アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 853

【公判調書2673丁〜】

                      「第五十一回公判調書(供述)」

証人=長谷部梅吉

                                           *

裁判長=「それは従来随分出て来ているんですが」

佐々木哲蔵弁護人=「この証人がどういう点を証人のご見解として"へま"な捜査という風に言っておられるのかということを、一般にお聞きしてから午前中のことにも入りたいと思うんです。

それでは、先ほどあなた被害者の首にロープが巻いてあったと」

証人=「ええ」

佐々木哲蔵弁護人=「あなた、埋(うず)められてる死体を掘り出したところに被害者の首にロープが巻いてあったという点でございますが、あなたはその穴から被害者の死体が引上げられた直後見たわけですね、被害者の死体を」

証人=「見ました」

佐々木哲蔵弁護人=「その時には首にロープが巻いてあったと見られたんですか、見ないんですか」

証人=「ええ、私見ました」

佐々木哲蔵弁護人=「ロープが巻いてあるとご覧になった」

証人=「ええ」

佐々木哲蔵弁護人=「そのロープはどういう目的でどういう方法で、いつ巻いたかというようなお尋ねは先ほどなさらなかったと仰いましたねぇ、それは捜査のミスですか」

証人=「これなどもその内に入れていいと思います」

佐々木哲蔵弁護人=「そのほかにあなたとして、この事件の捜査についてミスと思われる点はどういう点ですか、変な捜査ということは」

証人=「それは先ほど申し上げたように、現場で犯人を取り押さえているなれば」

佐々木哲蔵弁護人=「捕まえる時のことですね、捕まえ方が"へま"だったと」

証人=「ええ、今のように公判が長くなることなしに、現行犯で押さえられなかったからこういうことになってしまったと思っています」

佐々木哲蔵弁護人=「もう一つ、山上弁護人の質問でございましたが、この穴というのは例えば縦一メートル六十、横八十、深さ八十センチの穴ですね、これを掘るのにどれくらい時間がかかるかというようなことを、あと、掘った土を埋める時に余った土をどうするかということについては大事だと思うんですけれども、そういう点については格別に科学的な捜査はなさってなかったんですか」

証人=「まあ進展があれば追求しますけれども私の経験から申し上げますと、私は草花とか盆栽をやってますが、腐葉土、この木の葉の腐ったのが混ざった土というのは、三十センチの高さに積んだとしても半年くらい経つと、その後踏みつけるとぐっと低くなるんです。ですからあそこの場合は農道とは言え、前には、片方が山林であったと、これは私は聞いたんですけれども、片方は畑であったと。ところが戦争中ですね、農作物の増産、増産というので山の木を切ってしまった。木があると木の根が畑に入るのでそこを境界として掘って深く溝をさらった。そして木の根を畑に入らんようにした。しかしその後この溝は無駄になるからというので山の土と畑の土を入れて溝を埋めて農道になったと。たまたまであるか、そこを掘ったんですね、だから上の土は農道の土で固くなっているが、上をちょっと掘ると下は腐葉土なんですね」

佐々木哲蔵弁護人=「そういうあなたのご経験であったと、それで何分くらいで埋められると思いましたか」

証人=「ですから被疑者が誰と確定するならば推定出来ますが、被疑者が誰か分からん時には年寄りとか、婦人であるとか、年令の血気盛んな者かによって、またこの書記官のようにスコップを握ったことのないような人は穴を私共が一時間で掘るものを三時間経っても出来ない、また、使った道具も立派な道具を使えばいいが、これまた場合によっては三倍も時間がかかるとの推理です」

