アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 731

(○印=佐野屋。◎=中田登美恵さんが身代金に見せかけた風呂敷包を持っていたところ)

(写真二点は "無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用)

【公判調書2298丁〜】

                   「第四十五回公判調書(供述)」

証人=大谷木豊次郎(五十八歳・浦和自動車教習所法令指導員。事件当時、埼玉県警察本部捜査一課・課長補佐)

                                          * 

中田弁護人=「あなたは犯人が来たと最初に気が付いたのは、がさがさという足音のような音がしたからだと言いましたね」

証人=「ええ、そこのところがちょうど、足音のあったところが落葉みたいなものがあったんです。ほかのところにはないんです。だからそのあとは、こう彼がやっているときには音がしておったわけです」

中田弁護人=「あなたは大変、見ているようなことを言っておりますがね、がさがさという音はずっとしておったんですか」

証人=「しょっ中ではないんです。その音がしたり、しなかったりです」

中田弁護人=「そうすると、登美恵さんとのやり取りの間、時々、がさがさという音がしていたんですね」

証人=「ええ、たまにですね」

中田弁護人=「犯人が逃げたというようなことを、気配を示すようなものがあなたとしては感ぜられなかったんですか」

証人=「私は出てくるだろうと思っておったんです。それで、これはまあ、余分なことになりますが、ここのところ逃げられて、ちょっと追っていってもなかなか見つからないんです」

中田弁護人=「ですからね、あなたとしては飛び出したときには逃げたに違いないと考えていたんですか」

証人=「いや、まだいるかもしれないと思ってました」

中田弁護人=「飛び出して佐野屋の前の道路を右のほうへ少し進んで、あなたは農道を走ったわけでしょう」

証人=「いや、農道を勢い走ったわけでなく、そこのところを見たところが、そこの64のところが見えなくて、そこには人の影がありません。それから、いきなり農道を走ったわけです。農道を走っても、ああ、もう、あのとき、行くぞと言ったときに逃げたんでは、もう五分も経っているから、ここで追っかけたところでちょっと、もう遅いと、これは早くに連絡をして、俺一人では、このまわりの四、五人だけでやるんでなくて、皆んなに知らせて、皆んなでやったほうがいいということで知らしたんです」

中田弁護人=「あなたが農道を追っかけた理由は何ですか」

証人=「これは本能的に一応向こうへ行ってみようということです。まだ、そこにいるかもしれない、こういう気持ちがあったからですね。だから、追っかけているうちに、考えて、これはあのときに逃げたんだとすると、ここから追っかけていってもはじまらないと」

中田弁護人=「何か、月が出ていたかもわからないという趣旨のことを言いましたね」

証人=「ええ」

中田弁護人=「あなたが追っかけていく頃は、農道はあなたの前のほうに、もし、人が走ったり、立っていたりすれば見える状況ですね」

証人=「見えるような気がしましたね」

中田弁護人=「かなり先まで」

証人=「かなり先まで農道を走っていくなら見えるというような気がしましたね」

中田弁護人=「そうすると、あの農道真っ直ぐ走ってますからね、かなり見通しはあったわけですね」

証人=「見通しはききます」

中田弁護人=「月明かりと共に」

証人=「ええ、月明かりと共に」

中田弁護人=「中田登美恵さんは何か白っぽいものが動いたという風に言っているんですがね」

証人=「それは中田登美恵さんはあの佐野屋の私達の張込んでおった前を通って、64にかなり近いところまで行きましたから、それから白いものが見えたということも不思議ではないと思います」

中田弁護人=「あなたはそういうものを見たことはないのですか」

証人=「見たことはありません」

中田弁護人=「あなたは警笛を吹いたか吹かないか、あなた自身がですよ」

証人=「警笛を吹いたかどうかはっきりしません」

中田弁護人=「山下了一さんという人知ってますね」

証人=「はい」

中田弁護人=「あの人、そのほかの証言を多少あれすると、どうも警笛を吹いたのは、あなたなり、あなたと一緒にいた人の中の誰かのように思われるんですがね」

証人=「あるいは、吹いているかもしれないです、誰かが。ただ、はっきりしないだけでもって」

中田弁護人=「狭山警察署の捜査課長と言ったんでしょうか刑事課長と言ったんでしょうか、ちょっとはっきりしませんが、は、諏訪部正司という人ですか(注:1)」

証人=「そうです」

中田弁護人=「諏訪部さんも当夜は来てましたか」

証人=「当夜は来ておりましたけれども、張込みの場所には・・・・・・、私の近くのところにはおりませんですね。少なくとも私の近くにはおりませんですね」

中田弁護人=「諏訪部さんの証言によりますとね、先ほどからその図面で63点から62、61点とかけてね、農道にも何人か張込みがあったと、それから方位を示す印の下の三叉路がありますね。この付近に石田一義さんという人の家があるんですがね。その付近にも張込みがいたという風に言っておられるんですがね、あなたとちょっと違うので、重ねて伺うんですがね」

証人=「この63から62、61に対しての張込みについては記憶ありませんですね。私はなかったんじゃないかと思います」

(続く)

                                          *

(注:1)この中田弁護人の発言は文章として見れば、ややわかりにくい。なぜならば、読み手は後半に現れる「は、」を確認して、初めて「狭山警察署の捜査課長か、刑事課長か、はっきりしない」ことが「諏訪部正司という人ですか」にかかる、つまり修飾する側とされる側の関係が理解できるからである。この修飾・被修飾関係が離れ過ぎた場合、文章はたちまちわかりにくくなる。従って例えば、「狭山署の課長は諏訪部正司か」と、修飾・被修飾関係を直結させるとわかりやすい文章となろう。

日本語の助詞「は」は確かに便利である。延々と寝言を述べた後、助詞「は」で一旦締めることが出来るからであり、「で」等も、その仲間と見られる。

公判調書(供述)は人間の語り口調をそのまま文章化されているため、発言者によって、限られた時間での自身の思考を言葉に変換するという、その表現力の違いが非常に明確に表れ、こういう視点から見る公判調書もまた魅力的であるが。