アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 954

【公判調書2993丁〜】

                    「第五十六回公判調書(供述)」

証人=遠藤  三(かつ)・七十歳

                                           *

山上弁護人=「中田健治と、時計をどこかに借りに行ったことがありますね」

証人=「あります」

山上弁護人=「これはどういうことから中田健治さんと一緒に行くようになったんですか」

証人=「中田健治というのは兄貴で、兄貴が買ってくれたというお話からじゃないかと思いますが」

山上弁護人=「私が聞いているのは、誰か上司から中田健治さんと行きなさいということで行ったのか、あなたが中田さんの所へ尋ねて行って時計を善枝に買ってやったことがあるということを聞き出して、そしてどこの店に行ったのかということで行ったのか、どういうことで行くようになったんですか」

証人=「捜査の過程で兄貴が買ってくれたんだということが出てきたことから、どこでどんな時計を買ったんだということになった、それで兄貴と・・・・・・もう一人誰か行ってると思いますが、それはもちろん上司と相談の上、上司から命令をされたかも知れません。あるいは私の方から質問を持ちかけたかも知れません。いずれにしても上司の許可のないものはやっておりません関係から上司の方から命ぜられて行ったと思います」

山上弁護人=「それは将田さんの証言によれば、五月八日になっておるんです、相当早い時期ですね、つまり死体の発見が四日、そうすると五月八日には時計を借りに行ったと」

証人=「はい」

山上弁護人=「これは上司の方もしくは同僚の方とあなた二人と、それから健治さんと行ったんですね」

証人=「健治さんと、誰かもう一人警察官が行ったような感じがするんだけども、そこのところはどうも」

山上弁護人=「どういう程度の時計屋さんでしたか」

証人=「・・・・・・相当大きかったんじゃないかというような感じがしますが、どこか場所は記憶しておりませんな」

山上弁護人=「その時計屋さんで実際に時計が出るまでに、どういうやり取りが時計屋さんとあったか覚えていますか」

証人=「あれは兄貴の方が説明をしたように記憶しております」

山上弁護人=「どういう説明をしておった」

証人=「いや、その点記憶ありませんけれども、兄貴の方が説明をしたわけです」

山上弁護人=「あなた方がその店に行って時計を実際に見るまでに何分くらいかかりましたか」

証人=「・・・・・・そんなに時間はかからなかったというような感じがしますが」

山上弁護人=「つまり、まあすぐ出てきたんだね」

証人=「と思います。というのは私の説明でなくて、兄貴が買った時計で兄貴が説明をして兄貴がこうだああだということを言って出してもらったような感じがします」

山上弁護人=「時間はかからなかったわけですね」

証人=「かからなかったと思いますが」

山上弁護人=「あなたのご記憶では、中田健治さんはその時計屋に行った時点で、どのくらい前に時計を買ったような話をしておりましたか。実は三年前買ったんだとか、あるいは四年前だとか」

証人=「そんなじゃなかったんじゃないかと思いますがな。学校へ入る関係で買ってやったんじゃないかというような感じがしますが、その点何年くらい前という記憶はございませんですね」

山上弁護人=「健治さんとお店の方とのやり取りの内容ですね、時計が出てくるまでどういう会話がありましたか」

証人=「細かいことはどうも記憶がございませんので出してもらった状況から申し上げると、いわゆる妹に買ってやった時計がなくなったんだということで、ここに警察の人も来てるんだがそれについて品触れを作るということだから、それに似た物か、あれば同じ物を、というようなことになったんじゃないかと思いますが」

山上弁護人=「そういう話を中田健治さんが店の方に話をして、すぐ出てきましたか」

証人=「三十分や一時間は優にかかりましたね」

山上弁護人=「その時に時計屋さんが保証書があればすぐ分かるんですがな、というようなことを言ってませんでしたか」

証人=「記憶はございませんが言ったと思います、それがあれば簡単ですから。それはただし推測ですからはっきりしたことを申し上げかねますが」

山上弁護人=「しかしあなたが行った五月八日当時は品触れを作らなきゃいかんし、テレビに時計なんかの写真を出す準備をそろそろ取りかからなければいかん、大変な関心があなたにはありましたか、どういう時計かという」

