アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 623

【公判調書1945丁〜】

                    「第四十回公判調書(供述)」⑥

証人=河本仁之(三十七歳・弁護士。事件当時、浦和地検検察官)

                                          *

橋本弁護人=「六月十一日の調書に戻りますが、それに被告人が署名押印をしなかったのはなぜでしょうか」

証人=「録取して読み聞かせ署名を求めたところが、はっきり調書になるということに抵抗があったのでしょうか、とにかく拒否しました」

橋本弁護人=「調書に書かれている中味が事実と違うから拒否するということだったのでしょうか」

証人=「その辺の被告人の心境はわかりません」

橋本弁護人=「被告人は、拒否するについてはその理由をあなたに告げなかったのですか」

証人=「はっきりした理由は告げなかったように思います」

橋本弁護人=「六月十一日に三人でやったと自供したことは極めて重大なことだと思いますが、そのことは上司とか捜査当局の首脳部に報告しましたか」

証人=「報告しました。その晩八時か九時かその辺だったと思いますが、直接の指揮者である鈴木次席検事の自宅に電話を入れたところが確か不在で、やむなく渡辺要検事正方に電話を入れて報告しました

橋本弁護人=「あなたは六月十一日の後も引き続き被告人の取調べをしたのですか」
証人=「そのあと茶碗の一件の時に取調べていることは間違いありませんが、そのあと全面自供前に調べたかどうか記憶ありません」
橋本弁護人=「調書を作成した日付は六月十一日になっているけれどもその日は署名押印が得られず、その翌日、あなたとしてはなお署名押印して貰うよう被告人に告げるということをしたわけですね」
証人=「そういう風に思います」
橋本弁護人=「その翌日も署名押印は得られなかったのですね」
証人=「はい」
橋本弁護人=「結論的に言うと最終段階まで署名押印は得られなかったのですね」
証人=「署名押印しませんでした」
橋本弁護人=「六月十一日付の無署名の調書以降、全面自供を始めるまでの間に被告人の調書を作成していますか」
証人=「作ってないように記憶します」
橋本弁護人=「そうすると、六月十日前後の段階においては、あなたが作った調書はこの無署名のもの一通のみという記憶ですか」
証人=「窃盗とか傷害とかいう事件もありましたが、そういう関係で作ったような気もしますけれどもその辺ははっきりしません」
橋本弁護人=「恐喝未遂事件について調書を複数作ったのではありませんか」
証人=「一通だけだったという記憶が強いです」
橋本弁護人=「三人でやったという自供が得られ、その自供をさらに固めようという観点でその後も被告人を調べたのではないかと思うのですが、そう聞いていいですか」
証人=「少なくとも私はその翌日も引き続いて調べたわけです」
橋本弁護人=「その翌日は、署名押印のことは別とし、事実自体についての供述は得られましたか」
証人=「事実自体についても六月十一日の自供ないし自認がわりあい曖昧なものでしたから詳細な供述を求めた記憶はあります」
橋本弁護人=「そして供述は得られましたか」
証人=「十一日の調書以上に詳細な供述は得られなかったと思います」
橋本弁護人=「六月十三日はどうでしたか」
証人=「十三日まで調べたかどうか記憶ありません」
橋本弁護人=「いわゆる全面自供を始める前段階においては、結局六月十一日の無署名の調書以上のことは被告人から聞き出せなかったということになりますか」
証人=「そうですね」
橋本弁護人=「新聞報道によると被告人が善枝さん殺し事件について自供を始めたのは六月の二十日以降のようなのですが、六月二十日という日を基準にして、それ以前六月十一日までの間に自供がありましたか」
証人=「自供はなかったという風に私は聞いております」
橋本弁護人=「自供はないというのは否認ですか、それとも沈黙ですか」
証人=「その間私は直接調べておりませんけれども、黙秘ではなかったように聞いているように思います」
橋本弁護人=「黙秘でないとすると否認ということですね」
証人=「そうですね」
橋本弁護人=「五月二十三日に逮捕されて六月二十日以降の全面自供に入るまでの間に、あなたの六月十一日付の調書だけが突如とした形で自供調書になったということになりますね」
証人=「はい」
橋本弁護人=「六月十一日付の調書の中味についてですけれども、三人でやったという供述があり、あなたは三人でやったということはある程度では予想できたという風に言いましたが、そのほかの点の重要と思われることについて記憶していることはありませんか」
証人=「たしか共犯者の他の二名について住所氏名などは述べてないで、住んでいるところの地名程度は述べたと思います」
橋本弁護人=「どこの地名を言ったのですか」
証人=「これははっきり記憶しているのですけれども、一人は入間川の男、もう一人は入曾の男という風に述べたと思います」
橋本弁護人=「入間川の男なり入曾の男がどういう職業、年齢、地位であるかということについては述べなかったのですか」
証人=「そこまで詳しいことは供述しませんでした」
橋本弁護人=「六月十一日付の調書にはそこまで書いてなく、二人の相棒とやったという程度で、住んでいるところの地名の特定もありませんが、どうですか」
証人=「私はそういう供述を得たと記憶しています」
橋本弁護人=「本人はどういう役割を果たしたという供述でしたか」
証人=「その三人の役割については詳しく述べなかったのではないかと思います。その点は記憶がはっきりしません」(続く)