アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 778

(「毎日新聞」1963年5月24・25日朝刊より)

【公判調書2421丁〜】

                  「第四十七回公判調書(供述)」

証人=斉藤留五郎

                                            *

福地弁護人=「関さんが、まあ、最初は誰かと組んでやっていたけれども、後になって、関さん一人で、石川君と二人きりになって取調べが行なわれたというようなことは記憶にないですか」

証人=「時間が大体午前中なら分かるんですけれども、午後になると、いろいろ私も席を変わってますから、確たる記憶はないんですが」

福地弁護人=「その関さんが来て一緒に食事をしたその日のことを聞いているんですがね、その日は関さんは何時頃まで取調べをやってましたか」

証人=「全時間、関さんが入っていたというわけではないんですが、八時頃までやったんではないかと思いますが」

福地弁護人=「あなたは最後まで付き合っていたんですか。付き合うというか、その取調べが終わるまで、あなたも帰らなくて残っていたわけですか、その日は」

証人=「ずっと泊り込みです」

福地弁護人=「川越署は泊り込みですか」

証人=「はい」

福地弁護人=「関さんの取調べが終わったのは、夜かなり遅くなってからですか」

証人=「それは八時頃じゃないかと思いますが、その日は関さんも泊まったんです」

福地弁護人=「関さんが石川君を調べたのはその日が最初ですね、そうなると。川越署ではね」

証人=「はい」

福地弁護人=「そのほかにも関さんは被告人を調べたことはありますか」 

証人=「いく日か泊まっていたからあると思います」

福地弁護人=「あると思うだけで、実際に取調べたかどうか、あなたには分からないわけですか」

証人=「なぜかと言うに、あそこに六名か七名泊まっておったんで、私ばかりが石川君を出して来ていたんではないんです。私が専属で出して来るなら分かるんですが、場所も近いし、皆さん泊まってんで、朝とか夕方も、掃除時期、飯時期になってくると、私は大体そっちの方に使われてしまうんです」

福地弁護人=「関さんがね、石川君が飯を食わないと言うんで、カレーライスをわざわざ持ってきたということはあなた知りませんか」

証人=「分かりません」

福地弁護人=「鞄が発見された時のことをあなた覚えてますか」

証人=「分かりません」

福地弁護人=「鞄が発見された日のことは記憶にありませんか」

証人=「知りません」

福地弁護人=「鞄がどこから発見されたかということは記憶にありますか」

証人=「いや、その鞄のことなんですが、あそこに居ながらにして私は知らなくて、翌日、山から出たという話は聞いたんです」

福地弁護人=「翌日、誰から聞いたんですか」

証人=「中に居た者と覚えてますが、誰か忘れました」

福地弁護人=「鞄が出て、鞄と一緒に何か出たというそういう話を聞いたことありますか、その時に。鞄のことだけですか」

証人=「いや、鞄や何かが出たというんでもって、鞄ばかりでないことは分かりますけれども、鞄と何が見つかったのであるか、私には分かりませんでした」

福地弁護人=「あそこに居ながらに分からなかったとあなたは仰ったけれども、鞄が発見されたことは、あなた一人が知らなかったんでしょうか。確かにおかしいと思うんですがね、あなたはまさに取調べに直接関与している。直接というか、かなり密接な関係で関与していたんですがね」

証人=「皆さんにそう言われるんですが、夕方なんか風呂場のほうの仕事をやったり、洗濯なんかもやっていると、私ども最下部の者にはそういう何は分からないことが多いんです」

福地弁護人=「河本検事が被告人を取調べたことがありますね」

証人=「はい」

福地弁護人=「川越署時代に河本検事は何回ぐらい石川君を取調べておりますか」

証人=「何回だか、しかと私は分かりませんが、三回や四回あるんじゃないかと思います」

福地弁護人=「河本検事が石川君を取調べるのに立ち会ったことはありますか」

証人=「検事さんの調べには事務官の方が入っていて、私等は入っていません」

福地弁護人=「河本検事が取調べているところを見たことはありますか」

証人=「別にございません」

福地弁護人=「おかしいですね、三、四回調べているんでしょう」

証人=「はい」

福地弁護人=「全然見ないということがあるんですか」

証人=「その見たという意味はどの程度見たということですか」

福地弁護人=「どの程度でも、要するに見たかどうかということです」

証人=「要するに部屋まで被疑者を連れて行って、帰ってくるんであって、内容は私等には分からないということです」

福地弁護人=「あなたは単に部屋に連れて行くだけでなくて、逃亡防止したりね、被告人が乱暴なことでもしたような場合には、それを制止するような、そういう役目もあったわけでしょう」

証人=「はい、ございます」

福地弁護人=「部屋の中に送り込めばあとはもう用は済んで知らん顔をしているというわけにはいかないんじゃないですか」

証人=「はい」

福地弁護人=「時には、様子を覗きに行くわけでしょう。時には、何かの用事を仰せつかることもあるでしょうしね」

証人=「それは一回こういうことがございました。狭山で調べていて、私は石川が検事さんに茶碗を投げつけたということがあったんです。で、その投げつけたのは私は見ておりませんで、その音がして、事務官のおいという声でもって中に入ってみたところが、お湯が少し散らばって茶碗が机の上にころがっていたということはございます。その時は確かに入りました」

(続く)

                                             *

弁護人の尋問内容に、石川被告が飯を食わないので関源三巡査部長がわざわざカレーライスを持ってきたことを証人は知っているか、という趣旨の問いがある。発言の全てが記録されるこの厳粛な場で、弁護人が思い付きや行き当たりばったりの質問をするとは考えられず、カレーライスの件も何かしらの根拠に基づき問うたと思われる。して見れば、弁護側は公判調書に記録されている事柄以上に、狭山事件に関する事実、率直に言えば真犯人に肉薄した情報を得ていたのではないか、などと老生は考えるのだが、この辺りは公判調書の行間を読み解いてゆかねば分かるまい。