(狭山事件裁判資料より)
【公判調書2060丁〜】
「第四十一回公判調書(供述)」
証人=山下了一(五十二歳・無職。事件当時、埼玉県警本部捜査一課)⑧
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宮沢弁護人=「それじゃ、もう一つ聞きますが、いろいろ捜査線上にのった人たちを捜査して、こういうこともあったんじゃないか、ああいうこともあったんじゃないかということで、石川君の記憶を喚起して判った分については、そういうこともあったということで認めていた、そういう状況じゃなかったですか」
証人=「それは窃盗とか横領ですか、端緒はどうだったか、記憶ないですね」
宮沢弁護人=「あなたとしては、恐喝未遂以外は全部認めていたと、そういう記憶なんですね」
証人=「何か、全部話してくれたような記憶あります。端緒はどういう関係でどうだということまではちょっと記憶に残っていません」
宮沢弁護人=「ただあなたがそういうことを取調べたことは間違いないですね」
証人=「今のところはっきり、オートバイとか何かというのは、現段階においては記憶ないけれども、私の調書があれば、それは取調べたんだろうと思います」
宮沢弁護人=「そうすると、恐喝未遂ですね、これは要するに二十万円を持って来いというやつでしょう」
証人=「はい」
宮沢弁護人=「その事案についてはどうなったですか」
証人=「その時には黙っていたり、まあ知らないって言ったり、いろいろだったと思います」
宮沢弁護人=「要するに、初めからこの点については否認したわけですね」
証人=「最初は黙っていたり、否認ですね、まあ」
宮沢弁護人=「とにかく、黙っていたと」
証人=「はい」
宮沢弁護人=「そうすると窃盗とかそういう事案とは違った取調べ態度だったですね」
証人=「いや、その事実のことを話して下さいという風なあれですが」
宮沢弁護人=「事実のことを話すとは、どういう意味ですか」
証人=「否認したり、いろいろしてる関係についてですね、よく話して下さいと、こういうことを言ったつもりでいますが」
宮沢弁護人=「それに対して石川君は黙秘したり否認したりしてたと」
証人=「そうです」
宮沢弁護人=「その態度は、あなたが調べている間は一貫してたわけですね」
証人=「まあ、自供するというあれには行かなかったと思います」
宮沢弁護人=「再逮捕されたことがありますね」
証人=「はい」
宮沢弁護人=「それ覚えておりますね」
証人=「川越へ行ったあれですね」
宮沢弁護人=「ええ」
証人=「それは、川越へ行った記憶があります」
宮沢弁護人=「その時もあなたは取調べに当っていたわけですね」
証人=「最初は調べに当ったように覚えております」
宮沢弁護人=「その再逮捕された頃はどうですか」
証人=「調べに当ったように覚えております」
宮沢弁護人=「この、再逮捕した時の犯罪名と言いますか、それはどういう犯罪名で、被疑事実で逮捕したか覚えていますか」
証人=「今、はっきり具体的にはあれですが、殺人死体遺棄が入っていたんじゃないかと思いますが」
宮沢弁護人=「するとあなた方は、五月二十三日からその石川君に対して、恐喝未遂とか本件の善枝ちゃん殺しですね、この関係に関する点も取調べてたんじゃないですか、一番最初逮捕した頃から」
証人=「恐喝未遂の関係だけ取調べをしたように記憶します。で、川越の分室へ行ってから今申し上げました殺人と死体遺棄の関係を調べたように思います」
宮沢弁護人=「あなたは、すると川越の分室へ行ってから、やはり取調べに当られたわけですか」
証人=「はい」
宮沢弁護人=「それはいつ頃ですか、分室へ行ってすぐもう取調べに当られたんですか」
証人=「日にちははっきりしませんが行ってすぐだと思います」
宮沢弁護人=「そういう記憶はあるわけですね」
証人=「はい」
宮沢弁護人=「すると、あなたがその川越の分室へ行って取調べた段階で、石川君は善枝ちゃん殺しに対してどういう風な態度だったですか」
証人=「そのようなことはしていないと、いう風なことを言ってるわけでそれから、そういうことをやってないと」
宮沢弁護人=「そう言ってましたか」
証人=「そう言ってました」
宮沢弁護人=「すると川越へ行く前については恐喝未遂についても、もちろんこれについてはやってるという供述はなかったわけですね」
証人=「恐喝未遂については否認していました」
宮沢弁護人=「だけど川越へ行く前に、要するに再逮捕の前後ですね、その頃やはり善枝ちゃん殺しについて、あなた方取調べていたんじゃないですか」
証人=「恐喝未遂については取調べたように記憶してます」
宮沢弁護人=「善枝ちゃん殺しの関係、恐喝未遂を除いた善枝ちゃん殺しについては全く調べていなかった」
証人=「調べていなかったように記憶します」
宮沢弁護人=「あなたは」
証人=「ええ」
宮沢弁護人=「もちろん石川君自体が、この強盗殺人とか善枝ちゃん殺しをしたというような供述はしなかったですね」
証人=「狭山署においてはですね」
宮沢弁護人=「ええ」
証人=「これはありません」
宮沢弁護人=「その頃あなたは、直接取調べに諏訪部とかいろいろ替っているけれども、当られてたわけですね」
証人=「まあ、五日か六日ぐらい調べたんじゃないかと思っております。あとは他の方が、どなたがやったか記憶ありませんが、他の方がやったんだと思います」
宮沢弁護人=「もう一度念を押しますけども、あなたは、六月の十八日に川越の方で取調べてる調書があるわけですがその前、狭山で取調べた時には、もちろんあなたは強盗殺人の方は調べていないと言うんですけれども、恐喝未遂についても全く否認していたという状態ですね」
証人=「まあ、否認しておりました。で、死体発見してから関連性についてはあるいは聞いたかも知れませんが、調べたというあれではなかったと思います」
宮沢弁護人=「要するに雑談の中で聞いたという程度ですか」
証人=「ええ」
宮沢弁護人=「調べたという態度じゃなかった」
証人=「ええ」
(続く)