アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 730

 

中田家へ届けられた脅迫状。「車で無事に届ける」「車出(で)いく」等、あえて公表しなくてもよい情報が盛り込まれ、捜査側は残念ながらそれに引っ張れた張込み態勢を取ることとなった。

【公判調書2296丁〜】

                    「第四十五回公判調書(供述)」

証人=大谷木豊次郎(五十八歳・浦和自動車教習所法令指導員。事件当時、埼玉県警察本部捜査一課・課長補佐)

                                         *

中田弁護人=「あなたは狭山警察署へ行って張込みの計画を狭山署の署長や捜査課長と相談したときには、当然に犯人が中田栄作方に届けた脅迫状の文面を検討したわけでしょう」

証人=「そうです」

中田弁護人=「その検討の結果が、自転車で来る公算が一番多いと思ったんですか」

証人=「そうです。自転車かバイクかと考えました」

中田弁護人=「なぜですか」

証人=「まあ、そこのところでもって、歩いて来ると逃げるのにもかなり時間がかかるでしょうし」

中田弁護人=「犯人は遠くに離れたところにいると考える材料があるのですか」

証人=「いや、そういう材料は別になかったんですけれども、これは私達も歩いてということはちょっと考えになかったです」

中田弁護人=「今から考えてみると、正に意表を衝かれた、つまり、計画としては、極めてずさんであったということになりますね」

証人=「ええ、そういうことを言われてもやむを得ないです」

中田弁護人=「あの脅迫状の文面には、友達が車で行くと書いてあったでしょう」

証人=「そうです」

中田弁護人=「それに引きずられたんですか」

証人=「そうですね」

中田弁護人=「あなた方、歩いて来るとは全然考えなかったですか」

証人=「そのときには考えませんでした」

中田弁護人=「先ほど伺った配置計画、そして、実際に配置されたところによると、どうやらこの第三見取図に書かれている、さっき私が指摘した四角の範囲ですね、その方向から、むしろ、犯人が来るであろうということはあまり考えなかったということになりますかね」

証人=「方向についてはあまり考えていないんです。わからなかったんです」

中田弁護人=「どこから来るか」

証人=「ええ、とにかく、ここへ来るんだから、ここを中心として四方をやる必要があるんだと、いずれにしても、この佐野屋の前の通りを通るであろうと、こういうことですね。そこへ来るにはどこを通ってくるだろうかというんで、そういったこと重点にして、まず、車で来るということで、自動車ということを考えたわけですけれども、自動車というとちょっと大げさだから、バイクか、あるいは自転車かという風にも考えたわけです」

中田弁護人=「あなたのは、結局、最後に行なわれた張込み、実際に行なわれた張込みは、五月一日狭山署で行った張込みと違っていたかどうか、その辺はどうでしょうか」

証人=「その張込み場所においてはあまりの違いはなかったと思いますが、張込みをする人は違っておったと思いますね」

中田弁護人=「私が五月一日と言ったのは、あなたが狭山署に行かれる前の晩には狭山署で張込んだと言ったでしょう」

証人=「一日の晩のことですか」

中田弁護人=「そうです」

証人=「これとは全然変わっておりました」

中田弁護人=「一日の晩はどの辺に重点を置いたか」

証人=「それは佐野屋の本当の近くだけを中心にしておったように記憶しております。ごく少数でもって今晩とかいうような文面でございましたか、で、もって、一日のその晩ということはそう強く考えなくて、念のためというような署の計画でございましたので」

中田弁護人=「多少、時間の点のずれはあるにしても犯人は指定された夜中の十二時前後には現われたわけですね」

証人=「はい」

中田弁護人=「夜明けまで外周の道路を中心とした捜査をしたんだということでしたね」

証人=「ええ、私の捜査はそうなんですが、ほかの捜査員はかなり広い範囲になったかと思うんですが、その点ははっきりしませんです」

中田弁護人=「あなたはこの佐野屋周辺の現場付近にその日何時頃までいたのですか」

証人=「二日の日ですか、逃げられた翌日ですね」

中田弁護人=「ええ、もう三日に入っているでしょうね」

証人=「ええ、三日に入ったですね、何時頃までだったか・・・・・・・・・はっきり思い出せません。あんまり遅くまでじゃなかったが、そうかといって、午後すぐに引き揚げたわけではなし、午前中いっぱいまではいなかったかもしれないし、ちょっとはっきりしたことを申し上げかねます」

中田弁護人=「犯人が逃げたとわかってから、張込んでいる警察官の要所要所を車で回ったということですがね、それは逃げてからしばらく経ってということでしたね」

証人=「結局、逃げたというのは、行くぞと、俺は帰るぞと言ってから、しばらく経ってからですね。だから、その行くぞと言ったときに逃げたのか、それから、しばらく居てから逃げたのか、その点はわかりませんので、ただ、行くぞと、俺は帰るぞと言ってからしばらく経ってからそこへ行ったということですね。現場へ行ったところが居なかったと」

中田弁護人=「あなた、ともかくね、俺は行くぞという趣旨のことを犯人が言ったことは聞いておるわけですね」

証人=「はい」

中田弁護人=「そして、それからあなたが飛び出すまでの間にはある時間があったわけですね」

証人=「はい」

中田弁護人=「どのくらいですか」

証人=「五分くらいあったでしょうかね」

中田弁護人=「そんなにあったの」

証人=「とにかく犯人はですね、話をして途切れて、それで、ややしばらく経ってからまた話をするんですからね」

中田弁護人=「あなたとすれば、犯人を捕まえなければならないという、そういう立場ですね」

証人=「ええ」

中田弁護人=「だから、犯人のその動きについては、ことのほか注意しておったわけでしょう」

証人=「そうです」

中田弁護人=「だからこそ、登美恵さんとのやり取りにも充分耳をかしていたわけですね」

証人=「ええ」

(続く)