アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 732

(写真は当時の狭山。狭山事件裁判資料より)

【公判調書2300丁〜】

                  「第四十五回公判調書(供述)」

証人=大谷木豊次郎(五十八歳・浦和自動車教習所法令指導員。事件当時、埼玉県警察本部捜査一課・課長補佐)

                                          *

中田弁護人=「あなたは犯人に逃げられてから、車で回ったのはしばらく経ってからだと言いましたね」

証人=「ええ、しばらく経ってからです」

中田弁護人=「それは百メートルばかり追っかけてきて、もとへ戻って、それから五百メートルかそこら離れていた車の場所を指示なり何なりしてね、車を持って来るなり、あなたが行くなりして、車に乗って行くという時間的経過はあるでしょうが、回ったのは一時間も二時間も経ってから回ったのではないでしょうね」

証人=「この回ったのは、かなり遅れて、一時間くらい経っているかも知れないし、回ったのはですね、先ほどは、しき、回ったように申し上げたかも知れないが、その近くにおって、回ったときには自動車のライトをつけずに回ったような気がしますから、かなり遅くなっているかも知れないです。こちらの方へ私が行ったと先ほど申したのは、あれはちょっと違っていて、行くことは行ったんだが、捜査員はもうすでに追跡捜査を開始した後だったかも知れないですな、自動車で行ったのは、何回か自動車でぐるぐる回っておりましたから、そういったところがはっきりしないんですが」

中田弁護人=「あなたが、しかし、権現橋の方へ行ったときには、そこにはまだ張込み員がいたわけでしょう」

証人=「ええ、だから、その張込み員がその晩の張込み員であったかどうか、それが確認出来ないんです。こういうような要所はやはり、遊動警戒と定地点張込みと両方兼ねておらないと上手くないと思って、特に命じなくてもそこにいたんじゃないかと思いますね」

中田弁護人=「だけど、あなたが言っているのは、こっちの方向へ逃げたから捜せという指示が主たる目的だったんでしょう」

証人=「それはこちらの方向を捜せというのは、そこにいても捜せるわけですから、車を検問するとか、あるいは、通ってきた者をチェックするということは捜査の対象になるんですから」

中田弁護人=「そうすると、車で各張込み地点を回ったのは、ずっと後だったかも知れんと、そういうことですね」

証人=「ずっと後も回ったし、直後も回っておるような気もするし、その点あんまり、時間的な問題についてははっきりしておりません。とにかく回ったことは回ったんです」

中田弁護人=「しかも何度も回った」

証人=「ええ、二回くらい回っておりますね」

中田弁護人=「直後に回ったということも、はっきりはしないがあり得るわけですね」

証人=「本当の直後というか、三十分くらいの間に回ったということはちょっとないかも知れませんね。とにかく、ここにいて、ここに集まって来た者をそちらへ行ってくれということを言わなければならない立場におったから」

中田弁護人=「そこでね、私が伺いたかったのはですね、当夜張込んだ人をあなたが犯人を逃がしてから後に、その現場からあなたが去るまでの間にあなたがですよ、全員集めたことがありますか」

証人=「ありません」

中田弁護人=「全然ないんですか」

証人=「はい」

中田弁護人=「しかし、その全員に少なくともそれぞれの捜査の指揮をしたということはあるわけですね」

証人=「それはあります。一個所へ集めたことはないけれども、この図面にないこちら方面にいる者に対して引き揚げて来いという連絡を出して、その者を今度こちらの方面、北方面に入れるということはしましたね」

中田弁護人=「だから、それは捜査員が張込んでいる場所でしたか、あるいはあなたのいるところへ呼んで来たかは別にして、当夜あなたの指揮下にあった警察官には大体全員に対して、ともかく、新たな捜査、犯人を追跡するという捜査を命じたことはあるんですね」

証人=「そうですね」

中田弁護人=「もちろん、そういう捜査を下命するにあたっては、それぞれの警察官がそれまでにいた場所について見聞したことを聞いているでしょう」

証人=「いや、聞きません。もう現実にこちらへ逃げたということですから、今まで配置しておった場所において、どういう人間が通ったとか通らなかったとか、あるいは、どういうことがあったかということを聞いている余裕がないんですよ」

中田弁護人=「だけど、少なくとも権現橋と町田忠治方の方向というのは、あなたが犯人が逃げたと考えている方向でしょう」

証人=「ええ、そうです」

中田弁護人=「とすれば、その地点にいた人ぐらいには、何か見なかったぐらいは聞くでしょう」

証人=「その者には聞きました。聞いたと思います」

中田弁護人=「その権現橋なり町田忠治方方向に張込んでいた人には聞いたわけですね」

証人=「はっきりしたことは申し上げられませんが、誰に聞いたか知らんけれども、こっち方面に張込んでおった者には、誰と誰に聞いたと言われると分かりませんが、一応、そっち方面のはどうだったかということは」

中田弁護人=「その報告の中で、こういう特異な事象があったとかね、自分の近くで誰かが走っていったとか、そういう報告を受けたことありますか」

証人=「それはありません」

中田弁護人=「全然ありませんね」

証人=「はい」

(続く)