【公判調書2168丁〜】
「第四十三回公判調書(供述)」
証人=斉藤留五郎(五十歳・警察官)
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福地弁護人=「あなたが担当した聞込みで上司に報告するような事実がありましたか」
証人=「毎日報告書は出していましたが、現在特に覚えていることはありません」
福地弁護人=「あなたが聞込みに行った場所は善枝さんの家のある部落の善枝さんの家より東の方と言ったが、大体そこに限られるのですか、それとも外の場所にも行ったのですか」
証人=「あの部落の東の方まで行った覚えがあります」
福地弁護人=「石川君の家がどこにあるか知っていますか」
証人=「はい」
福地弁護人=「石川君の自宅の付近に聞込みに行ったことはありますか」
証人=「一回あります」
福地弁護人=「それはいつ頃ですか」
証人=「東の方の部落を大体回りきった頃と覚えています」
福地弁護人=「石川君の家のある部落を調べたわけですね」
証人=「あの部落というのではなくて、駅の方から歩いて来たときにあそこの部落に入ったと覚えています」
福地弁護人=「何軒ぐらい回ったのですか」
証人=「新しい家を二十軒ぐらいだと思います」
福地弁護人=「そのときの聞込みで収穫はありましたか」
証人=「今、特に覚えていることはありません」
福地弁護人=「石川君が逮捕される前にあなたの聞込みは終わったのですか」
証人=「終わったとは言い切れません」
福地弁護人=「どういう仕事をしたのですか」
証人=「自動車の運転手をしたように覚えています」
福地弁護人=「どういう自動車ですか」
証人=「大宮から特捜本部に捜査用として護送車を持って来ていたのです」
福地弁護人=「その護送車には誰を乗せるのですか」
証人=「警察官が交替で休む場合に送って行ったりしました」
福地弁護人=「そういう任務を石川君が逮捕されるまでの間、何日かやったわけですね」
証人=「はい」
福地弁護人=「その後、石川君が逮捕されてから聞込みに従事したことはありませんか」
証人=「ありません」
福地弁護人=「石川君が逮捕されてからのあなたの任務について尋ねるが、まず石川君が逮捕された時は何をしていましたか」
証人=「本部にいました」
福地弁護人=「その時は自動車の運転をしていたのですか、それとも本部に滞在していたのですか」
証人=「自動車の運転手というのはちょいちょい出る場合もあります。狭山警察署に行ったり本部に行ったりいろいろ行き来するし、一定していません」
福地弁護人=「石川君が逮捕されてから、新たな任務があなたに与えられましたか」
証人=「取調班の小使というか、そんな仕事でした」
福地弁護人=「それは石川君が逮捕されて直ぐですか」
証人=「はい」
福地弁護人=「逮捕されたのが何日か覚えていますか」
証人=「それは確と覚えていません」
福地弁護人=「逮捕された日にそういう任務につくように言われたのですか、それとも事前に言われたのですか」
証人=「その日と覚えています」
福地弁護人=「誰に言われたのですか」
証人=「本部の庶務の人と覚えています」
福地弁護人=「取調班の手伝いをしたという風に言ったが、その取調班は誰と誰でしたか」
証人=「重立った人は、最初清水警部、山下警部、今は辞めましたが、当時警視で何といったか・・・」
福地弁護人=「長谷部警視ではありませんか」
証人=「そうです」
福地弁護人=「それだけですか」
証人=「そのほか大勢いましたが、あとは名は忘れました」
福地弁護人=「山下警部はめがねをかけていましたか」
証人=「はい」
福地弁護人=「背の高い人ですね」
証人=「はい」
福地弁護人=「清水警部はどこの警察の人ですか」
証人=「そのときは県警本部捜査課だったと思います。
福地弁護人=「その人はどこに住んでいたか記憶ありますか」
証人=「記憶ありません」
福地弁護人=「清水警部はもと大宮警察署にいたのではありませんか」
証人=「そうです」
福地弁護人=「山下警部も大宮警察署でしたか」
証人=「それは私は知りません。私が大宮警察署にいたときは山下警部は大宮にはいませんでした」
福地弁護人=「どこにいたのですか」
証人=「県警本部捜査一課にいたと思います」
福地弁護人=「県警本部の前に、どこにいたかはわかりませんか」
証人=「はい」
福地弁護人=「取調班の重立った人は、長谷部、山下、清水の三人でしたか」
