(狭山事件裁判資料より)
【公判調書2055丁〜】
「第四十一回公判調書(供述)」
証人=山下了一(五十二歳・無職。事件当時、埼玉県警本部捜査一課)⑥
*
宮沢弁護人=「石川君が捜査線上にのっかったのはいつ頃か記憶ございますか」
証人=「さあて、記憶ないですね」
宮沢弁護人=「そのほか、石田一義という青年が捜査線上にのったのはいつ頃か知りませんか」
証人=「そういう人もいたかと思いますが、いつ頃だったかその記憶はありません」
宮沢弁護人=「東島明というのはご存じありませんか」
証人=「その当時浮かんだようにも思いますが、これも時期的には」
宮沢弁護人=「そういった人たち、まああなたは、はっきりしないと言うんですが、浮かんだ何人かの人たち、それは恐喝未遂なり、あるいは殺人なりそういったことで捜査していて、その線上に浮かんだわけですね」
証人=「何か被疑者と交際というか、知り合いのようですから、何か知っているんじゃないかという風なことで、捜査してたように覚えていますが」
宮沢弁護人=「あなたは石田一義、石田義男、東島明というのを具体的に捜査したというか、取調べたことはないですか」
証人=「石田一義、この人は聞きましたですが」
宮沢弁護人=「あなたは具体的に調べられたんですか」
証人=「はい」
宮沢弁護人=「あなたが調べた」
証人=「ええ」
宮沢弁護人=「それは、いつ頃ですか」
証人=「やはり時期的には記憶がないんですが、聞いた記憶はあります」
宮沢弁護人=「あなたが取調べたんですね」
証人=「はい」
宮沢弁護人=「それは調書にしましたか」
証人=「何か窃盗か詐欺かで調書を作ったように覚えております」
宮沢弁護人=「その人は、窃盗か詐欺で捜査されたんですが、恐喝未遂とか強盗、強姦殺人とか、そういうことでも調べられたわけでしょう」
証人=「いや調べた記憶はありません。窃盗か詐欺だけだったように記憶してます」
宮沢弁護人=「全くないんですか」
証人=「ありません」
宮沢弁護人=「全くないんですか」
証人=「はい、ありません。窃盗か詐欺は調べた記憶があります」
宮沢弁護人=「それらの人たち言わせると、取調べられた当初は、本件の善枝ちゃん殺しに関係して調べられたというそういう調書があるんですがね」
証人=「いや、窃盗か、それは友だちというか、知り合いの関係ですから、どの程度の知り合いでどの程度の関係が石川君とあるかということは聞いたと思いますが、その恐喝とか、それから本件のようなことについては、調べたようなことはないように記憶してます」
宮沢弁護人=「じゃ、石川君の調べの裏付けとしていろいろ捜査した、そういうことはございますか」
証人=「それはどなたのですか」
宮沢弁護人=「本件被告の石川」
証人=「どなたのですか」
宮沢弁護人=「あなた石田一義、石田義男、東島明ですね、そういった人です」
証人=「記憶がないんですが、あるとすればどの程度の関係かというぐらいは聞いたと思いますが」
宮沢弁護人=「あなたは、石田一義について調べてるわけですね」
証人=「はい」
宮沢弁護人=「東島とか、それから石田義男、それについては調べていないんですか」
証人=「はい」
宮沢弁護人=「あなたは石川君を最初に取調べられた警察官なんですがね、まあそういうように伺ったんですが、石川君がどういう出身だということはその取調べる前から分かっていたんじゃないですか」
証人=「どういう出身かと言いますと」
宮沢弁護人=「まあ、場所とか、どういう経歴だとかいうこと」
証人=「聞いてから初めて分かりました」
宮沢弁護人=「その前、取調べの過程でそういうことが分かっていなかったんですか」
証人=「経歴は聞きましたですが、深くは知りませんでした」
宮沢弁護人=「あなたの方に三十名とか四十名とか、大勢部下がいるわけでしょう」
証人=「はい」
宮沢弁護人=「その人たち、特に狭山署の関係の人たちもおりますね」
証人=「はい」
宮沢弁護人=「その人たちが、石川君はどういう階層の出身者だというようなことは言ってませんか」
証人=「いや、私は捜査員からそういうようなことは聞きませんでした」
宮沢弁護人=「学歴なんか調べて、これは大変貧しい家(うち)の青年だというようなことは気が付きませんでしたか」
証人=「まあ、貧しいかどうか知りませんが、とにかく、あんまり大きな、大商店とか大地主とかそういう方じゃないということは思いましたですが、経歴聞きましたですが・・・・・・」
宮沢弁護人=「特に、住所なんか聞いて、これはどういう家(うち)の人だというようなことは分かりませんでしたか」
証人=「まあ、恐らく深くは分かりませんでした」
宮沢弁護人=「深くは分からなかったけれども、ざっと分かったでしょう」
証人=「聞きませんでした」
宮沢弁護人=「本人から聞いたわけじゃないだろうけれども、いろいろの捜査を、三十人四十人の方が集めて来るんだから、これはどういう人だということは分かったでしょう」
証人=「そういう風な関係というか、まあ、調べた時のあれは、今申し上げたような状況で、持主とか、そういう関係じゃないということだけで、他には気付かなかったですね、何もわかりません」
宮沢弁護人=「それ、本当ですか」
証人=「・・・・・・・・・・・・」
宮沢弁護人=「あんた、嘘言ってるんじゃないですか」
証人=「いやあ・・・・・・」
宮沢弁護人=「はっきり言いなさいよ」
証人=「・・・・・・・・・・・・」
宮沢弁護人=「じゃ、ちょっと質問しますがね、竹内署長が来られて、警察官が、そこに、駐在に二年ぐらい居れば、どこに誰がいると、どういう人だというようなことは、皆、分かってるんだと、そういう証言を今日されたのですが、警察官は、例えば、石川君なら石川君が、どういう出身階層の出身者だということぐらい、判っていたんじゃないですか」
証人=「私どもあそこへ行って、まあ、先ほど申し上げました通り、逃走された場合とか、入間川方面なんかは、今度の事件で初めて行ったんで本当に街の状況とかそんなことは暗くて行ったものですから、全然何も分からなかったというような状況ですが」
宮沢弁護人=「あなたは、直接には分からないんだけど、三十人四十人の部下がいるわけでしょう」
証人=「はい」
宮沢弁護人=「その中に狭山署の職員だっているんでしょう」
証人=「はい」
宮沢弁護人=「そういうことが分からなかったですか」
証人=「私は、そういう人から、まあ、捜査員から報告を事件の関係で、そういういろいろな関係は、細かくはなかったと思いますが」
(続く)