事件当時の狭山市近郊。
【公判調書2458丁〜】
「第四十八回公判調書(供述)」
証人=梅沢 茂
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中田弁護人=「それでは当審第三十三回公判に提出された狭山警察署から取寄せられた供述調書謄本ないし図面の写を示しますが、記録三〇六六丁以下に編綴されている調書の番号によって特定いたします。
(狭山警察署から取寄せたもの番号二十一、昭和三十八年六月二十日付関源三作成の供述調書の謄本を示す)
最後のところにあなたが謄本を作ったという署名があり押印もありますね」
証人=「はい」
中田弁護人=「この字はあなたの字ですか」
証人=「そうです」
中田弁護人=「あなたは前回も供述調書の謄本などを作ったということを言われたんですが、それは庶務の仕事としてですか。庶務の仕事をやってのちに聞込みなどいろいろなことをやったと言われたんですが、その時にもそういうことをやったんですか」
証人=「いやそれはそういう風に限定出来ないわけです。捜査本部員ですから昼間捜査から帰って来て夜作ったこともありますし、完全分業じゃなかったわけですから」
中田弁護人=「庶務の仕事をやっておられたのは早い時期でしょう」
証人=「そうですね」
中田弁護人=「その頃もすでに参考人と言いますか、などの調書を取るということもあったでしょう」
証人=「あったはずですね」
中田弁護人=「参考人の供述調書なども謄本を全部作っていたんですか」
証人=「やっぱり必要ない謄本は作らなかったんじゃないでしょうか」
中田弁護人=「そうすると参考人などの供述調書を作成したものについて、全部謄本を作るということではなかった」
証人=「と思います」
中田弁護人=「あなたが捜査に従事していた頃には」
証人=「はい」
中田弁護人=「(同、番号二十一添付の図面を示す)これをちょっとご覧になって、この図面をどういう風にして作ったか、その時の様子で思い出すことがあったら述べて頂きたいんですが」
証人=「どういう風なことですか」
中田弁護人=「この図面自体はあなたが書いたものですね」
証人=「そうですね」
中田弁護人=「そこに署名押印がしてありますから」
証人=「そうですね。どういう風にと申しましても、やっぱり原本があったから出来たんですね」
中田弁護人=「原本を横に、見ながら書いたとか、上から何かを置いて書いたとか、いろいろ書き方があると思いますが」
証人=「これは鉛筆で下書きをしたようになってますね。おそらく横か何に置いて見て書いたんでしょう」
中田弁護人=「横に置いて鉛筆か何かで書いたと、これを見て思う」
証人=「はい」
中田弁護人=「これは複写用紙を使っているようですね」
証人=「そうですね」
中田弁護人=「裏を見ると、この紙の下にもあったと思われますね」
証人=「カーボン紙が入っていたんですからあったんですね」
中田弁護人=「これは鉛筆で下書きをしたと見られる跡があるから一番上のように思われますが」
証人=「一番上だと思いますね」
中田弁護人=「謄本は何通作ったか覚えてますか」
証人=「その記憶は、そういうのも何通作れと言われて作るのですから」
(続く)
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ところで、狭山市田中地内の茶畑から発見された腕時計に関してであるが、警察が捜していた時計はシチズン・コニーであることは、特別重要品触を見ればそれは明らかである。
だが、見つかった腕時計はシチズン・ペットという機種であった。
警察はこの事実に"単なるミス"と弁解し蓋をした。しかし当局は特別重要品触に腕時計の詳細を載せるため被害者宅に赴き保証書を提出させている。つまり、発表された特別重要品触に記載の腕時計は、被害者着用の腕時計、その保証書に基づいて作成されたと考えられ、品触の情報は正確であったと思われる。
警察による特別重要品触に記載された腕時計の情報は正確であったのだ。
この書面を作成、のちに公開するにあたり、内部からの指摘は一切無かったとの特別重要品触作成者(警察官)の証言がそれを裏付けよう。
この、警察側より発表された特別重要品触に載ったシチズン・コニーは、しかし当局により"単なるミス"とされ排除、茶畑から見つかったシチズン・ペットこそが被害者着用の腕時計とされ裁判上でも認定されてゆくのである。なぜか、それは言うまでもなく茶畑から出て来たのはシチズン・ペットだからである。
問題の腕時計は表面から見ると非常に良く似ている。両者の違いを見抜くには裏面から見ると分かりやすい。
シチズン・コニー。
こちらはシチズン・ペット。
○事実として、捜索現場からシチズン・ペットが発見された以上(しかも石川被告の自供及び図面含む)、これは動かすことは出来ない。辻褄を合わせるとしたら、特別重要品触記載の情報が間違っていたとの選択しか残されていなかったと思われるのである。