アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 878

上二点の写真は、警察が被害者の時計として品触れを発表していた腕時計=シチズン・コニー。

こちらの写真は、発見された腕時計=シチズン・ペット、その裏側である。

【公判調書2738丁〜】

                    「第五十二回公判調書(供述)」

証人=青木一夫(五十六歳・川越市役所臨時嘱託)

                                           *

宮沢弁護人=「時計のことについて、ちょっとお伺いしますが、あなたがこの時計を捜査されるについて、時計の品触れをお出しになったか、その点は記憶ありますか」

証人=「品触れは捜査本部で出しました」

宮沢弁護人=「それはあなたが指示してやられたんですか」

証人=「いいえ、そのほうの分担がありましたので、そのほうの分担でやっております」

宮沢弁護人=「そうすると、品触れの内容ですね、紙それはあなたご覧になりましたか」

証人=「多分見たと思いますが、その見た時点はいつ頃でしたか、記憶ありませんが」

宮沢弁護人=「で、時計が発見されまして、その時計の現物をあなたは手に取ってご覧になりましたか」

証人=「多分、見たような記憶がありますが」

宮沢弁護人=「それはいつ頃のことでしょう」

証人=「どうも具体的にいつ頃と聞かれても、とにかく発見になった後ですから、発見になったのがおそらく・・・・・・・・・」

宮沢弁護人=「見たことはあるんですね」

証人=「見たような気がするんですが」

宮沢弁護人=「手にお取りになって見たこともあるわけですね」

証人=「今、ここで思い出そうとしてもその時計が四角だったか六角だったか、そういうようなものも思い出せない状態なんですが、何としても、どうも申し訳ありませんが記憶ありません」

宮沢弁護人=「手に取った記憶もないわけですか」

証人=「いや、取って見たか、見なかったかの記憶がないわけです」

宮沢弁護人=「そうすると、現実に現物を見たという記憶はあるわけですか」

証人=「現物でしたかね、どこかから、これと同じような時計だというものを借りてきたことがありましたよね。その時計だったか現物だったか記憶はありませんけれども、何か時計を見た記憶はあります」

宮沢弁護人=「そうすると、品触れに出ている時計と、それからその発見されたという時計とを対照されてご覧になったということはないんでしょうか」

証人=「対照しては見なかったように思いますがね、私は」

宮沢弁護人=「品触れで出した時計と、それから発見されたと言われる時計ですね、それと同じだったんでしょうか」

証人=「同じということは」

宮沢弁護人=「品触れ通りの時計が発見されたんでしょうか」

証人=「同じメーカーの時計で、同じ型の時計だったと私は聞いておりますが」

宮沢弁護人=「そうすると、あなたとしては同じだという風に理解されたわけですね」

証人=「同じという意味が、同じものが二つないわけですから、まあ、同種のものというしかないと思いますがね」

宮沢弁護人=「そういう風にあなたは理解されたわけですか」

証人=「はい」

宮沢弁護人=「品触れの時計と、発見されたという、その時計が現実には違っていたということはあなた聞いておりませんか」

証人=「いや、どうだったでしょうかね、違っていなかったと思うんですがね、よく分かりませんが、私どもはそういう証拠品のほうと調べるほうというのは、分かれてましたからね、で、今申し上げましたように、比べて見たかどうかと聞かれてもその記憶がないと、記憶がないということはおそらく、比べて見ていないと思うんですが」

宮沢弁護人=「そうすると、品触れの時計と、その発見されたという時計とが、事実は違っていたということはあなたは聞いていないんですか。あなたが確かめられてないというのは、少なくとも聞いてはいないんですか」

証人=「時計の品触れに番号書いてしまったという失敗の話は聞いておりますよ。しかし、その後、時計が発見になって、その品触れに出した時計の型と発見になった時計とが違っておったという話は聞いておりませんが」

宮沢弁護人=「そうすると、あなたはその石川君に対して、その時計を示して、発見されたという時計かどうか、とにかく、時計を示して、そして取調べにあたられたということはありますか」

