アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 938

【公判調書2954丁〜】

                      「第五十五回公判調書(供述)」

証人=小島朝政(五十六歳・財団法人埼玉県交通安全協会事務局長)

                                            *

山上弁護人=「あそこら辺で部落という名前を使いますか」

証人=「部落という名前は聞きません」

山上弁護人=「そうすると、今、初めて部落という言葉が出てきたんですか」

証人=「いやいや、そうじゃなくて、これはまあ、露骨な話になって僭越ですが、私は捜査の途中でですね、菅原町という言葉を聞いたんです。菅原町、あれは入間川何丁目とかいうんですか、というのをそういう風に捜査員の誰かさんに聞いて、菅原町という話を耳にした程度です」

山上弁護人=「そうすると、菅原町が何を意味するということを知ったのは、いつ知ったんですか。初めですか」

証人=「それは手拭いの捜査が相当進展してきた頃だと思いますね」

山上弁護人=「あなたは石川君があれだけ嘘をついたと言うんだけれども、五月二十三日逮捕されてからずうっと捜査の進展は知っておったことになりますか」

証人=「いや、全部は知りません」

山上弁護人=「じゃ、どうして、嘘を言うたって知っているんですか、あれだけ嘘を言うたと。よう、言葉が出るな」

証人=「いや、全部は知りません」

山上弁護人=「そうすると、タッチしたのは十三日以後、あなたの今、証言に出たのは手拭いだとか、時計、万年筆、それから『りぼんちゃん』ですか、雑誌ですか、そういう度々じゃなくて、あなたの職責上、五月二十三日以降、密接に捜査の情報に接しうる地位におったのですか、どうですか」

証人=「捜査会議にもちろん、私も出ますから、捜査会議に出た部面(注:1)については、他の者が上司に報告するのを耳にしておったんで」

山上弁護人=「その席上、これは中刑事部長の証言にもありますが、部落民に対する見込み捜査かどうかは別にして、そういう方面に誤解があるといけないから気を付けて捜査しなさいという訓示がありましたか。これは証言にありますから思い起こしていただきたい」

証人=「私は極端にその言葉を覚えてません、今」

山上弁護人=「極端に覚えてなかったら、少しは覚えておる」

証人=「そう言われればということですね」

山上弁護人=「そう言われれば」

証人=「そう言われれば、そんなことがあったかも知れないという程度ですね」

山上弁護人=「石田豚屋関係で、豚屋に出入りしていると推定される人ですね、そういう人を調べたことがあるか、あるいは、調べた捜査員から何か報告を受けられたことがありますか」

証人=「ございません」

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山梨検事=「先ほど、山上弁護士から、自供に基づいて出たものがあるかという質問にあなたがタッチしたものは、時計、万年筆と答えられたんだが、もう一つあるんじゃないですか」

証人=「自供に基づいて・・・・・・」

山梨検事=「自供に基づいてというと、ちょっと語弊があるかも知れないが、要するに、結局は本人の言うことで品物が出てきたというものは」

証人=「時計、万年筆、地下足袋、あれは自供じゃないな、はてな

山梨検事=「第一回の押収捜索はどういう令状で行ったんですか」

証人=「これはですね、恐喝に殺人未遂か誘拐か、たくさんついてましたがね」

山梨検事=「たくさんというのは、窃盗」

証人=「ええ、窃盗もありましたね。ああ、そう言えばですね、下命された中で、窃盗の作業衣があったのを捜索に行って、見つからないで帰って来て、後で出たのを記憶してますね」

山梨検事=「これは五月二十三日の一回目の捜索の目的の中に、自動車修理用作業衣というのがあって、それも捜すつもりだったが、見つからなかったと」

証人=「はい」

山梨検事=「それで」

証人=「それでですね、杜撰な捜査だということで叱られましてね、その被疑者が自供して、そうして作業衣が出たということですね」

山梨検事=「で、結局、作業衣はどこにあったんですか」

証人=「作業衣は奥のベビー箪笥かどうか、そのときに、奥の箪笥か、葛籠(つずら)か、そういうものにあったんじゃないかと思いますが。家屋の東北の四畳半隅にそんな箪笥か葛籠か箱のようなもの、そんな風に思ってますが、どうも古くなりましたんで」

山梨検事=「そうすると、そこに、ベビー箪笥に入っているかということは被告人が説明したわけですか」

証人=「でしょうね」

山梨検事=「それはあなたは知らないんですか」

証人=「私は知らないんです」

山梨検事=「あなたは見つからないという報告をしたんですね」

証人=「はい」

山梨検事=「そうすると、そのあとで」

証人=「そのあとで指示を受けてですね。私は全然調べのほうはノータッチだったんで分からないんです。ですから、もう、物がここにあると言われても、本当に機械的に捜索をし、押収をしたということだけに過ぎないんです」

山梨検事=「まあ、万年筆が二回目の時に捜し出せなかったと同様、一回目の時にも作業衣を捜し出せなかったということがあったということになるわけですか」

証人=「そうです。それで強く叱られまして、ですがまあ、私自身、もう捜索というのは、そう簡単に見つからないんだということはまあ、多くの経験で思ったんで別に、いずれにしても当時の刑事部長から、こんな大きい物が見つからないでどうするんだということで、強く叱られたのを今もって記憶してます」

(注:1)『部面(ぶめん)』物事のある部分の面。局面。

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山梨検事は、一回目では見つけ出せなかった作業衣が二回目の捜索で見つかったことと、万年筆が三回目の捜索で発見されたことを同列に並べ、捜索ではそう簡単に対象物が見つかるわけでもないという趣旨の発言をし、証人もこれに同調した形の証言を返す。しかし捜索が複数回に及んだという共通点のみを比較し、捜索は簡単なことではないと論ずるのは何か腑に落ちないと私は感ずる。この部分をよく読み込むと、まず作業衣が二回目の捜索で発見されたという事実を提示しつつ、その上で、であるならば万年筆の発見に三回もの捜索が行なわれたことは何ら不自然なことではないでしょうと、暗に示す意図を含んだ発言であることがわかる。また、こういう部分が裁判官らには警察は捜査に尽くしたとの好印象を与えていることも考えられ、したがって万年筆の不可思議な出方という疑惑はかき消され、石川被告に対する有罪判決へとその判断は向かっていったのではなかろうか。

(写真は作業衣が発見されたと思われる被告宅の箪笥)