「狭山事件は合理的な疑いだらけの事件である」
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【公判調書1956丁〜】
「第四十回公判調書(供述)」⑩
証人=河本仁之(三十七歳・弁護士。事件当時、浦和地検検察官)
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橋本弁護人=「石田豚屋の経営者石田一義さん、それからその弟義男さん、この二人から事情を聞いたことはありませんか」
証人=「事情を聞いていないと記憶します」
橋本弁護人=「あなたは石田豚屋を含めて広範にわたる現場を実地に見ましたか」
証人=「おおむね現場を見たと思います」
橋本弁護人=「あなたは七月に入ってから被告人を最後に取調べることになりましたね」
証人=「はい」
橋本弁護人=「それはいつ頃からですか」
証人=「全面自供を始めてから数日後だと思います」
橋本弁護人=「あなたの記憶では全面自供というのはいつですか。再逮捕が六月十七日で起訴が七月九日です」
証人=「そうすると、全面自供は再逮捕後三、四日ではないかと思います」
橋本弁護人=「三日後とすれば六月二十日、四日後とすれば六月二十一日ですが、六月二十日か二十一日頃ですか」
証人=「そういう風に記憶します」
橋本弁護人=「その全面自供が始まってからあなたがまた取調べに行ったのは上司の下命で行ったのですね」
証人=「そうです」
橋本弁護人=「あなたに被告人を再度取調べろというのには何か理由があったのですか」
証人=「第一次の逮捕、勾留の際に原検事の補助で被告人に何回か当たっているという実績をみられたのではないかと思います」
橋本弁護人=「検察官としては原検事が大体調書を取っていますが、あなたが更に調書を取ったのはどういうわけですか」
証人=「原検事の都合があったときに私が穴埋めというような意味で被告人を調べて調書を取ったのではないかと記憶します」
橋本弁護人=「あなたの取った調書を見ると原検事の調書の中にある食違い点とか曖昧な点を補足したような調書のように思われますが、そういう下命を受けたのですか」
証人=「そういう下命を受けたのではなく、私自身が原検事の調書を見てこの点をもう少し聞いておこうという点を見つけて、それを中心に聞いたのではないかと思います」
橋本弁護人=「ある物についての従前の被告人の自供を訂正したりはっきりさせたりしているのはあなたの自発的な考えによってなされたのですか」
証人=「どうもそういう記憶が強いです」
橋本弁護人=「特段この物について聞いてみろという指示は受けていないのですか」
証人=「そういう指示は受けていませんね」
橋本弁護人=「あなたに対する指示は被告人に全般的に聞けということだったのですか」
証人=「そういう記憶です」
橋本弁護人=「被告人が全面自供した経緯について聞き知っていることはありませんか」
証人=「聞いております」
橋本弁護人=「どういう風に聞いていますか」
証人=「再逮捕後、三、四日で全面自供をしたと記憶しますが、最初に全面自供させた取調官が関さんという人で、被告方の近所に住んでいたのでしたか、確か関さんが近所の青少年を集めて野球チームを作っていてその野球チームに被告人も入っており、そういう関係で私的にも知っていたという事情から関さんが取調べに当たり全面自供を得た、という風に聞きました」
橋本弁護人=「あなたの言う全面自供というのはどういう中味のものを言うのですか」
証人=「いわゆる善枝さん殺しと二十万円でしたかの恐喝未遂事件について全部認めたということです」
橋本弁護人=「最初は三人でやったという供述でありそれがある時点から単独犯に変わったという状況は知っていますか」
証人=「知っております」
橋本弁護人=「あなたの全面自供というのは三人での犯行の自供を含めているのですか、それとも単独犯行の自供をいうのですか。あるいはそれほど厳密に使い分けてはいないのですか」
証人=「厳密に使い分けた訳ではありませんが、単独犯行ですべての事実を認めたというように理解しています」
橋本弁護人=「あなたとしては結論的に本件は単独犯行だと考えているのでしょう」
証人=「そう思っています」
橋本弁護人=「とすると単独犯行の自供をしたことが全面自供となるわけですね」
証人=「はい」
(続く)