佐々木哲蔵弁護人=「ですから石川被告の場合についてその点はどういう風にご計算になったんですか」

証人=「私はですから自然だと穴を掘ったとすれば石川君は土方もしたし、重量物を運搬することも駐留軍などに行って残飯など人の担げない物まで担ぐ力があると」

佐々木哲蔵弁護人=「ですから、何分くらいでやったという計算まではなさらなかった」

証人=「特に石川君がこういう風にしてやったというから、それは自然だと思って」

佐々木哲蔵弁護人=「別に時間的な測定はなさらなかった」

証人=「ええ、そうです」

                                            *

福地弁護人=「先ほど話に出ました清水輝雄という警察官は記憶ございますか」

証人=「はい」

福地弁護人=「これは何をやっていた人ですか」

証人=「これは刑事をやっておりました」

福地弁護人=「本件捜査の中で何をやっていたかを」

証人=「取調べには直接には関係していません」

福地弁護人=「そうすると川越分室に来ておったんですか」

証人=「来ておりました」

福地弁護人=「何をやっていましたか」

証人=「庶務の方をやっておったと思いますね。検挙になる前はですね。その後自供前は一般捜査をしてるんじゃないかと思いますが」

福地弁護人=「それから、取調官の青木さん、この人が取調べを始めたのは川越に移ってからですね」

証人=「はっきり記憶ないんです」

福地弁護人=「あなたと一緒に取調べをやったんですね」

証人=「はい、やりました」

福地弁護人=「川越に移ってからでしょう」

証人=「記憶ないんです、それが」

福地弁護人=「じゃあなたは青木さんと一緒に取調べをやったのはいつ頃からですか」

証人=「それが途中で代わったものですから、これがはっきりよく分からんのですね」

福地弁護人=「狭山で一緒にやったことあるんですか」

証人=「狭山でやったかどうかも記憶ないんです。やったことは間違いないんですけれども時期は・・・」

福地弁護人=「川越時代で青木さんとあなたと遠藤三という三人の方がチームを作って取調べをやったことありましたね」

証人=「そういうこともありました。遠藤警部補ですね」

福地弁護人=「はい。青木さんが途中でほかの人と交代したというようなことはありましたか」

証人=「交代というのはどうでしょうねぇ・・・・・まあ、調子が悪ければ誰かと交代するということはあり得ますけれども」

福地弁護人=「あなたの記憶では」

証人=「なかったんじゃないかと思いますがね」

福地弁護人=「あなたの記憶ではずっとこの取調べに当たっていたと思う」

証人=「午前中とか、午後休むということはあったかも知れませんが」

福地弁護人=「丸々休むというようなことは」

証人=「二日も三日も続けて休むというようなことはなかったんじゃないかと思いますが」

福地弁護人=「丸一日休んだような記憶はありますか」

証人=「そういう記憶はないです」

福地弁護人=「先ほど最初に三人共犯説を自白した日のことですが、関さんが取調室にやって来たのは何時頃ですか」

証人=「夕方ですね」

福地弁護人=「夕食前ですか」

証人=「それはもう八年も前のことになりますから・・・一度だけというのならば記憶あるんですが度々」

福地弁護人=「三人共犯説を自白した日のことを」

証人=「その日は一度でありますけれども関さんが来たのは一度だけというのならば分かるんですが、調べ室に顔を出すのは一度だけじゃなかったと。だからはっきり記憶ないということを申し上げるわけなんです。それは調べ官じゃない者が調べ室になぜ来たかを申し上げれば納得がいくと思いますが、石川君のほうで着替えを、下着が汚れたからと、あの辺で関部長が近いからと頼んで帰りに持って来てもらったと、それで顔を出すので錯覚があると、私の方に、ですね」

福地弁護人=「しかし、ゆっくり一つ考えてみて下さい。その関さんが来た時に三人の共犯説の自白をしたことがあるんですね」

証人=「はい」

福地弁護人=「その日に三人共犯説の自白をしたのは夕食の後だとあなたは言いましたね」

証人=「はい」

福地弁護人=「関さんはその日、夕食前に来たんでしょうか」

証人=「はっきりしないんですが、夕食前に来ておったんじゃないかと思いますがね」

福地弁護人=「そこであなたと関さんと石川君と三人が一緒になっているわけですね、夕食が中に入って、夕食後、三人共犯の自白があったと、こういうことになるんですね」

証人=「はい」

福地弁護人=「先ほどあなたこの日に捜査会議みたいなものがあったと仰いましたね」

証人=「自供後ですね。捜査会議じゃなくて、私が、初めの自供ですから、私の方でこれをすぐ上司に報告する義務があるから席を立ってしまった、その時に関さんがおりましてそれで誰かを入れたと」

