アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 962

【公判調書3011丁〜】

                  「第五十六回公判調書(供述)」

証人=遠藤  三(かつ)・七十歳

                                           *

松本弁護人=「それから証人は福地弁護人からの質問に対して、五月二日の夜、佐野屋前の張込みに加わったと仰いましたね」

証人=「はい」

松本弁護人=「証人はこの時は、この捜査の、まあかなり中心的な位置におられたんでしょう。あなたが最高という意味じゃないんですよ、中心的にいろいろな張込み計画を立てたりするという意味です」

証人=「中心的というよりも、中心的な人物という者はもっとほかに上司として仰いだ人間がたくさんおったわけですから、経験は勿論、年数からいくと言うと私のほうが皆さんよりも多かったというようなものの、計画、その他については階級的にもっと上の人がやったわけです」

松本弁護人=「県警本部の捜査一課でいうとあなたの位置は何番目になるんですか」

証人=「課長がおりますね」

松本弁護人=「誰ですか」

証人=「当時、飯塚警視じゃなかったでしょうか。刑事部長が中さん、係長が私」

松本弁護人=「あなたは捜査係長だったんですか」

証人=「ええ、そうです」

松本弁護人=「それじゃまあ、捜査一課というのは大体何をするところですか」

証人=「私の立場からいうと強行犯凶悪犯を」

松本弁護人=「そうするとその係長といえばあなたが一番実際には課長を補佐しながら全体の係の人間を指揮していくという立場におられるんでしょう」

証人=「日頃の立場はそうかも知れませんが、当時の立場ではそうではなかったですね。早い話が中刑事部長が頭になっていて、私等はずっとまあ下のほうで仕事をしておった関係から、とにかく細部にわたるいろいろな関係については全部が全部タッチしたというわけにはいきませんのですね」

松本弁護人=「あなたは張込みをする前、五月二日の段階、一日の夜の段階、その時に中田善枝の家へ行って、例えば脅迫状が差入れられておる状況とか、自転車が置いてあった状態とかいうことについて聞込みをしたり、その場所を見たりなどはやりませんでしたか」

証人=「やりました」

松本弁護人=「いつ行きました」

証人=「その翌日あたりからじゃなかったですかな」

松本弁護人=「二日ですね」

証人=「いやいや三日頃からですね」

松本弁護人=「張込みの前に」

証人=「張込みの前には行きません」

松本弁護人=「あなたは中田家の誰かに張込みの前に会いませんか」

証人=「会いません」

松本弁護人=「登美恵さんを説得したりもしなかったですか」

証人=「やりません」

松本弁護人=「あなたは張込んだというんですが、どういう状態で張込んでいたんですか。場所は分かりましたけれども隠れていたんですか」

証人=「隠れておったんです。茶畑だと思いましたが、その中ですね」

松本弁護人=「あなたはその時に大体、張込みの全体図という風なものを分かっておったんでしょう。三十数人が張込んでおったらしいんですが、どの辺が重点であったということは」

証人=「大体、張込み計画というものについて、一応は当時頭に入れたわけなんだが、現在は記憶がありません」

松本弁護人=「石川君は逮捕されてからいろいろ図面で指示をしておりますけれども、ほとんど平仮名で書いてあって、全部といってもいいほど平仮名で、自分の署名以外、漢字はほとんど使っていないということに気が付きませんでしたか」

証人=「漢字はなかったんじゃないかと思います」

松本弁護人=「それはあなたの方で、なぜか聞いてみたりはしなかったんですか」

証人=「しませんでした。別に仮名を使おうが漢字を使おうが関心ありませんでした」

松本弁護人=「あなたは脅迫状の文章はご覧になりましたか。大学ノートの破ったところに書いた字は見ましたか」

証人=「見ましたね」

松本弁護人=「その事と関連付けて本人に尋ねたりは、なぜ漢字を書かんのかと追求したようなこともないんですか」

証人=「ありません」

松本弁護人=「本人は漢字を書くだけの力がなかったんではないんですか」

証人=「その点は・・・・・・・・・ないんですか」

松本弁護人=「書いてませんよ」

証人=「漢字書く力がなかったんかあったんか分かりませんが、と言ってどうして漢字で書かんということも聞いたことございません」

松本弁護人=「本人の字は何か押さえて太く書くような、そういう感じの字でしたか。先ほどの図面で記憶を喚起していただいて、細手の字ではないですね」

証人=「あれは鉛筆が太かったんじゃなかったんでしょうか。細い鉛筆で書けば細かったんじゃないかと思いますが」

                                            *

○弁護人は証人に対し、石川被告人が書いた図面には漢字が見当たらず、ほぼ平仮名による記入で占められていることを疑問に思わぬかと問う。これは漢字が含まれている脅迫状の文面を念頭に発問したものと推測するが、では石川被告人が平仮名に関しては一般的水準を満たしていたかと言えば、これも怪しい。

この二枚の写真は、石川被告が書いた石田養豚場の見取り図を拡大したものである。写真一枚目の「いり"くち」の「"く」という表記は、本来なら濁音であることを示すため、清音(く)の右肩に二つの点(濁点)を打ち「ぐ」という文字として完成するのだが、写真のそれは左肩に二つの点が打たれ、読み手としては、打たれた二つの点の位置に違和感を覚えながらも「いりぐち=入り口」と認識し、その裏で、意識の中「これを書いた者の識字能力は低い」とも感じるだろう。

二枚目の写真に見られる「じゃべる」いや、「じゃるべ」か、どちらにせよ聞き慣れない言葉だが、この図面及び、図面を書くに至る経緯からして、これは要するに「スコップ」を意味するのである。昭和世代の者としては、あの頃はスコップとはシャベルと同義語であり・・・・・・などと、ここで昭和を語るのは慎むが、つまりスコップ=シャベル、このシャベルという表記を石川被告は「じゃべる」というか「じゃるべ」か、どう読むかよく分からないが、そう図面には記録されているのである。

漢字の筆記以前にまず平仮名の表記を学習した方が・・・・・・などと感じつつ、本件の重要証拠物を眺めてみる。

こちらの書き手は達筆ですな。