証人=「もちろん関心はございますが、月日が経ってるから記憶がございませんと、こう申し上げているんです」

山上弁護人=「受け取った時には、時計は何か箱に入っておったんですか、むき出しで出されたんですか」

証人=「・・・・・・むき出しかも知れませんな」

山上弁護人=「それからどうなったんです、その時計は」

証人=「要するに上司に提出してありますね」

山上弁護人=「上司は誰に」

証人=「当時はたくさん居たからな、上司が・・・・・・いわゆる捜査の本部長をしていたのは中さんですか、そのほか飯塚課長、そのほかもっとおりましたな、清水警部だとかというような方の所ですね、誰の所へということは記憶ございませんが」

山上弁護人=「時計を借りる時に借用書を入れましたか」

証人=「入れたと思いますな」

山上弁護人=「誰の名義で」

証人=「私の名義で入れたと思います。人の物をただもらって来るというのは間違ったことですから」

山上弁護人=「その借用書は今も時計屋さんにあるんですか」

証人=「その借用書が私のところへ戻っていないですから、だから時計屋さんにあるいはあるかも知れません」

山上弁護人=「将田さんか何かの証言だったと思うけれども、あなたが時計を返しに行ったんですか、それとも警察で買い取ろうということになったとか、どうとか言う証言もあるんですが、その点、借りた時計の運命はどうなったんですか」

証人=「時計屋さんに戻ったか、ないしは警察の方で買い取ったか、その点はっきり記憶がございません」

山上弁護人=「あんたしかし一般の時計屋さんから時計を借りて来て借用書まで入れてそんな無責任なことをするの」

証人=「無責任と言えば無責任かも知れませんが、まあ」

山上弁護人=「とにかくどうなったかわからん」

証人=「ええ、分かりません」

(続く)

                                            *

○警察が時計屋から借りた腕時計は、その後ゆくえが分からないという証言があるが、これは中々重大な案件であり、「どうなったか分かりません」では済まされぬ問題と思われる。

当時、本件の捜査が正確、精密に遂行されたならば、現在、検察庁の証拠品保管室には二つの腕時計が保管されていなければならない。言うまでもなくそれは被害者の腕時計及び時計屋より借りて来た、未返却の腕時計の二つである。これらは再審弁護団による証拠開示請求を経て、まず二つの腕時計が存在するかどうか、是非とも確認したいところである。それはなぜか。松本清張の短編推理物が大好物な、老生による黒い推測によれば、茶畑で発見された腕時計こそが借りて来た腕時計そのものであり、被害者が着用していた腕時計はそもそも見つかっていなかったと、このように推測するからである。

つまりこうである。昭和三十八年五月四日、被害者の遺体が発見され、四日後の五月八日、遠藤証人は中田健治氏らと時計屋から腕時計を借り、これを基に重要品触れのチラシ等を作成・配布、そして七月二日、茶畑より腕時計(借用した)が発見される。

発見現場には腕時計と共に古いビニール袋が捨てられていたが、これはここへ腕時計を運んだ人物が指紋の付着を避けるために使用したと老生は推測、これが残っていては警察にとって不都合との判断から、事実ビニール袋は領置されていない。

なお、腕時計の捜査に関連し作成された重要品触れの記載内容にも問題があり、時計の側番号、情報受付用の電話番号の誤記載など、ほぼ役立たない品触れとして完成されており、ここにも捜査当局による拙速な捏造からくる詰めの甘さが見られよう。

僭越ながら、なかなか筋の通った推測ではないかと思うが、これを決定付ける発言が、今回証人が述べた「借りた腕時計の行方はわからない」との証言でありこれはかなり考えられた供述と見る。やがていつの日か、被害者の腕時計と借りた腕時計の二つが検察庁に保管されているかどうか問われる時が訪れようが、その時のいわゆる抜け道を残す形として証言は述べられている。被害者の腕時計を発見出来ない当局は重要品触れの参考として借りて来た腕時計を被害者着用の物とし、これを茶畑から発見させ証拠品として領置、やがて検察庁へ送られた。したがって現在検察庁に保管されている腕時計は一つとなる。

以上は個人的な完全なる推測・憶測に過ぎない。