アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 776

石川被告が中田家に脅迫状を届けに行く途中、その所在地を尋ねるため立ち寄ったとされる内田幸吉宅。写真は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用。

同じく内田幸吉方住居。写真は狭山事件公判資料より引用。

【公判調書2417丁〜】

                   「第四十七回公判調書(供述)」

証人=斉藤留五郎

                                            *

福地弁護人=「証人は内田幸吉という人を覚えてますか」

証人=「わかりません」

福地弁護人=「内田幸吉という人は、あなたの記憶を喚起するために言いますけれども、被告人が脅迫状を被害者の家へ届けに行く途中、家が分からなくて、被害者の家はどこかと聞きに立ち寄ったとされている人なんですがね、思い出しませんか」

証人=「私は全然知りません、そのことは」

福地弁護人=「そういった事実も知りませんか。被告人が中田善枝さんの家が分からなくて、近所の家に立ち寄って尋ねたという風にされておるんですけれども、そういうことを全然知らないんですか」

証人=「そういう話はあったかも知れませんが、そこの家が内田だとか、家がどこだとかいうことは私は全然知りません」

福地弁護人=「そういうことがあったかも知れないという程度の記憶しかないんですか」

証人=「はい」

福地弁護人=「先ほど、弁護人が接見に来る時に石川君を弁護人の接見の場所へ連れて行ったことはないと言いましたね」

証人=「はい」

福地弁護人=「狭山署にいた頃に弁護士と称する人が石川君に会いに来たことがあるんじゃないですか」

証人=「いや、弁護士というのを知ったのは川越で、立会いを一回した以外に私は知っておりません。会っておりません」

福地弁護人=「弁護士と会ったことはないんですか」

証人=「はい」

福地弁護人=「狭山署時代は」

証人=「はい」

福地弁護人=「警察関係以外の人でね、石川君に狭山署時代に会いに来た人がおりましたでしょう。警察、検察庁関係でない人、つまり、第三者ですね。狭山署に石川君に会いに来た人がいましたでしょう」

証人=「それは参考人か何かでですか、じゃなくて面会ですか」

福地弁護人=「面会にね」

証人=「私にはそういうことはありませんでした」

福地弁護人=「一切、そういう人はいないですか、あなたの記憶では」

証人=「私にはありません」

福地弁護人=「参考人が石川君に会いに来たことがあるんですか」

証人=「いや、あの中へ、調べ室の方へ来るのは、参考人かどうか知りませんけれども、外部の人が入ったということは私は知りません」

福地弁護人=「捜査本部に勤めている人、捜査本部員となっておる人で、狭山署に出入りしていた人は大体当時わかっておりましたか。たとえば、警察関係の人と警察関係でない人との区別はつきましたか」

証人=「調べ室のほうは、まあ、私の知っている限りは何名かは知ってます」

福地弁護人=「それ以外の人が来たら、大体どういう人だろうということになるわけですね」

証人=「外部の方と私が折衝したとか、話をしたとか、調べということは私したことございません』

福地弁護人=「狭山市長が石川君に会いに来たような事実はありませんか」

証人=「知りません」

福地弁護人=「石川君に面通しさせるために、面通しというのは分かるでしょう」

証人=「はい、分かります」

福地弁護人=「面通しさせるためにはどの部屋に行けばいいんですか、狭山署でね」

証人=「ちょっと思い出せません」

福地弁護人=「いつも調べている取調室では面通しは出来ないでしょう。石川君に何者か分からないような形で面通しをさせることは出来ないんでしょう」

証人=「どの部屋でやったか私にはちょっと思い出せません」

(続く)

                                             *

弁護人の尋問に内田幸吉という名が確認できるが、この方は狭山事件公判第一審で、事件の日、自宅へ中田家の場所を尋ねて来た男はこの人だと、石川被告を前に証言した人物である。その後、再び行なわれた証人尋問では明らかにおよび腰の、弱々しい証言に後退してゆくのだが、それは何故だろうか。

この、被告が内田幸吉宅へ尋ねたとされる場面に絞って言えば、犯人は強姦殺人を遂行後、身代金目当てに脅迫状を被害者宅へ届けたいのだが、その場所が分からず内田幸吉方に中田家の所在地を尋ねたと、こういう警察による筋書きである。しかし殺人犯がこれから脅迫状を届けに行くという状況で、その被害者の自転車を押しつつ、被害者宅の近所に立ち寄るであろうか。犯罪者であれば最も避けなければならない、素顔をさらすという行為を伴いながら。