(狭山事件裁判資料より)
【公判調書2052丁〜】
「第四十一回公判調書(供述)」
証人=山下了一(五十二歳・無職。事件当時、埼玉県警本部捜査一課)⑤
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宮沢弁護人=「あなた先ほど三、四十人の部下を使って調べたということで、最初五月二十三日の調書を見ますと経歴とか家族関係が出て来ているんですが、そういう石川君の経歴、家族関係についてはみんな当ったんでしょうか」
証人=「取調べですか、それはちょっと私には、他の人はどうか知りませんが、私はやった記憶はありません」
宮沢弁護人=「具体的にあなたが取調べているわけでしょう」
証人=「家族関係とか、そういう関係は聞きましたが、家族個人とか一人一人について私が当ったような記憶はありません」
宮沢弁護人=「あなたの部下に当たらせたという記憶はないんですか」
証人=「ちょっと記憶ありませんね」
宮沢弁護人=「しかし三、四十人の警察官を配置しているわけでしょう」
証人=「はい」
宮沢弁護人=「あなたが主任的な立場で、それの捜査に当っているわけでしょう、その結果があなたのところに来るわけでしょう」
証人=「いや、それは聞込みをやる段階と、もう、調べる段階とは時期的に違いますから、その関係を指揮しても、全部私が当れというようなことは指示はしてなかったと思います。誰が指示したかということはちょっと大勢ですから、ちょっと分かりませんが」
宮沢弁護人=「あなたは五月二日に行かれてからずっと石川君の捜査に当っていたんですね。狭山事件の」
証人=「ええ」
宮沢弁護人=「その時の捜査というのの重点はやはり佐野屋で取り逃した犯人を捕まえるということの捜査でしょう」
証人=「はい」
宮沢弁護人=「善枝ちゃんが五月四日、死体で発見されましたね」
証人=「はい」
宮沢弁護人=「それは知ってますね」
証人=「幾日か日は分からないんですが知ってます」
宮沢弁護人=「発見されてからあと捜査方針は変わったんですか」
証人=「まあこれは方針ががらっと変わるというか、今度はまあいろいろやはり聞込み捜査とか地取り捜査もやりましたが、その関係から更にまあ善枝さんが何時頃学校を出て、何時頃どこを通るかというようなことも捜査したように覚えています」
宮沢弁護人=「そうすると善枝ちゃんの通学経路それも調べた記憶があるんですね」
証人=「それはまあ私があれしたんじゃなくて他の部下がやったように覚えております」
宮沢弁護人=「そういう事実はあったんですね」
証人=「はい」
宮沢弁護人=「あなたは日ははっきりしないというんですが、五月四日死体が出て来て、それからは犯人を捜査するという点に大体重点があったわけでしょう」
証人=「まあ重点というか、広い捜査をやっている中にそういう関係も盛り込まれたように思います」
宮沢弁護人=「広い捜査というのは抽象的でよく分からないんですが、どういう捜査のことなんですか」
証人=「聞込み捜査とか、そういう関係をやったようにやったように思います」
宮沢弁護人=「聞込みというのは、具体的にどこをどういう風に」
証人=「一概には言えませんが、いろいろあらゆる面からの聞込み捜査ですね」
宮沢弁護人=「あらゆる面というのは非常に抽象的なんですが、あなたは具体的にどういうことをしたんですか」
証人=「まあいろいろ例えば一つの具体的例ですと、素行が悪い人はいるかいないかとか、佐野屋の付近に、逃げられた時にあの晩あの辺を通った人はいないかとか、広い捜査をやったんですが。これはちょっと申上げればきりがないようにあれですが、そういう記憶があります」
宮沢弁護人=「具体的に伺いますが、佐野屋のところで取り逃した犯人というのはあなたの方としては手紙を届けた犯人だという風に見ていたんですね」
証人=「そういう風に思います」
宮沢弁護人=「そうすると届けた封筒にあります何か少時という文字があったのはあなたご存じないですか」
証人=「あったようにも思いますが、具体的にはちょっと」
宮沢弁護人=「そうすると脅迫状は見ましたか」
証人=「見ました」
宮沢弁護人=「封筒も見ましたね」
証人=「見ました」
宮沢弁護人=「そこに書いてある字も見ましたね」
証人=「見ました」
宮沢弁護人=「そこに少時という字が書かれてあったのは見ましたね」
証人=「見たのは見たのですが、ちょっとあれですね」
宮沢弁護人=「何ですか。そうすると、犯人を捜査するについてそういう痕跡のあったものを追跡するというような方法は取らなかったんですか」
証人=「まあそういう捜査もやったように記憶しておりますが」
宮沢弁護人=「具体的にはどういう風にしてやったんですか」
証人=「まあ死体からあったタオル、何かああいう物の捜査とか、そういう関係もやったように記憶しておりますが」
宮沢弁護人=「そうするとその当時捜査線上に浮かんだ、あなたのさっき言われた素行の悪い人とか、そういう人は何人くらいいたんですか」」
証人=「そうですねえ、ちょっと今、記憶ありませんね。何人くらいいたかというようなはっきりしたあれはどうも・・・・・・」
宮沢弁護人=「大体概数で、あなたが記憶してる範囲はあるんじゃないですか」
証人=「・・・・・・・・・・・・」
宮沢弁護人=「大体のところでも」
証人=「はあ、まあ、十人や十五人はあったんじゃないかと思いますけれども、どうも数についてのはっきりした記憶はちょっともう今となってはありませんですね」
(続く)