【公判調書2424丁〜】
「第四十七回公判調書(供述)」
証人=斉藤留五郎
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(石川被告が検事に茶碗を投げつけたという証言を聞き)
福地弁護人=「その時は河本検事はどうしてましたか、あなたが入った時には」
証人=「席についておりました」
福地弁護人=「事務官はどうしましたか」
証人=「事務官は立っていたと覚えてます」
福地弁護人=「河本検事が被告人を調べているときの姿勢ですけれどもね、椅子に座っておったんでしょうか、畳に座っておったんでしょうか」
証人=「椅子です」
福地弁護人=「河本検事が取調べの机の上に腰を下ろして片足をあげておったという、そういう姿勢を見たことありませんか」
証人=「ありません」
福地弁護人=「先ほどの茶碗の件なんですがね、あなたが入っていったならば、お湯がこぼれて、茶碗が机の上にころんでいたわけですね」
証人=「はい」
福地弁護人=「検事に何か言われましたか」
証人=「何と言われたか、ちょっと今、覚えがございません」
福地弁護人=「あなた入ってすぐ出てきたんですか」
証人=「すぐ拭いたんです」
福地弁護人=「茶碗を投げつけたということをさっきあなたは聞いたように言いましたがね」
証人=「だから、それは見ていませんと言ってあります」
福地弁護人=「見ていないけれども、それを誰かに聞いたんですか、それともその場の状況からそういう判断をしたんですか」
証人=「事務官に聞いたと思います」
福地弁護人=「事務官がそう言った」
証人=「投げつけたんでなくて、そういう意思であったかどうか知りませんけれども、検察官が調べている机の一つこっちに事務官の机があって、そのこっちに被疑者が座っていたわけです。ですから、検察官の机までは茶碗がいってなかったように今、覚えてます」
福地弁護人=「なぜ、石川君は茶碗を投げようとしたのか、あなたはご存じですか」
証人=「分かりません」
福地弁護人=「そのことについて、人から聞いたようなことはないですか」
証人=「聞いたような覚えもありますが、その内容は覚えておりません」
福地弁護人=「それもおかしい話だと思うんですがね。あなたはそういう戒護の任務を負わせられているんだから、どうしてそういうことになったかという原因追及ぐらいはしても当然じゃないかという気がするんだが、そういうことがあったというだけでもう済ましているんですか」
証人=「それは検察官のほうから上司に話はしてあると思います」
福地弁護人=「その上司に対する報告をあなたが聞いたようなことはないんですか。上司から今後気をつけろとか言われたことないんですか」
証人=「今、覚えておりません」
福地弁護人=「先ほどあなたは御飯を食べなかったのは一食か二食だと言いましたね」
証人=「はい」
福地弁護人=「その記憶に間違いありませんか」
証人=「記憶ですから、間違いがあるかどうかということは申し上げかねますけれども、今、現在、私の頭に浮かぶのはそれしかございません」
福地弁護人=「一食食べないということはざらにあるんじゃないでしょうかね。川越署に連れて来られてすぐですか、一食食べなかったことは」
証人=「そのように覚えております」
福地弁護人=「狭山警察署時代に長谷部さんが、長谷部さん知ってますね」
証人=「はい」
福地弁護人=「長谷部さんが取調べの机の上に茶碗を並べて、奇術みたいなことをしたのをあなた見たことありませんか」
証人=「見た覚えはございません」
福地弁護人=「最後に一つだけ聞きますけれども、先ほど、あなたは調書の謄本を作ったり、図面の謄本を作ったり、そういった仕事を手伝ったことがあると言いましたね」
証人=「はい」
福地弁護人=「川越署に来てからもそういう仕事を手伝ったことがありますか」
証人=「はい、あります」
福地弁護人=「その調書ですけれども、参考人の調書、被害者の調書、被告人の調書、いろいろあると思いますけれどもね、あなたが手伝った調書はどういう調書ですか。特に、どういう調書だという風な区別はないですか。それともあるんですか」
証人=「別にございません」
福地弁護人=「何通ぐらいそういう作業にタッチしたか」
証人=「その数は覚えておりません」
福地弁護人=「そういう作業をする時には誰かその責任者と言いますかね、担当の上司か何かの指導でやるんでしょうか、それとも、あなた一人の判断でやるんでしょうか」
証人=「やる時には忙しいですから、三、四人でやっておると思いました」
福地弁護人=「一緒にそういう作業をやった人の名前は今、言えますか」
証人=「当時の清水部長さん、それから、当時の伊藤警部補、ちょっと名前は浮かばないんですが、あと二人か三人いると思います」
福地弁護人=「それは川越署の部屋の中でやっておるんでしょうね」
証人=「はい」
(以上 佐藤房未)
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証人=斉藤留五郎への尋問はまだ続くのだが、この調書の末尾に速記官の名前が記入されていることから、一旦ここで昼休憩に入り、これ以降は午後からの尋問とみられる(と思う)。ところで今回で七回目となろうか、ここへ載せてきた斉藤留五郎への尋問は、この七回分が僅か午前中に交わされた尋問だということに驚かされる。
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追記。狭山事件の情報に飢えていた私は、1976年に作られた映画が無料で上映されるとの告知を確認し、9月9日、埼玉県加須市へ赴いた。
「造花の判決」上映のチラシ。
同じくチラシから。
・・・「造花の判決」上映後、私は意を決して、当日狭山裁判に関する現状報告を行なった部落解放同盟書記長に対し、「狭山の黒い雨」という映画の上映予定を伺った。が、「狭山の黒い雨」と述べた瞬間、すかさず書記長は 「DVDで出てるかも」とだけ答えられた。何だ、自分で買って見ろということか・・・。