【公判調書2294丁〜】
「第四十五回公判調書(供述)」
証人=大谷木豊次郎(五十八歳・浦和自動車教習所法令指導員。事件当時、埼玉県警察本部捜査一課・課長補佐)
*
中田弁護人=「かなり前の話ですからね、あるいは、記憶のないところもあろうと思うのですが、午前来、伺ったところによると、当夜張込みにあたった警察官の総人数は五十人近くということになりますね」
証人=「まあ、そんな風に記憶しておるんですけれども、実際はどうだったか、その辺もはっきりしないんです」
*
裁判長=「ちょっと証人に注意しておきますが、証人尋問始める前にも注意したんですが、長い間のことですから、記憶が失われていることも、これは本当にあると思うんですよ。憶えているほうがむしろ不思議なこともある。だから、あんまり、その点を、こういうことを言わないのは怪しまれるとか、何か、そういう風な気遣いはしないで、忘れたことは忘れたでいいんだけれども、憶えていることだけ言いなさい」
*
中田弁護人=「朝来の証言によると、当審第三回検証調書添付第三見取図、あなたの目の前にあるものですがね、これによると佐野屋に向かって左側のほうに、あなたと一緒に張込んだ警察官は三人」
証人=「ええ、私をまぜて三人です」
中田弁護人=「それから、道路を隔てた向こう側に一組ですかね」
証人=「はい」
中田弁護人=「それから、小天方に張込むことになっていた警察官が一組」
証人=「はい」
中田弁護人=「それから、この図面で、至狭山市役所堀兼出張所方面と書いてある近くの十字路のところに一組」
証人=「はい」
中田弁護人=「方位を記してある真下の三叉路のところにも一組」
証人=「はい」
中田弁護人=「町田忠治方にも一組」
証人=「はい」
中田弁護人=「これだけはあなたははっきり憶えておられるわけでしょう」
証人=「ええ、一応、それだけはあったと思います」
中田弁護人=「ところで、権現橋はどうでしたか」
証人=「はっきりしません」
中田弁護人=「それから、小天と書かれている家の近くに張込むことになっていた人が、間違って二、三百メートル先に行ったということですね」
証人=「いや、小天でなくて、実際はこの63の地点がございますね。この延長した道路の向う側付近に張込む者が一組いたわけです。道路を隔てて」
中田弁護人=「じゃ訂正しましょう。小天さんの家近くには計画通り一組いたわけですね」
証人=「はい、それで63のこの先ですね」
中田弁護人=「そうすると、図面で62から63に向かっている道路を越えて、更に延長したこの部分に一組」
証人=「いるわけだったのが、ここへ来ないで二百メートルも離れたこちらのほうへ、63から北東方面ですね」
中田弁護人=「わかりました。伺った範囲では、あなたが地点的に記憶しておられる人は、どう考えてもせいぜい十数人なんですがね、この図面で言いますとね。残りの、まあ二、三十人はいたということになりそうですが、残りの人はおおよそ、この図面で、どの範囲に配置されていたかは分かるでしょう」
証人=「この図面でなく、ここから延長した道路」
中田弁護人=「そうすると、この図面で言うと、小天方前は四叉路になってますね、図面では四叉路で、宮寺方面と書かれている道路及び、山本製作所方面と書かれている道路の方向にいたんですか」
証人=「そちらにも配置しておったわけです。この北、東ばかりでなく、これを中心としたところへ、ずっと配置しておったわけです。だからここのところへ配置されていたという者はごく僅かということになります」
中田弁護人=「ごく僅かですか」
証人=「そうです」
中田弁護人=「さっき、あなたが挙げられた小天方、それから堀兼出張所方面と書かれている近くの十字路、それから方位を示す印の下の三叉路、町田忠治方と、この四点を結ぶと、おおよそ四角形になりますね。その四角形の範囲にいた人は当夜、全部張込んだ人の中のおおよそ何割くらいなんですか」
証人=「半分ちょっと超えるぐらいです。半分までいかないですかね。半分まではいかないでしょうね」
中田弁護人=「更に、念のため聞きましょう。小天方から町田忠治方へ至る道路が図面上書かれていますね」
証人=「はい」
中田弁護人=「この図面の中間にはいなかったんですか」
証人=「その記憶はちょっとありません」
中田弁護人=「町田忠治方から61を通って、方位の印の下にある三叉路、この道路の間には配置されたのですか、されないんですか」
証人=「されてないと思います。これははっきりしません」
中田弁護人=「今度は、今言った三叉路から、堀兼出張所方面と書かれた下の十字路には、張込みがあったんですか、ないんですか」
証人=「なかったと思います。大体、こういう三叉路、十字路、そういうようなところを重点的に張込みをしたと思いますが、そういう直線のところにはなかったと思います」
(続く)