アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 626

「被疑者の供述が客観的事実と符号していなければ、その供述に信用性がなく、内容が虚偽であると判断すべきであることは当然の理である」

「供述内容がいかにも不自然で現実性に乏しく、推測的で合理性のない場合には真実性がない」

(元最高検察庁検事・村上久)

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【公判調書1953丁〜】

                   「第四十回公判調書(供述)」⑨

証人=河本仁之(三十七歳・弁護士。事件当時、浦和地検検察官)

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橋本弁護人=「再逮捕してから身柄を狭山警察署から川越警察署分室に移しましたね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「分室に移してからあなたは取調べに当たったことがありますね」

証人=「あります」

橋本弁護人=「被告人だけを特別にあそこに留置したのですね」

証人=「被告人だけを特別に移したかどうかは知りません」

橋本弁護人=「分室は留置場が一つで被告人しか入っていなかったのではありませんか」

証人=「そこらへんは記憶がはっきりしません」

橋本弁護人=「外周なども全部被告人を留置するために急いで作ったように見受けましたが、どうですか」

証人=「この事件の捜査に関与する以前に川越署分室に行ったことがないので、どういう風に模様替えしたかということはわかりません」

橋本弁護人=「分室の周辺に板壁などで牆壁を作ったことはどうですか」

証人=「記憶がはっきりしません」

橋本弁護人=「被告人としてはそれまでの狭山警察署と違って非常に物々しい感じを受けたというのですが、そういう感じを与えるような施設、雰囲気があったのではありませんか」

証人=「狭山警察署はかなりにぎやかな通りに面していてあまり落ち着いて調べの出来るところでなかったことは事実です。それに比べて川越署分室はかなり静かな環境で落ち着いて話のやり取りができるところだったと思います」

橋本弁護人=「狭山警察署の方が解放的で、それに対し川越署分室の方は世間から隔離された度合が強いということは言えますね」

証人=「それは間違いありません」

橋本弁護人=「弁護人の接見が川越署分室に移ってから非常に厳しくなりましたが、そういう関係については知っていますか」

証人=「それは原検事の担当だったと思います」

橋本弁護人=「あなたは直接知りませんか」

証人=「知りません」

橋本弁護人=「再逮捕以後、弁護人の接見の回数が少なくなったほかに、接見時間も五分とか十分あるいは十五分という風に制限されたことを知りませんか」

証人=「そういうことは知りません」

橋本弁護人=「再逮捕のときの罪名を記憶していますか」

証人=「正式な罪名はちょっと記憶ありません。起訴罪名とは違っていたのではないかと思います」

橋本弁護人=「記憶している範囲でどうですか」

証人=「逮捕罪名は強盗強姦殺人という罪名ではなかったかと思います」

橋本弁護人=「再逮捕の執行のときあなたはどこにいましたか」

証人=「狭山警察署か堀兼の捜査本部のどちらかにいたのではないかと思います」

橋本弁護人=「再逮捕の現場にはいませんでしたか」

証人=「いなかったと思います」

橋本弁護人=「先程、参考人の調書を取ったと思うがその参考人が思い出せないという風に言いましたが、東島明、石田一義、石田義男という人の調書を作った記憶はありませんか」

証人=「東島明というのは調書を取ったかどうかは分かりませんが調べた記憶はあります」

橋本弁護人=「石田一義、石田義男。これは石田豚屋の経営者ですが」

証人=「その二人には当たっていないと思います」

橋本弁護人=「東島明の取調べをしたのは再逮捕以前ですか」

証人=「以前です」

橋本弁護人=「五月ですか、六月ですか」

証人=「六月だと思います」

橋本弁護人=「あなたが被告人から三人犯行の自供を取ったときの前ですか後ですか」

証人=「前後いずれであったか定かでありません」

橋本弁護人=「東島明の調書を作成したかどうかは」

証人=「調書は作らなかったような記憶が強いです」

橋本弁護人=「取調べをした場所はどこですか」

証人=「確か東島明が北埼玉の方の小川警察署でしたかに勾留されていて、そこで調べた記憶があります」

橋本弁護人=「取調べた回数はどうですか」

証人=「東島については一回だけです」

橋本弁護人=「ある日一日行って一回調べたということですか」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「それは上司から下命されたのですね」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「下命内容は」

証人=「逮捕、勾留されている事実はもちろんですけれども、被告人との交友関係ということも入っていたのではないかと思います」

橋本弁護人=「端的に言うと善枝さん殺しの事件の裏付捜査ということですか」

証人=「そういうことだったと思います」

橋本弁護人=「どんなことを聞き出したのですか」

証人=「はっきりしません」

橋本弁護人=「東島の昭和三十八年五月一日のアリバイなどは聞きませんでしたか」

証人=「聞いたような記憶はありません」

橋本弁護人=「調書を作らなかったのには理由があるのですか。否認なり黙秘だったのですか」

証人=「そんなことはありません。格別新しい供述はなかったから屋上屋を重ねる必要はないと思って取らなかったと思います」

橋本弁護人=「それ以前に誰かが取った調書が存在していたからですね」

証人=「そう思います」

橋本弁護人=「その調書には目を通しましたか」

証人=「目を通してから出かけただろうと思います」

橋本弁護人=「東島はどういう罪名で逮捕、勾留されていたか知っていますか」

証人=「窃盗とか横領とか暴行とかそんなたぐいの事件だったと思います」

橋本弁護人=「逮捕、勾留するには当たらないと思われるような事件だという感じを持ちませんでしたか」

証人=「格別そういう感じは受けませんでした」

橋本弁護人=「被告人の五月二十三日の第一次逮捕についても恐喝未遂を除けば通常の捜査ではあえて逮捕、勾留する必要はないように思われますが、どうですか」

証人=「その程度の事件でも逮捕、勾留されている場合はいくらでもありますから、それほどそういう感じは受けません」

橋本弁護人=「逮捕は別として、全部自供したということだと勾留することはどうですか」

証人=「逮捕されれば普通は勾留が付くわけですからそれほど奇異には感じませんでした」(続く)