(狭山事件検証調書より転載)
【公判調書1983丁〜】
「第四十回公判調書(供述)」⑲
証人=河本仁之(三十七歳・弁護士。事件当時、浦和地検検察官)
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主任弁護人=「五月一日の午後、死体発見現場付近あるいは当時作りかけの東中学校の付近で東島君と石川君を見かけたということを奥富という植木屋さんが情報としてもたらしているのですが、全然聞いたことがありませんか。これは原検事もこの法廷で証言していることですが」
証人=「はっきりした記憶はありません」
主任弁護人=「あなたが小川警察署にいる東島君に会って取調べをしたのは一回だけでしょう」
証人=「はい」
主任弁護人=「当時のあなたの関心は逮捕、勾留の事実となっていた窃盗や暴行などにはほとんど無く、恐喝未遂及びそれに関連する善枝さん殺しにあった、という風に聞いていいのでしょうね」
証人=「まあ、そうです」
主任弁護人=「東島君に会ったのも、それについての必要からですか」
証人=「そういう要素も十分あったと思います」
主任弁護人=「恐喝未遂を起訴するかどうかという最後の決定のときに、検察官を含めて捜査会議というようなものがありましたか」
証人=「あったかも知れませんが私は加わっていないと思います」
主任弁護人=「先程述べたように捜査担当検事が雑談的に話した程度なのですか」
証人=「そうです」
主任弁護人=「実質的にこの事件に関与していたのは鈴木次席検事以下五人なのでしょう」
証人=「そうです」
主任弁護人=「当時、恐喝未遂を起訴できるかできないかということは検察庁としては最大の関心事であったはずでしょう」
証人=「最大の関心事だったと思います」
主任弁護人=「あなたはそういう重大な問題を決めるときに加わっていないのですか」
証人=「補助検事はそういうことに関与しないのが原則です」
主任弁護人=「補助検事というのは誰ですか」
証人=「小川検事以下私まで三名です」
主任弁護人=「そうすると、小川検事や滝沢検事も加わっていないと思いますか」
証人=「加わっていないのではないかと思います」
主任弁護人=「恐喝未遂を起訴すべきかどうかについて意見を求められたこともないのですか」
証人=「捜査の過程で雑談程度に意見を述べたりしたことはあっただろうと思います」
主任弁護人=「特に満期のときになってどうすべきかという意見を改めて求められたことはないのですか」
証人=「それはありません」
主任弁護人=「恐喝未遂を起訴しないと決定したのは原検事と次席検事ということになりますか」
証人=「次席検事と原検事だけでは決まりません」
主任弁護人=「検事正が加わっていますか」
証人=「当然そうです」
主任弁護人=「その三人ですか」
証人=「その三人だけで決めたか更に他の方面の意見を求めたか私には分かりません」
主任弁護人=「他の方面というのは東京高検とか最高検ですか」
証人=「はい」
主任弁護人=「どの範囲でその決定がなされたか、あなたとしては知らないわけですね」
証人=「知りません」
主任弁護人=「あなたは六月十一日ごろ石川君が自供に入りかけたとき立ち会っているわけですね」
証人=「はい」
主任弁護人=「あなたはそれを早速検事正に報告したわけでしょう」
証人=「はい」
主任弁護人=「検事正は何と言っていましたか」
証人=「署名を求めることにそうこだわらないで調べを切り上げろ、という指示があったと記憶します」
主任弁護人=「そうすると調書完成前に狭山警察署から電話したのですか」
証人=「そうです」
主任弁護人=「自供のようなことを始めたことについては検事正は何と言いましたか」
証人=「それは非常に喜んでいました」
主任弁護人=「あなたは電話で報告しただけですか」
証人=「翌日、鈴木次席検事に口頭で報告しました」
主任弁護人=「どういう状況からそういう自供が始まったかということも詳しく報告しましたか」
証人=「報告したと思います」
主任弁護人=「その際、あなたとしては取調べを続けていけば石川君から自供を得ることが出来ると考えていましたか」
証人=「その見込みもあるだろうという程度の感じは持っていたと思います」
主任弁護人=「引き続き自分を調べに当たらせてほしいということを次席検事に言いましたか」
証人=「私からは格別言いません」
*
(続く)