証人=「それは先ほども聞かれたんですけれども、どうも、それが記憶がはっきりしないんですがね」

宮沢弁護人=「そうすると、あなた時計というのはですね、当初見たような記憶があるというので、先ほどちょっと証言されましたですね」

証人=「だから、見た時計がですね、見本に借りてきた時計だったか、現実に発見になった時計だったか、その点が今、はっきり思い出せないわけです。どっちかは見てますよ」

宮沢弁護人=「そうすると、その見本でもいいですよ、あなたが言われる見本でもいいですが、その時計を石川君に示して取調べにあたったというようなことはどうなんですか」

証人=「・・・・・・そういうことが仮にあるとすれば調書にあると思いますがね。調書にないとすれば、どうだったでしょうかな」

宮沢弁護人=「だけど、あなたはその調書にずいぶん、先ほど来の証言でも、たとえば道の真ん中に捨てたというようなことは調書に載っていないでしょう。だから、調書に載っていることと、載っていないこととあるからね、調書にない部分を聞いているわけですよ」

証人=「調書にないとすれば、私も、しかと申し上げられませんません」

宮沢弁護人=「そうすると、あったかも知れないし、無かったかも知れないと」

証人=「はい」

宮沢弁護人=「あなた、その現物の時計を持って、石川君を捜査されたということはどうなんですか」

証人=「現物を手に持ってですか」

宮沢弁護人=「示してですね」

証人=「その点が先ほど来、申し上げているように、そういうように時計を示した記憶が何としても浮かんで参りませんがね。それでどうも思い出せませんということを、先ほど伺いますと前回も答えているようですけれども」

宮沢弁護人=「だけど、石川君自体はあなたから時計を示されているように言っておるんですがね」

証人=「ああ、そうですか」

宮沢弁護人=「だから聞いておるんです。まんざら、根拠がなくて聞いているわけじゃないんですよ」

証人=「ああ、そうですか」

宮沢弁護人=「記憶がないですか」

証人=「はい」

宮沢弁護人=「それではもう一点だけお伺いします。あなたは今日最初の頃、牛乳壜の捜査の点についてご証言されましたですね」

証人=「(うなずく)」

宮沢弁護人=「牛乳壜はその調書によると二本というように書いてありましたですね」

証人=「はあ」

宮沢弁護人=「その二本の行方を追跡された記憶はありますか」

証人=「何か、さっきの調書にどういう風に書いてあったか、私も記憶がないんですけれども、捨てたところというのは一本、これは出ていると思いますね。それから、あと一本についてはどうだったでしょうかな」

宮沢弁護人=「そうすると、その、まあ、一本というのと、それから、その買ったと称するその店屋の牛乳と対照されたというようなことはありますか」

証人=「それは私はやっておらないと思います。誰かがやっているかも知れませんが」

宮沢弁護人=「やっているかも知れないというのは、何か記憶があるんですか」

証人=「先ほど来、申し上げましたとおり、私どもは調べの方にかかっておりましたから、そういう風に裏を取るとか・・・・・・」

宮沢弁護人=「そういうことは分からなかったわけですか」

証人=「分からなかったです」

(続く)

                                             *

私の、焼酎漬けの脳に刻まれた記憶によれば、狭山事件公判第一審において、石川被告は取調室(狭山署であったか川越署分室であったかは失念)で取調官から腕時計を見せられ、しかもそれを自身の手首に巻き、「善枝ちゃんの腕(手首)は案外太かったんだな」と語り、その場に居合わせた者たちが笑ったという証言があったような気がする。これは、腕時計のバンド穴の位置を基準に、自身の手首の太さを比較した発言ではなかろうか。同一人物が日常的に着用した腕時計の皮バンドの穴は、ある特定の穴がわずかに広がり、使用されないバンド穴は逆に変形を見せないと思われる。

つまり、石川被告が取調官から提示された腕時計を自分の手首にはめた時、バンド穴を留めるに際し、複数開けられているバンド穴から使用痕のある穴を選び着用した結果、前述の取調室での発言が生まれたと私は推測し、したがって石川被告が取調室で見せられた、被害者の着用した腕時計と同一の時計とされるそれは、少なくとも未使用ではなく、バンド穴の一つに使用痕(やや穴が広がるなどの)が存在する腕時計ではないかと考えた。邪推かも知れぬが、この推測は、捜査官が被害者の兄とその友人を連れ、御徒町だったかどこかで被害品と同一の腕時計を借り受け、それを被告に示したという証言を覆すことにつながる。