【公判調書2975丁〜】
「第五十六回公判調書(供述)」
証人=遠藤 三(かつ)・七十歳
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福地弁護人=「あなたは、川越分室といえば、どこだか分かりますね」
証人=「ええ、分かります」
福地弁護人=「そこで石川被告の取調べに関与したことがありますね」
証人=「あります」
福地弁護人=「取調べにあたった警察官の名前を思い出して下さい」
証人=「青木警部、長谷部警視、山下警部、私、このうち山下警部は、一日ぐらいで具合が悪いっていうんで来なかったと思いますが」
福地弁護人=「それは、被告人が川越に移ってからの話ですね」
証人=「今、分室の話ですから、そういうことです」
福地弁護人=「その取調べに関与した警察官は、青木、長谷部、それから、あなたということになりますね。山下さんは途中で交替したということですね」
証人=「長谷部警視、青木警部、私それから山下警部、山下警部は、一日か二日きりいなかったんじゃないかと思いますが」
福地弁護人=「実際に被告人の供述調書が何通か出来ておりますが、その中に、あなたは立会人として署名しておりますが、記憶ございますね」
証人=「あります」
福地弁護人=「調書を作った人は青木一夫という名前になってますけれども、これも間違いないでしょうね」
証人=「間違いありません」
福地弁護人=「長谷部警視は、何をやってましたか」
証人=「取調べは一応三人でやるようなものの三人一緒ということもあったけれども、二人ということもあったと、こういうことになりますな」
福地弁護人=「私が聞いてるのは、長谷部さんは調書上、名前があまり出て来ないから、長谷部さんは何をやってたのかと聞いてるんです。質問に答えて下さい」
証人=「取調室におりましたけれども、そういうところは、何というか、いわゆる階級が上で、立会いであっても別に不思議はないですが」
福地弁護人=「そういうことを聞いてるんじゃなく、何をやってたか聞いてるんだから、やっていたことについて、直接答えて下さい」
証人=「いわゆる取調べの助言です。青木警部が聞いておって、聞き落としがあるとか、あるいは、重要なことが落とされたとか、いうような点についての助言じゃなかったかと記憶してますが」
福地弁護人=「あなたは、どういう役目ですか」
証人=「同じようなことであって、且つ、石川くんの、いわゆる身辺の安全というか、監視ですね」
福地弁護人=「つまり二つの役割があるんですね」
証人=「そうですね」
福地弁護人=「石川くんの監視と、もう一つは、同じように助言者という」
証人=「さようですね」
福地弁護人=「あなたは立会人として、供述調書に署名をすることがよくあるんですか」
証人=「あります」
福地弁護人=「石川くんの取調べの時ですが、調書が何通も出来ております。この調書が出来上がる状態を具体的にあなたに説明して欲しいんですが、まず、石川くんに聞くんでしょうね。三人のうち誰かが」
証人=「主として青木警部が。主任ですから」
福地弁護人=「青木警部が聞くわけですね」
証人=「そうです」
福地弁護人=「それに石川くんが答える場合がありますね」
証人=「はい」
福地弁護人=「それは、どうなるんですか、答えた後は」
証人=「答えた後、調書になってますね」
福地弁護人=「最終的には調書になるだろうけれども、調書になる過程を聞きたいんですが、つまり石川くんが答えるわけでしょう。それについて青木さんやあなたの方から、さらに質問をするというようなこともあるわけでしょう」
証人=「ございます」
福地弁護人=「青木さんは、石川くんが答えたことを直接すぐ調書にしましたか」
証人=「直接調書の場合もあったように記憶しておりますし、また、メモを取っておいて調書にしたこともあると記憶していますが」
福地弁護人=「そのメモですけれども、これは青木さんだけですか、メモを作ったのは」
証人=「そうじゃなくて、私も書いたことございますね」
福地弁護人=「長谷部さんも作ったことあるんですか」
証人=「作ったことがあると思います」
福地弁護人=「この事件のことじゃなくて、あなたは警察官をずい分長くおやりだけど、取調べの時は、メモをよく使うんじゃないですか、調書を作る際には」
証人=「メモを作る場合もあれば、全然メモなしでやる場合もあるし」
福地弁護人=「この時のメモは、どういう紙に書いたのですか」
証人=「ざら紙か罫紙ですね」
福地弁護人=「ざら紙の場合もあるし、罫紙の場合もあると、こういうことですか」
証人=「さようでございます」
福地弁護人=「よくある小さいメモ用紙みたいな物に書いたことはありますか」
証人=「記憶ありません」
(続く)
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狭山市役所堀兼出張所を、その北東百メートル地点から撮影。所々に水たまりが見られる、そのぬかるんだ道路は昭和世代には懐かしい光景である。
こちらは上記撮影地点より西方へ二百五十メートル移動した地点から北西方向を撮影。以上は単なる、事件の記録写真であるはずであるが、この二枚目の写真などは何か陰鬱な、鉛色の雲が低くたれ込め、五月としてはそのジメジメとした湿度が不快に感じ、犯罪傾向高めな人物はいよいよその火蓋を切ろうかなどと、小説の一本でも書けそうな、そんな不穏感に満ちた写真である。