アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 788

【公判調書2448丁〜】

                     「第四十八回公判調書(供述)」

証人=梅沢   茂

                                            *

宮沢弁護人=「時計の発見はどなたかご存じですか」

証人=「さあ、当時は知っておりましたが、もう覚えておりません」

宮沢弁護人=「小川松五郎さんという方ではなかったんですか」

証人=「その点は、ちょっと記憶ありません」

宮沢弁護人=「どなたかが発見されたということは聞いているんですね」

証人=「聞きました」

宮沢弁護人=「その家へ聞込みに行ったというようなことはあるんですか、あなた自身は」

証人=「小川松五郎という人の記憶がないんですから、その点は記憶ははっきりしません」

宮沢弁護人=「誰かほかの人はそこに捜査に行かれたということは聞いておられるんですか」

証人=「当時聞いたかも知れませんが、今になっては記憶ないんです」

宮沢弁護人=「あなたはさっき仰ったが、発見した場所にはあなたは立会ってないんですね」

証人=「立会っておりません」

宮沢弁護人=「発見されたということは後から聞いたんですか」

証人=「後から聞きました」

宮沢弁護人=「そこで、あなたが時計の捜査を命ぜられて捜した範囲は大体どの辺ですか。あなたが捜した範囲。投げた、という証言が前回ありましたね、赤印が発見された場所だとされておるところですが、そこを中心としてどの辺あたりまで捜されたんでしょう」

証人=「道路の西側で・・・・・・」

宮沢弁護人=「茶畑という風に書いてあるところの下の道路」

証人=「とにかく小さいものですからそう広い範囲はやらなかったはずです」

宮沢弁護人=「時計が発見された現場付近は調べられている」

証人=「行っております」

宮沢弁護人=「棒か何かで捜された」

証人=「はい」

宮沢弁護人=「発見されたその赤印の地点、その周囲はやられたんですね」

証人=「やっております」

宮沢弁護人=「(原審一三五七丁、昭和三十八年六月二十二日付清水利一作成の実況見分調書を示す) その中の一三六一丁裏に巡査部長梅沢茂、これはあなたですね」

証人=「はい」

宮沢弁護人=「この実況見分に補助者として立会われたことは間違いない」

証人=「はい」

宮沢弁護人=「この実況見分は一日で終わったんですか」

証人=「さて、その辺も明確ではありませんが」

宮沢弁護人=「そうするとあなたが実況見分に立会ったのは時間にして、何時頃からですか」

証人=「時間の点も分かりません」

宮沢弁護人=「この前、夕方暗くなったようなことを言われましたね、状況のそういう証言があったように思うんですが」

証人=「暗いところだったという風に、要するに山林の下ですから畑の中ではありますけれども、非常に暗いようなところだったと」

宮沢弁護人=「あなたが行った時にカバンを取り出されたことはあったんですね」

証人=「ありました」

宮沢弁護人=「カバンを発見されたその日に実況見分のその場に立会われたことも間違いないんですね」

証人=「行っております」

宮沢弁護人=「そうするとその調書は二日間に渡ってやられたようになっておりますが、翌日の午前中も、二日目も行ったことは間違いないですね」

証人=「それが、二日に渡ってやったかどうか記憶ないんですが」

宮沢弁護人=「実況見分調書にはそういう風になっておりますが、それでちょっとお聞きしたいんですが、それとカバンの発見場所はどこでしょうか(原審一三六四丁、実況見分調書添付第二図を示す)」 

証人=「桑畑の中のような記憶があるんですが」

宮沢弁護人=「この図面だと発見場所とされているのは溝の中のように記されているんです。あなたの記憶ではやはり桑畑のように思う」

証人=「私は桑畑の中にあったと、あまり違いませんが。溝も桑畑もすぐそばですからね」 

宮沢弁護人=「前回も私、何回か確認したんですが」

証人=「私は桑畑というように記憶しております」

                                            * 

宇津弁護人=「証人は時計が発見されたという付近を実際に捜されたんですね」

証人=「はい」

宇津弁護人=「あなたが捜すのに従事したのは一日ですか、二日ですか、あるいはもっとあったんですか」

証人=「その点がはっきりしておりません」

宇津弁護人=「なるべく思い出して下さいね、記憶が薄れているようだけれども。時計の現場の捜索をする時に発見されたという地点の下の方に機織屋がありますね」

証人=「ございます」

宇津弁護人=「機屋(原文ママ)さんから何か"まぐわ"のようなものを借りて、農具を借りて来て捜した記憶はありませんか」

証人=「さあ、記憶ありませんが」

宇津弁護人=「あなたご自身じゃなくても、どなたか借りて来て捜しておったという状況があるのではないですか。あれは"まぐわ(馬鍬=筆者注)"というんですか、三本か四本刃が出てて、畑仕事に使う農具ですが」

