アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 733

(佐野屋付近の張込み配置の模様。ただし、これは下記の証言に出てくる図面そのものではない。写真は"狭山差別裁判第七集=部落解放同盟中央本部・中央出版局"より引用)

【公判調書2302丁〜】

                 「第四十五回公判調書(供述)」

証人=大谷木豊次郎(五十八歳・浦和自動車教習所法令指導員。事件当時、埼玉県警察本部捜査一課・課長補佐)

                                         *

中田弁護人=「あなたはこの日の張込みを現在でも失敗であったとこう考えているわけですね」

証人=「ええ、考えております」

中田弁護人=「犯人をともかく逃がした、社会的にはかなりの批判が埼玉県警に与えられましたね」

証人=「ええ」

中田弁護人=「埼玉県警としては相当な検討なり反省をしたことでしょう」

証人=「それはしておりますですね」

中田弁護人=「具体的にはここに誰を配置し、どうしたけれども、結果はどうなったかという、かなり細かい検討もしておるでしょう」

証人=「この事件後の検討会というのは、具体的なのは私、出席したことありません」

中田弁護人=「重ねて聞きますけれども、あなたとしては張込みだけではなくて、事件全体の捜査の検討会をやったという記憶はないですか」

証人=「全員で検討会というのは、そういった記憶はありませんですね」

中田弁護人=「狭山署の諏訪部刑事課長の証言によりますと、配置場所を明示した書類が作られていて、捜査報告書のようなもので作られていてね、それは検察庁へ送付したと、こういう風に言っておるんですけれどもね」

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山梨検事=「そういうことが記録に出ていますか、どこに出ていますか」

                                          *

中田弁護人=「検察官、少し読まれてから異議を言われるなら意義を言われたほうがよろしくありませんか。示しましょう、当審第十一回公判における諏訪部正司の証言なんですがね。

(記録第十二冊一.〇三四丁裏以下を検察官に示す)

読んで下さい、一.〇三四丁表の末行からかもしれませんな」

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山梨検事=「図面なんか一つも書いてありませんね」

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中田弁護人=「図面という言葉を言いましたかね。張込み地点を明示したというような趣旨の発問ではないですか。あまり、こだわる必要ないでしょう。捜査報告書か何かのようだということを言っているでしょう、私」

                                          *

裁判長=「ちょっと速記官、読んでごらんなさい。

(このとき速記官は前丁表、初行から六行目までを速記原本に基づいて訳読した)

検察官いいですか」

                                          *

山梨検事=「 はい」

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中田弁護人=「今のやり取りの中でお分かりになったと思いますがね、諏訪部さんは張込みの地点を記入したと言いますかな、そういう捜査報告書類のようなものがあって、検察庁へ送付してあるということを言っておられるのですが、あなたはそういう書類について記憶がありますか」

証人=「それはありません」

中田弁護人=「ありませんか」

証人=「ええ」

中田弁護人=「あなたが先ほど犯人と中田登美恵さんとのやり取りについては何か捜査報告書のようなものを作ったような記憶があると仰いましたね」

証人=「はい」

中田弁護人=「それは張込みとは全然関係のない、ただ犯人とのやり取りについてだけですか」

証人=「そうです」

中田弁護人=「あなた自身が張込みの実施図なり、実際に行ったところと、その計画書と、それに対する検討の結果なども含めた捜査報告書などを作ったことはないのですか」

証人=「そういうことはありません」

中田弁護人=「そして、今、諏訪部証言を引用しましたが、諏訪部捜査報告書のようなものを見た記憶もないんですね」

証人=「ございません」

中田弁護人=「山下さんは佐野屋の道路を隔てた前の家の道路から一間か一間半引っ込んだところにいたんでしょう」

証人=「そうです」

中田弁護人=「そうすると、山下さんとあなたとを比較すると、あなたのほうが犯人に近い位置にいましたね」

証人=「そうです」

中田弁護人=「あなたは警察官からも検察官からも当夜の模様について取調べという形の質問を受けたことはないんですね」

証人=「はい、ありません」

中田弁護人=「当夜の犯人とのやり取りについて、あなた自身が法廷に出たこともありませんでしたね」

証人=「ありません」

中田弁護人=「常識的に言うならば、山下さんよりはあなたのほうが近い地点にいたんだから裁判所の証人にもあなたのほうが適しているように思われるんですがね。多少、意見に亘るかも分かりませんがね、なぜあなたじゃなくて、山下さんが法廷に出られたか、あなたの思い当たることありませんか」

証人=「別にありませんね」

中田弁護人=「別にないですか」

証人=「ええ」

中田弁護人=「ちょっとはっきりしなかったから伺うんですが、最初に作った計画を変更したその最初の計画については配置に関する図面が出来ていた、そういうことですね」

証人=「はい」

中田弁護人=「ところが、変更後の計画には図面か何かを作るまでにはいかなかったと、こういう趣旨のことも言われましたね」

証人=「そういう趣旨で私、申し上げましたか」

中田弁護人=「私はそういう風に聞いたんだが、質問はこういうことです。第二回の計画、実施したその計画のときには、あなたはこの計画を将田警視から示されたわけでしょう」

証人=「そうです」

中田弁護人=「将田警視から示されたときには、張込み地点などを図で示した図面のようなものがあったのではないですか」

証人=「そのものはあったようでしたけれども、あのときの状況は非常にデリケートな形になっておりまして、最初の計画が出来ておりまして、ここは誰と誰を配置するんだと、それに私は要員に来た人員を一人なり二人なり配置していこうかと考えて、それを進言したんです。そうしたら、そうでなく、今、作っているからということで、それと同じ図面みたいなものがあったと思いますが、そこで、こことここをというようなことで、人が変わってくるような形で配置されたわけです。そのものについては私確認しなかったです。確認する余地がなかったです。頭に入れるだけの余地がない、見るのは見たけれども、ここに誰が行っておるということは分かる余地がなかったわけです。だから指揮をするにしても、それが出来上がってから大谷木、これを指揮しろ、現場の指揮は大谷木ということで、自分は最初、警察署の刑事課長が一番事情を知っているんだから、その課長が現場指揮をするのが一番いいんじゃないかと、自分が思っておったんですが、大谷木が指揮をしろと言われたので」

中田弁護人=「いいです。私が知りたいのは第二回変更後の計画も、配置は図面上示された配置図があったのか、なかったのかということだけですがね」

証人=「配置図はあったような気がしますがね」

中田弁護人=「それをただ、あなたが充分頭に呑み込むだけの余裕がなかったということですね」

証人=「そうです」

(続く)

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○何者かが被害者を殺害し遺体を埋没、中田家へ脅迫状を届けた後、佐野屋に現われた。張込んでいた警察側はこれを取り逃した。狭山事件において、ここまでは嘘、偽りのない現実に起きた事実であろうと私は考えている。

五月一日深夜すぎ、遺体が埋没されたあたりから、その周辺に住む家の飼犬が吠え出し、まるで何者かが移動して行く様子に呼応するが如く、ほかの犬も吠え始めたという、現場付近に住む女性の証言(第一審)など含め、ここまでの事件の状況を疑う余地は全く見つからないのである。「何者かが」というところが非常に大切で、ここに石川一雄被告人の名前が出始めたあたりから、本件は、例えば推理本が多数出版されるなどという、おかしな、従って長期に渡る裁判へとの展開を見せる事件に向かうのである。そして、その出発点は今回法廷で証言している大谷木豊次郎証人の言を聞けばそれは明らかであろう。