福地弁護人=「それはさっき聞きましたが、調べ室をあなたは出て上司の誰に相談をしたんですか」

証人=「相談じゃなくて報告です」

福地弁護人=「報告した相手は誰ですか」

証人=「私は刑事部長ではなかったかと思いますが」

福地弁護人=「中さん」

証人=「はい」

福地弁護人=「この日の調書が出来上がってますが、この調書をその夜見ましたか」

証人=「私は見たと思うんですね。私が作成したんじゃないけれども見たと思います」

福地弁護人=「先ほど奥富玄二という自殺した人の家族を取調べたか、事情聴取だか分かりませんけれども家族に会ったそのことを上司に報告したと言いましたね」

証人=「はい」

福地弁護人=「会った家族というのは誰ですか」

証人=「玄二さんの兄さんの妻ですね。名前は今ちょっと・・・・・・」

福地弁護人=「どういう話だったか簡単に、今、記憶あれば」

証人=「記憶はあります。家庭内の事情と、自殺する原因ですね。私のほうでそれを聞いたところ、隣の人が待って待ってと言ったしお袋さんが追いかけたけれども間に合わなかったと」

福地弁護人=「もっと順序よく話して下さい」

証人=「自殺とするならば、近いうちに結婚することになって、新居が出来たという人が何故自殺するんだろうと、その自殺の原因を調べろというので私は特に命令されたものだから行ったところ、報道陣が一杯ですから自動車の中にその兄の嫁さんを呼んで、いろいろ聞いたわけです。ところが、これにはいろいろこういうわけがあると、いって自殺の原因を話してくれたんですがね、それでそういう事情にあっては結婚式の前であり、あるいは新居を作った者でもそういうことになるのは当然だと思って私は自殺というのは不自然じゃないと思ったわけです」

福地弁護人=「そのことは誰に報告をしました」

証人=「これはやはり刑事部長に報告したと思います」

(写真は、自殺した奥富玄二氏を報じる当時の新聞)

                                            *

山梨検事=「それでは、その関部長を交えて三人説の自供をしたという時ですね、まあ関さんというのは先ほどあなたの証言のように同じ村に住んでいて、野球のコーチをしていたというまでに親しい人だが、自供しそうになって、石川が親しいという関部長と二人だけにしておいたほうがいいんじゃないかと気を利かした、それで席を外したということはないんですか」

証人=「私はないと思いますが、ただその間に私が小使室にお湯でも汲みに行ったとか、あるいはトイレに行ったとかいう場合は席を外して関部長と二人になる場合はありますが、この場合はたいがい誰かを私の代わりに呼んでその部屋には入れないけれども廊下の入口のところに見張りをさせたか、あるいは中にその人を入れて三人にしたかという記憶ははっきりしないんです」

山梨検事=「その当時上司に報告したと言いましたね」

証人=「はい」

山梨検事=「その状況は報告書には作成しましたか」

証人=「私は報告書は、その時は口頭報告をしまして供述調書が出来ましたから、私は改めて書類を作成しないと思いますが」

山梨検事=「ところがあなたの報告書があるんですが」

証人=「ありましたか、そうすると私は作成したんですねぇ、私は口頭だけだったと思っていたんですが」

山梨検事=「それによりますとあなたは気を利かして関部長と二人だけの方が自供しやすいと思ったんで、自分は逃走されぬように警戒に当たっていたということになっておるんだが」