証人=「草を掻き分けるために使ったかも知れませんですね、記憶はありませんが」

宇津弁護人=「誰か借りて使ったかも知れませんという程度ですか」

証人=「そうですね、そういう記憶はないわけですから」

宇津弁護人=「今の証言はどういう意味ですか」

証人=「私一人じゃないですから、あるいは誰か私たちの同僚が借りたかも知れないということですが、私は記憶がないということです」

宇津弁護人=「自分が借りたという記憶はないが、同僚が借りたかも知れないということですか」

証人=「はい」

宇津弁護人=「それから聞込みにも従事されたようですね」

証人=「はい」

宇津弁護人=「時計が発見されたという現場の近くに時計を発見したことになっている老人が住んでいることは名前はともかく、あなたは聞込みによって知っておったわけですか」

証人=「その老人の記憶が今、ないわけなんですが」

宇津弁護人=「のちに発見されたというところの付近に老人がいて、そこにあなたも行って何らかの聞込みをしたという記憶はあるんですか、ないんですか」

証人=「何か上司から私は嫌味を言われたような記憶があるんです。お前等は何を捜していたんだ、あの付近にあったんだぞ、というような小言を言われたような記憶があります」

宇津弁護人=「誰に」

証人=「誰であったか、その点は分からないんです。私は当時巡査部長でしたから上に警部がおりましたし」

宇津弁護人=「私の質問に答えていただいてないんですが、私の聞いているのは発見されたという現場付近に住んでいる老人に面接聞込みをしたことがあるかないかと。あなたはそらされるような証言をされるけれども」

証人=「その点は記憶にありません。老人と申しましても大勢おりますから」

宇津弁護人=「弁解する必要はないですけれども、そうするとあなたがのちに時計が出てきたという地点の付近の聞込みには従事されたんですね」

証人=「従事しております」

(続く)

                                             *

警察による被害者の腕時計の捜索に関連し、「狭山差別裁判・第三版(部落解放同盟中央出版局)」には次のような記述がある。

『(警察は)小川老人が時計を発見した場所までは捜索の範囲が及ばなかったというのだ。少し詳しく言うと石川(被告人)が時計を捨てたという場所から五メートルの範囲だけを調べたのであって、そこから二メートル向こうの時計があった場所にまで及ばなかったと説明している。これはまったく実際を離れた机上論である。現地で見れば分かるが、本当に捜す気なら、五メートルの範囲からもう少し延ばせば、写真の電柱の所で茶畑の畝の端になるのに、そこまで捜さないことが疑わしい。疑わしいというよりも、二畝も茶畑の中に入って捜索にあたった警察になら、むしろその端まで捜すのが普通である。しかも時計は、道からわずか四十五センチ離れただけの茶の木の根元から発見されている。これが二日(間)も捜索して見つからないはずはないし、第一、人目に付きやすい場所に二ヶ月近くも誰にも見つからないというのがおかしい。この道路の近くには民家がかなり多く「この部落にはかなりの農家があるので、昼間の中は結構通ります。自動車や三輪車も時々通りますが、その多くの人は自転車に乗った人や歩きの人です。」と小川老人が小島警部に述べている場所なのである』

矢印の立札の下付近で腕時計は発見された。そして写真右端の電柱がこの茶畑の端となっている。

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警察が昭和三十八年五月八日に全国に対して行なった品触れの時計の側番号は根拠なしに発表するわけはなく、これは時計の捜査にあたった当時の鈴木巡査部長による被害者家族から提出させた時計の保証書に基づいたものと思われる。

一九六三年、茶畑で発見された腕時計の針は、小島警察官の実況見分調書によれば八時三十分二十八秒を指していた。ところが五年後の一九六八年十一月十一日、中田弁護人が東京で見たときには五時二十六分二十七秒を指していたという。

警察発表の品触れによると、外形はシチズン・コニー一七石の六型長方形、金色中三針。

側番号                     六六〇三、二〇五〇六七八。

発見された腕時計  六六〇八、一〇八五四八一。