもあったのではないかと思うので、あなたの説明が聞けると思ったのですがどうですか」

証人=「分かりません」

主任弁護人=「その当時あなたに対して、スコップが出て来たけれども鑑定に回そうとか、いつ確認を求めようかとかいうようなことを相談する人があったり、あるいはあなたの方でそういうことについて報告を受けたりした記憶はありませんか」

証人=「はっきりしません。大体事件関係の捜査指揮は将田警視が中心にやっていましたから、私は報告を受けていない点もあるのでそのへんのいきさつは分かりません」

主任弁護人=「今あなたとして、はっきり言えることはスコップ紛失の報告、スコップの発見、鑑定、そののち確認というのは少なくとも常識的におかしい、ということですね」

証人=「そうです。書類を作る作らぬは別として、一応確認を求めてそののちに鑑定に回すべきであり、これが捜査の常道だろうと思います」

(続く)