アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 619

【公判調書1935丁〜】

                    「第四十回公判調書(供述)」②

証人=河本仁之(三十七歳・弁護士。事件当時、浦和地検検察官)

                                         *

橋本弁護人=「それからどんな仕事をしましたか」

証人=「被告人本人の取調べをしたことがあります」

橋本弁護人=「被告人本人の取調べを始めたのはいつごろからですか」

証人=「第一次の逮捕、勾留期間の真中へんか終りごろか、とにかくそのころだったと思います」

橋本弁護人=「そうすると五月の終りごろか六月の初めごろということですか」

証人=「おそらくそのころだろうと思います」

橋本弁護人=「被告人からどういうことを聞き出そうとしたのですか」

証人=「細かい内容は記憶していませんが、主として逮捕事実になっていた恐喝未遂の関係について調べたのではないかと思います」

橋本弁護人=「恐喝未遂のどの部分ですか」

証人=「全般についてということでしょう」

橋本弁護人=「五月の終りか六月の初めごろ以降あなたの任務は被告人の取調べという仕事に変わったのですか」」

証人=「被告人の取調べは二、三回でしたか三、四回でしたがそのくらいの回数で終り、また傍証固めの方に回ったと記憶します」

橋本弁護人=「あなたのいう傍証固めと被告人を調べるという仕事は並行的ではなかったわけですか」

証人=「事の性質上、並行的ではなかったと思います」

橋本弁護人=「被告人の取調べののちの傍証固めというのはどのような部分に関してですか」

証人=「その辺ははっきり記憶がありません」

橋本弁護人=「あなたの被告人を調べた調書は数通ありますが、捜査が終るまでのあいだ全体で何通ぐらい作成したか記憶ありますか」

証人=「四、五通ではないかと思います」

橋本弁護人=「あなたが作成したことになっている調書によると、脅迫状の表書きにある少時様という宛名の問題、荒縄の問題、財布の問題、自転車の荷掛紐の問題、それから荒縄と結びつきますが木綿細引の問題、それから被告人の家にあったという少女雑誌についてなどを主として聞いているようですが、そういう物についての傍証をあなたは固めたのではありませんか」

証人=「自分自身が調べて調書にとったものの関係の傍証固めだけをやったという風には記憶しておりません」

橋本弁護人=「あなたがとったという傍証はどの部分であったか、またどういう人からであったかを知りたいのですが」

証人=「時期に関わりなくであれば、ある程度は記憶があります」

橋本弁護人=「時期に関わりなく言ってください」

証人=「被害者の中田善枝さんの姉さんの中田何とか・・・・・・」

橋本弁護人=「登美恵さん」

証人=「その登美恵さん、それから被害者の父親からも被害者の家に行って事情を聞いておりますから、調べたのではないかと思います」

橋本弁護人=「すると、被害者の家族から事情を聴取した、そして調書を作成した、ということですか」

証人=「そうです。したと思います。それから被害者の通っていた学校の同級生から二、三調書を取った覚えがあります」

橋本弁護人=「それは、自宅と学校の往復経路が問題になっていたようですが」

証人=「それと下校時間」

橋本弁護人=「それから所持品などの問題ですか」

証人=「そうだったと思います」

橋本弁護人=「全般についてですか」

証人=「全般について事情を聞いて調書を取ったように記憶します」

橋本弁護人=「そのほかは」

証人=「今記憶しているのはそんな程度です。あと私の名前の調書が残っていれば、それを言って頂ければ思い出すと思いますが」

橋本弁護人=「そのほかに物に関連して参考人調書を作成したことは思い出せませんか」

証人=「それ以外には物に関してはおそらく調書は取ってないのではないかと思います。被害者の所持品についてかなり詳しく聞いたような記憶はありますけれども」

橋本弁護人=「第一次逮捕の勾留期間は多分六月十二、三日あたりに満期になったのではないかと思うのですが、いずれにしろ第一次逮捕の勾留期間満了前にあなたは被告人を調べているということでしたね」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「被告人を調べるということは、誰かの指示を受けてしたのですか、それともあなたが自発的にしたのですか」

証人=「捜査を直接指揮していた当時の浦和地検の鈴木次席検事の指示で調べたように記憶します」

橋本弁護人=「先程、この事件の捜査に直接当たった検察官は四人であるという趣旨のことを言いましたが、その四人の方は仕事上の分担が決められていたのですか」

証人=「決められていたと思います」

橋本弁護人=「最初から包括的に任務が分担されていたのですか、それとも段階毎に任務を与えられたのですか」

証人=「たとえばある検事が一つの傍証固めを命ぜられてその捜査を完了すると次の傍証固めを命ぜられる、という風に進んでいったと思います」

橋本弁護人=「当初から誰はどの方面という風に決めてあったわけではなく、捜査の進展に応じてその具体的な指示があったというわけですか」

証人=「そういう風に記憶しますが、原検事だけは主任検事ですから主として被告人の取調べということに当たっていたと思います」

橋本弁護人=「原検事とあなたのほかに被告人の取調べをした検事はいましたか」

証人=「私の記憶では、滝沢検事が一回か二回か調べていると思います」

橋本弁護人=「小川検事はどういう仕事をしましたか」

証人=「小川検事は被告人の取調べには一回も当たっていないと思います。主として傍証固めに回っていたと思います」

橋本弁護人=「どういう部分についてですか」

証人=「どうも記憶がはっきりしないのですが、滝沢検事が手ぬぐいとかタオルの関係を最初の頃しきりに調べていたことは記憶しているのですけれども、小川検事はとにかくそれ以外のことであったということしか申し上げられません」

橋本弁護人=「裁判所に提出されている被告人の供述調書を見ると全調書の八割方は原検事が作成しており、あと、あなたの作成した調書が数通あるのですが、原検事以外にあなたが被告人を直接調べたのには何かわけがあるのですか」

証人=「原検事が最初からずっと調べて来たわけですが、なかなか捜査が進捗しないということで、人を替えてみたらという配慮で私に下名されたのではないかと思います」

橋本弁護人=「それは、被告人の自白がなかなか得られない、人を替えれば被告人がしゃべるかも知れない、という意味ですか」

証人=「そういうことだろうと思います」

(続く)