アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 869

【公判調書2717丁〜】

                   「第五十二回公判調書(供述)」

証人=青木一夫(五十六歳・川越市役所臨時嘱託)

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福地弁護人=「普通でない場合は、どういう場合をあなたは考えたですか」

証人=「たとえば何かその上にかぶっておったとか、そういうような状態であればあるいは見つからないこともあるかも知れませんが、普通の状態で置かれて、お茶の木の下ですから、何もかぶってなければ普通の状態なら分かったと私は思います」

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裁判長=「あるいはあれじゃないの、警察官の調べ方が疎漏であって、そのために見つからないという場合も考え得るんじゃないの」

証人=「そういうこともございます。私は先ほどから第三者が持っていたかも分かりませんし、あるいはその・・・・・・」

裁判長=「いろんな場合もあるんで、あなたの言ったのは、一つだけじゃなく警察官の疎漏という場合もあるかも知れない、あるいは何か特別に上に覆い被さっていて、普通に捜索した状態では見つからないという状態もあり得たかも知れない。この二つですね」

証人=「あり得たわけです。言葉が足りませんでした」

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山上弁護人=「ちょっと、今の裁判長のご発言ですがこれはどういう性格の問答でしょうか、誘導尋問でしょうか」

裁判長=「いや誘導尋問じゃありませんよ」

山上弁護人=「どういうことでしょうか、たとえば証人の口から裁判長が今発言なさったようなことは全然出てないわけですね」

裁判長=「それは当然出てくるべきことです」

山上弁護人=「当然出てくるべきことを、予め予想して発言されるのは誘導じゃないでしょうか」

裁判長=「誘導であっても構わないです」

山上弁護人=「どういうことで構わないんですか」

裁判長=「当然出てくる答であれば構いません」

山上弁護人=「当然出てくるべき答というのは、誰が判断されたんですか、あなたですか」

裁判長=「もちろん私です。裁判所が判断しました」

山上弁護人=「私は誘導尋問だと思います」

裁判長=「で、どうなさいますか」

山上弁護人=「今の裁判長のご発言は、記録から削除していただきたいと思います」

裁判長=「却下いたします」

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福地弁護人=「次に、取調室における実際の取調べの状況について若干お聞きしますが、取調べをやっていたのはあなたの他にどういう人ですか」

証人=「主として、私と長谷部警視と遠藤警部です」

福地弁護人=「取調べはだいたい朝の何時頃から何時頃まで続いておったんでしょうか」

証人=「朝は八時半か九時頃から、あるいは遅い時は十時頃になったこともありましょう。それから夕方は早い時は六時頃終わったこともありますし、場合によりますと十時、あるいは十時を若干過ぎたこともあると思います」

福地弁護人=「十二時近くまでやったこともありますか」

証人=「十二時近くまでやったことは、そうないと思いますが、あるいは時にそういうことがあったかも分かりません」

福地弁護人=「取調べをやってる時に主として発問をするのは誰ですか」

証人=「主として私がしました」

福地弁護人=「長谷部さんはどういうことをやってるんですか」

証人=「長谷部さんも遠藤さんも私の発言につきまして、今聞かれてることはこういうことだというような補助的な立場で助けてくれました」

福地弁護人=「長谷部さんが新しいことを発問することもあるでしょうね」

証人=「時にはあったと思います。それで裁判長不思議に思われるかも知れないので、ちょっと付け加えておきたいのですが、私と長谷部さんとは長い間取調べにあたったことが何回かあるんですが、この事件の時、長谷部さんが階級が上で調書を取らないのは不思議だと思うかも知れませんが、ずっと長い間に亘って私が調書を取っておりました。これはご了承いただきたいです」

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裁判長=「この前の証言でそれは述べてますね」

証人=「ああ、そうですか」

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福地弁護人=「石川被告が取調べてる時に、または取調べの合間であるか分かりませんけれども、長谷部さんが茶碗を並べて、ある種の、何と言いますか、おれはどの茶碗に触ったか当てることが出来るんだと、そういうことをやったことはありますか」

証人=「あったかも知れません、記憶はっきりしませんが」

福地弁護人=「あったかも知れないというのは、あったかも無かったかも知れないということですか」

証人=「休憩時間、調べに入る前とか多少冗談を言ったこともありますので、あるいはそういうことがあるかも知れないと私は思うんです」

福地弁護人=「あなたの想像を聞いているんじゃなく、そういうことがあったか無かったかを聞いているんです」

証人=「茶碗を並べて、どういうことですか」

福地弁護人=「茶碗を並べて石川被告に対して、おれが外へ出てる間にどれか触って見ろと言ったようなことはないですか」

証人=「茶碗を並べて、触って見ろですか」

福地弁護人=「外へ出てる間に茶碗のどれかに触って見ろ、おれが当てて見せるぞというようなことを長谷部さんがやったことがありますか、ありませんか」

証人=「ちょっと記憶がありませんが」

福地弁護人=「茶碗を並べて、おれが外へ出てる間にお前、どれかに触って見ろと、お前がどれに触ったかおれは分かるんだぞということを長谷部さんがやったんじゃありませんか」

証人=「ちょっと今記憶ありません」

福地弁護人=「長谷部さんがそれをやったことがあると、この間言ったんですがね」

証人=「ですから常にそういうことをする場所に三人なら三人が居たとは言えないんです。たとえば今言ったように、休憩時間とか席を外す場合もありますし、私が調べてる間にはそういうことは出来ないわけですから、調書を取ったりする時にはそういうことはないと思います。だから、あるいは長谷部さんがそういうことがあったかも知れませんけれども、私の記憶にないです」

福地弁護人=「長谷部さんが紙を取り出してそれに鋏を入れて、その紙をひっくり返したりして、これをこうやれば中という字になる、これをこうやれば田という字になると、つまり紙に鋏を入れてそれをひっくり返して、字に似せて石川被告に説明をしたようなことはありませんでしたか」

証人=「何か紙を切ったりして、やったことはありますね」

福地弁護人=「鋏でね」

証人=「鋏でしたか手でしたか、それは分かりませんです。そういう道具の記憶ありません」

福地弁護人=「それをあなたは見たことがあるんですね」

証人=「いや、何かそういうような仕草をしていたことは記憶があります」

(続く)

(写真は"差別が奪った青春"部落解放研究所・企画・編集=解放出版社より引用)