証人=「逃走されないようにということは特に注意しておったんだけれども、私は、私の調べ中ですから関君が石川君の言うには野球のコーチをしてくれたり、近所に住んでいたので顔なじみだから関君の方が私共よりやりいいだろうと・・・・・・」

山梨検事=「一番初めに、要するに被告人が三人説であろうと関係があるということを言い出した時には、あなたがその場に居たのか居なかったのかということです」

証人=「私は居たと思うんですね」

山梨検事=「この報告書によるといないことになっているんだが」

証人=「いないことになってますか、それじゃ途中で聞いたんでしょうか。私は居たような記憶があるんですが、その点はどうもはっきり記憶ありません。関部長に聞いて自供を始めたというので私がとび込んで行って一緒に聞いたのか」

山梨検事=「逆じゃないの」

証人=「私は席を外したのはトイレに行った時とお湯を汲みに行った時以外には外さないと思いますね」

山梨検事=「その時青木警部はどうしておった」

証人=「青木警部はいなかったことは間違いないと思います」

山梨検事=「関とあなたと二人であったことはあった」

証人=「二人だったように私は今でもそう考えております。自供する寸前か、自供を始めてからは多分私は席を外すことはないと思います。石川君が関さんを呼んでくれというので誰かと交代して関さんを呼んで、私は・・・・・・」

山梨検事=「あなたの言う自供という意味は本当の一瞬だねぇ、要するに自供をするかしないかというほんの一瞬だから、自供し出したらしゃべるんだから、ほんの寸前の話なんだね」

証人=「そうです」

山梨検事=「寸前というか、直前の時にはどうだったかということです」

証人=「どうも私、その報告書を作成したその記憶すら今ないんです。その私のものにあると言うならばそうなんですが、メモでも持っておれば思い出しますが、メモもないしね」

山梨検事=「書式の形式のことなんだが、先ほど関部長の立会人にあなたが、自分が立会人かも知れないということをちょっと言われたが、巡査部長に警視が立会人になるというようなことはあり得るんですか」

証人=「そういうことはあり得ないですね」

山梨検事=「出された調書を見ても警部の立会人は警部補であるし、巡査部長の立会人は巡査部長以下でしょう」

証人=「ええ」

山梨検事=「調書を取るのが、警視がいれば警視が取るんでしょう」

証人=「まあペンを持つ手でも負傷しておれば別ですが、警視が取って立会人がそのあとから立会人になるのが当然でありますが」

山梨検事=「六月二十日ということに記録によればなっておるんですが、この日は被告人の勾留尋問も行なわれておるようですが、今の話が夜の話だとすると、勾留尋問はいつ行なわれたか」

証人=「それは記憶ないです」

山梨検事=「その日の内の何時頃だったかは、その日に裁判所の勾留尋問が行なわれているわけだが、記録上ね。だから関さんとの調べが夜だとすれば、勾留尋問は何時頃であったか、記憶ありますか」

証人=「記憶ないんですが、午後ではあるだろうと」

山梨検事=「あれは裁判所に連れて行くんですか」

証人=「連れて行く場合と、裁判官が出張される場合もありますが、あの場合は多分連れて行ったんじゃないかと思いますが」

山梨検事=「何時頃か」

証人=「たいがい判事さんの関係で勾留尋問は午後なんです。ですから午後じゃなかったかと記憶しておるんですが」

山梨検事=「午後連れて来てまだその○○(注:1)では否認をしていたということですか」

証人=「そういうことです」

山梨検事=「(狭山署長宛の六月二十日付報告書"強盗強姦殺人ならびに死体遺棄事件の被疑者の取調べ状況について"という書面を証人に示した)それはあなたの字ですか」

証人=「間違いありません、私が書いたものですね」

                                            *

裁判長=「内容はどうですか、今見て」

証人=「これを何したら思い出しました」

裁判長=「その通りの内容ですか」

証人=「はい」

(続く)

                                            *

(注:1)印字が不鮮明で解読不可能である(写真参照)。