アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 665

(狭山事件裁判資料より)

【公判調書2069丁〜】

                    「第四十一回公判調書(供述)」

証人=山下了一(五十二歳・無職。事件当時、埼玉県警本部捜査一課)⑫

                                          *

中田弁護人=「恐喝未遂のことを、あなたとしては狭山署にいるとき聞いたわけですから、当然佐野屋の前の出来事のことも聞いてるわけですね、石川君には」

証人=「まあ、聞いたようにも思いますが」

中田弁護人=「脅迫状を中田栄作さんの所に届けに行ったんだろうということも聞いたんでしょう」

証人=「そういう具体的なあれじゃなく、とにかく本当の話をしなさいという風に調べたと思います」

中田弁護人=「佐野屋の前の出来事も、あなた自身がいわば直接見てるというか聞いてることだから石川君には聞いてみたんでしょう」

証人=「いや、本当のことを話しなさいというように聞いたと思います。それで本人がいろいろやったというようなことを言うことを期待したわけですが」

中田弁護人=「本人に脅迫状を見せたことがあったですか」

証人=「その点はどうでしたかね」

中田弁護人=「ただ本当のことを話しなさい、本当のことを話しなさいということをお経のように言うことも常識外でしょう。たとえばこの脅迫状を書いたことはないか、とか、佐野屋のところへ五月二日の夜行ったことはないかというくらい聞いていかなければ・・・」

証人=「私は今度の事件に限らず大概の被疑者については、いつでも調べの方法として本当のことを話しなさいというようなことでやっております」

中田弁護人=「何を言えば本当の事実か、相手にわからんようじゃ困るでしょう、取調べの時は」

証人=「まあできる限り誘導的なことは避けて取調べをしております」

中田弁護人=「実際には、お前は五月二日の夜、佐野屋へ行ったんじゃないかと聞くのが当たり前だろうと思うんですが、聞かんほうが、おかしいじゃないですか」

証人=「本当のことを話しなさいと言ったように記憶してますが」

中田弁護人=「あなたは石川君を取調べてる間に、佐野屋のところへ小刀か、あるいは刀を持って行ったことはないかということを石川君に聞いたことはあったんじゃないですか」

証人=「さあ、記憶がちょっとないですね。刀ですか」

中田弁護人=「小刀でもいい」

証人=「記憶がないですね」

中田弁護人=「何か、先ほどもちょっとこちらの弁護士さんが聞かれたことですがね、茶畑の地下足袋で踏んだ跡があるという辺りで、刃物で木を切ったことがあったようなのを、警察官が発見しているんじゃないですか」

証人=「それは私は記憶ありません。あるいはそういうことをよく知っているとすれば、鑑識か何か現場の関係をやった人ですね、そういう人が知っているんじゃないかと思うんですが、何しろ先ほども申し上げました通り三十人の捜査員の関係のいろいろ勤務配置だとかそういう関係をやってたんで、現場の方は私はそう綿密に検証的なことはやりませんでしたから、それは鑑識の方でやったと思います」

中田弁護人=「いや、あなたは、その、刃物を持って行ったんじゃないか、というようなことを聞いたことはないですか」

証人=「ちょっと記憶がないですね、もう忘れたかも知れないけれども記憶がないですね」

中田弁護人=「佐野屋の前に現れた犯人は二人いて、一人は不老川の方へ、一人はさっき、あなたが言った農協の方へ逃げたんじゃないかという風に捜査当局が考えていたことはないですか」

証人=「そういう考えはないですね、まあ私が農協の方へ行ったのも別に根拠というものはなかったんですが、それは、私、本人ですから、ただ、ばたばたと足音がして、佐野屋の前にいた人が一番近いし、足音がして飛び出して行ったんで、別に農協の方へその足音が向いて行ったとかいうことは私自身は聞いてないですが、飛び出して、その音で、出て行った姿がないから、あるいは向こうじゃないかとも思ったし、また、戻ってこっちじゃないかとも思ったし、とにかく暗いことですから」

中田弁護人=「とにかく、あなたが農協の方へ向かって走ったことだけは確かですね」

証人=「はい」

中田弁護人=「話は全然違いますが、あなたは五月二十三日の最初の逮捕の時から五、六日間調べていたんですか。記録で見れば、清水利一さんの調書が沢山あるわけですが」

証人=「私は最初、立会的な関係で調書は取らなかったように思います」

中田弁護人=「と、清水さんの調べには、立会っていたわけですか」

証人=「調べに立会的な関係で、調書は一番最初の窃盗と詐欺だか、とにかくもう一つの関係と、恐喝未遂の関係の調書と、あとは、清水さんと一緒に、そこに立会的にいた関係で、調書なんかを取ったことはないという風に思っております」

中田弁護人=「清水さんの調書が、五月の二十四日、二十五日、二十六日、二十七日、二十八日という風に出来てるんですが、その時もあなたは調べに加わってはいたということになるんですね」

証人=「まあ、立会をしたこともあるし、諏訪部課長が行ったこともあるし、いろいろだと思います」

中田弁護人=「ちょっと、念のために聞くと、今言ったように、二十四日から、五月の二十八日までに、清水利一さんの調書があって、五月三十一日、六月一日は諏訪部さんの調書が出来てるんです、そのほかにもあるかも知れんけれども私どもが知っている限りでは。で、諏訪部さんが調書を作っている時でもあなたは、その取調べに立会っていたという関係ですか」

証人=「いや、いなかったと思います。ただその五日か六日の間に私と諏訪部さんと一緒になって聞いたこともあったように思います」

中田弁護人=「伺いたいのは、さっきも聞かれたように、あなたは五月二十三、二十四日付の調書を作り、六月三日付の調書ができて次は十八日の再逮捕の時まであなたの調書は無いわけですよ、この間あなたとしてはずっと石川の取調べをやらなかったのか、そのほか転進したことがあったんですか」

証人=「転進しました」

中田弁護人=「何の捜査をしましたか」

証人=「書類の検討をしたり持続の関係を引続いてやったり、それから石川以外の被疑者の取調べをやったり、そういう関係で、もうその後は誰がやったかという記憶はありません」

ないか弁護人=「と、石川君の調べから、ほかの捜査に移ったことがあるんですね」

証人=「あります」

中田弁護人=「再逮捕の時、また戻って来いということになったわけですか」

証人=「そうです」

中田弁護人=「そういうこと」

証人=「はい」

中田弁護人=「その時は、あなたとしては再逮捕後も引続き、石川君の取調べを担当するように思っていたんですか」

証人=「指示があればやるつもりでいたんですが、先ほど申し上げた通り健康を害してあれしたんで、そのあと四、五日だと思いますが、休みました。あと、ほかの人が代わったように記憶してます」

(続く)