証人=「そう覚えています」
福地弁護人=「あなたは取調班の手伝いのようなことをしていたということだが、具体的にはどういうことをしていたのですか」
証人=「不足用紙を持って行くとか、皆さんが席を立たなくても用が足せるようなことをしていました」
福地弁護人=「お茶くみはしましたか」
証人=「しました」
福地弁護人=「取調べが始まるとき被疑者を留置場から取調室に連れて行く役目などもあなたがやっていたのですか」
証人=「初めはやりました。留置場の戸を開けると直ぐ取調室なので、私がちょっと離れているとほかの人が用を足してくれました」
福地弁護人=「ほかの人というのは今言った取調班の三人の誰かですか」
証人=「庶務的な仕事をしていた人もいたから、そういう人もしてくれました」
福地弁護人=「取調べが終わって留置場に戻す仕事もあなたはやったことがありますか」
証人=「はい、やりました」
福地弁護人=「狭山警察署で石川君を取調べる取調室はどこでしたか」
証人=「留置場から出て直ぐ左側の部屋だったと覚えています。(福地弁護人は証人に当時の狭山警察署の留置場、取調室及びその付近の図面を書かせ、その図面を示しながら尋問することにつき裁判長の許可を受け、証人は部屋の大きさなどはわからないが大体書ける旨を述べ、その図面を書いた。同図面はこの調書の末尾に添付することとした。)なお、ちょっと申し上げておきますが、私は前に病気をして現在も身体が少し具合が悪いのです」
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裁判長=「いつ、どういう病気をしたのですか」
証人=「昭和四十一年六月五日からです。高血圧で倒れ、全然意識不明が三十六日間、その後二か月入院しました。現在も右半身が不自由です」
裁判長=「今、勤務はしているのですか」
証人=「はい」
裁判長=「内勤ですか」
証人=「はい」
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福地弁護人=「(右図面を示す)その図面の下の方が狭山警察署の玄関に近い方になりますか」
証人=「はい」
福地弁護人=「玄関を入って行くと廊下の右側手前に捜査課室があるのですか」
証人=「はい」
福地弁護人=「そこは刑事が詰めている部屋ですか」
証人=「この警察はそれほど大きくありませんから、この部屋に課長以下が居たのではないかと思います。よく分かりませんが、庶務も居ました」
福地弁護人=「その奥に調室が二つあるわけですね」
証人=「そう覚えています」
福地弁護人=「調室はその二つだったのですか」
証人=「あとは分かりません」
福地弁護人=「廊下の突当りに留置場があるわけですね」
証人=「はい」
福地弁護人=「主として石川君を調べていた部屋はその二つの調室のどちらですか」
証人=「最初は留置場に近い方の部屋だったと覚えています」
福地弁護人=「留置場に看守の人がいますね」
証人=「はい」
福地弁護人=「その人たちの詰所というか、看守室はどこにあるのですか」
証人=「覚えていません」
福地弁護人=「その図面の廊下の左側は何ですか」
証人=「外です」
福地弁護人=「最初は奥の調室で取調べをしていたということだが、その部屋に机はありましたか」
証人=「ありました」
福地弁護人=「幾つ置いてありましたか」
証人=「三つぐらいです」
福地弁護人=「椅子も幾つか置いてあったわけですね」
証人=「はい」
福地弁護人=「そこに長谷部、山下、清水、あなたの四人が入って取調べをしたわけですか」
証人=「そうとは限りません。調べの人は二人の時も一人の時もありました」
福地弁護人=「三人の時もありましたか」
証人=「はい」
福地弁護人=「あなたも調室に入ることがありましたか」
証人=「はい」
福地弁護人=「あなたが腰掛ける椅子もありましたか」
証人=「机は調室を入ると左側の手前を奥の二か所にあり(証人は右の図面に机のあった場所を記入した)、私が腰掛けたのは入口の方にあった机です」
福地弁護人=「あなたの居た机のほかに机は二つあったのですか」
証人=「その二つはどういう風に置いてあったかは忘れましたが、奥の方に二つぐらいあったような気がします」
福地弁護人=「調べをした机はどの机ですか」
証人=「奥の机です。その机のすぐ奥は窓です」
(続く)