アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 637

(狭山事件検証調書より転載)

【公判調書1986丁〜】

                  「第四十回公判調書(供述)」⑳

証人=河本仁之(三十七歳・弁護士。事件当時、浦和地検検察官)

                                          *

主任弁護人=「被告人が茶碗を投げ付けようとしたこともあったので、その後被告人の取調べから変わったという趣旨のことを言いましたね」

証人=「はい」

主任弁護人=「取調べをやめたのは、十一日にあの調書を取り、十二日に調べてその直ぐあとですか」

証人=「そうだったと記憶します」

主任弁護人=「茶碗を投げ付けられそうになったということも上司に報告しましたか」

証人=「そこまで詳しくは報告しなかったように記憶します」

主任弁護人=「茶碗を投げ付けられそうになったことも詳しく報告しないのに、せっかく自供を引き出しかかったあなたをどうして上司が手を引かせたのかよくわからないのですが、他に事情があったのではありませんか」

証人=「もとの否認に固く戻ったことを報告したところが、直接当たるのはやめろという指示だったと思います」

主任弁護人=「なかなか自供しないから選手を交替してということであなたのところに来たわけでしょう。そして自供を引き出しかかったけれどもまた否認したからもう一度選手交替ということですか」

証人=「表現はいささか問題ですがそういう狙いはあったと思います」

主任弁護人=「実際には茶碗を投げ付けられかかったのは署名のことからではなくて、被告人の兄さんがやったのではないかというような問答からそういう事態が起こったのではないのですか」

証人=「署名の問題からだったと思います」

主任弁護人=「先程、犯行が複数によるものであるとの推定もあったと言いましたね」

証人=「はい」

主任弁護人=「あなた自身はどういう推定をしていたのですか。複数犯説に近かったのですか」

証人=「あまりそういう予断は持たないようにしていたから、どういう考えをしていたかはっきりした記憶はありません」

主任弁護人=「警察、検察を問わずで結構ですが、殺害現場は死体が発見されたところから離れた場所ではないかという推定を持っていたことはありませんか」

証人=「その辺の記憶ははっきりしません」

主任弁護人=「あなたは被告人との間で死体を自動車のようなもので運んだのではないかという問答をしたことはありませんか」

証人=「かすかにそういう記憶があります」

主任弁護人=「あなたの方で第一現場は別にあるのではないかという風に考えていたのではありませんか」

証人=「自動車を使ったのではないかとのやり取りがあったとすれば、そういう想定を持っていたかも知れません」

主任弁護人=「警察の方では入間川近辺から加佐志、堀兼一帯にかけて車の持主を随分捜していたということが捜査書類の中にもありますが、第一現場は別にあり死体は車で運ばれたというような推定があり、且つその推定をもたらす資料が当時の捜査当局にはかなりあったのではありませんか」

証人=「あるいはそうかも知れません」

趣旨弁護人=「六月十一日自供を始めかかったときに死体に付いていた縄のことについて被告人が言ったことに関し、特に覚えていることはありませんか」

証人=「縄について述べたかどうかの記憶はありません」

主任弁護人=「現在までに法廷で明らかになっている事実によると、関巡査部長が三人共犯の自白を最初に取って、のちに長谷部警視らが取調べている間において被告人から死体がどういう状況で埋められていたか知りたいと聞かれたことがあるということですが、あなたが調べたときに石川君は死体がどういう状況であったか、縄がどういう状況であったかなどについて全然知らないという様子を示したことはありませんか」

証人=「そういう主張は私は記憶がありません」

主任弁護人=「六月十一日付のあなたの調書の中に、私に言えることは死体が縛られていたはずはないということです、ということが被告人の供述として書かれていますが、死体の縄のことについて石川君が言ったことはありませんか」

証人=「そのときはそう述べたのだと思います」

主任弁護人=「あなたは縄の捜査をやっているので縄について石川君に聞いたのではありませんか」

証人=「私の方から質問したのか自発的に述べたのかはっきりしませんが、そういう供述が出たことは間違いないないと思います」

主任弁護人=「警察官調書、検察官調書を通じて首に巻かれていた木綿細引紐に触れているものは直接ないのですけれども、客観的状況とかなり明瞭に違う自供調書があるわけですから、死体に巻かれていた木綿細引紐について、あなたなり他の検察官が問題にしたことはありませんか」

証人=「そこが問題だという話が出た記憶はありません」

主任弁護人=「今私がこう言っても、あなたとしては死体の首に巻き付けられていた細引紐について自白は触れていない、ということをさほど重要な問題とも感じませんか」

証人=「一つの問題点であろうとは思います」

主任弁護人=「原検事もこの法廷で木綿細引紐の意味は全然わからない、現在に至ってもわからないと証言しているのですが、かなり問題になったのではありませんか」

証人=「問題になったけれども忘れてしまったのかも知れません」

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(続く)